トイレ+デジタル広告?トイレットペーパーが広告業界に旋風を巻き起こす

市場背景

データ分析サービスなどを提供する易観(analysys)が発表した[中国数字経済全景白皮書(日訳:中国デジタル経済全容白書)]によると、中国のオンラインデジタル広告の市場規模は右肩上がりの成長を続け、
2018年:3,694億元(6兆2,798億円)
2019年:4,367億元(7兆4,239億円)
2020年:4,957.6億元(8兆4,279億円)となっている。
背景には、スマートフォンの急速な普及によるネットユーザーの増加などが挙げられる。
★中国オンラインデジタル広告市場規模

※[中国数字経済全景白皮書(日訳:中国デジタル経済全容白書)]より抜粋

紙巾宝(zhi jin bao)とは?

紙巾宝(zhi jin bao)は杭州数策指今科技有限公司が運営する、「公衆トイレのトイレットペーパー無料提供+デジタル広告運用」サービスを提供するブランドである。創業者の白培新は2007年からインターネット業界に関わり始めた。彼はテクノロジーこそがビジネスを動かすドライバーになり、テクノロジーこそが社会問題を解決するという信念をもち、2017年から紙巾宝のプロジェクトを開始した、2018年に会社が設立されサービス提供を開始した。
ビジネスの詳細を記載する前に、中国の「公衆トイレ事情」を知って頂きたい。殆どと言っていいが中国の公衆トイレにはトイレットペーパーがない。紙巾宝のオフィシャルサイトにも、中国の99%の公衆トイレにはトイレットペーパーが設置されていないと記載されている。99%が確かな数字かはさておき、感覚的にはほぼそれに近い。また過去には政府も公衆トイレの環境について問題視し、2015年から3年間に渡り観光地での公衆トイレの環境改善を行う「トイレ革命」というプロジェクトを行ったほどだ。紙巾宝は公衆トイレにトイレットペーパー無料提供機器を供給しその機器を通して広告配信を行う新たなビジネスモデルで注目されている。売上などの業績情報は公開されていない。
★紙巾宝オフィシャルサイト

※紙巾宝オフィシャルサイトより抜粋

企業情報

企業名:(中)杭州数策指今科技有限公司

ブランド名:紙巾宝

設立:2018年8月

創設者:白培新

資本金:143万元(2,431万円)

紙巾宝のビジネスモデルと収入源

<サービス1:公衆トイレへのトイレットペーパー提供機器の設置>
紙巾宝は公衆トイレにトイレットペーパーを提供する機器を設置し、利用者が無料でトイレットペーパーを使用できる環境つくりを始めた。このトイレットペーパー無料提供機器のブランド名が紙巾宝である。日本では街中のティッシュ配りなどで無料でもらえることが当たり前になっているが、中国ではポケットティッシュなどは基本お金を払って買うものだ。無料でトイレットペーパーを貰えるのは非常にありがたい。今日頭条の配信アカウント[金融界]の記事によると、紙巾宝は2021年12月時点で中国200以上の都市に3万台を超える機器を設置し、毎年の利用者は1,500万人にのぼる。杭州数策指今科技有限公司は技術開発にも力をいれており、業界内において70%の特許技術を取得しており業界のリーダー的存在になっている。機器の設置先は商業施設、観光地、飲食店、交通の要衝など人流が多く、滞在時間も比較的長い場所がメインだ。この機器は無料で各施設に取り付けられている。

★無料トイレットペーパー提供機器[紙巾宝]

※紙巾宝オフィシャルサイトより抜粋

★鉄道の駅、観光地など様々な公衆トイレに設定されている。

※紙巾宝オフィシャルサイトより抜粋

<サービス2:デジタル広告配信>
紙巾宝のすごいところはこのトイレットペーパーの無料提供機器を通してデジタル広告を配信するところにある。
杭州数策指今科技有限公司のチームの多くはAlibaba、Tencent、大衆点評、HuaweiなどITテック企業などの出身者で構成されている。独自でADX(Ad Exchange)自動広告出稿プラットフォームを開発し、LBS、設備、シチュエーションなどの物理情報に基づき、個人属性データの収集と分析を行い、広告主に対して地域・性別・消費金額・使用シーンなどの細かいセグメントに対してより効率的な広告出稿ができるサービスを提供している。
広告主が出稿する広告と消費者のタッチポイントが公衆トイレなどに設置されている紙巾宝である。オンライン上のデジタル広告はBAT(baidu・Alibaba・Tencent)などのIT企業が多くのシェアを握っており参入余地は限定的である。しかしオフライン、しかも「トイレ」をデジタル広告の新たなタッチポイントとすることで、他社との差別化を行いサービス拡大を成功させた。紙巾宝からトイレットペーパーを取り出すときに機器に貼付されているQRコードを読み取る必要がある。QRコード読み取り後~トイレットペーパーがでてくる数秒間に広告が露出されるという仕組みである。露出できる広告も様々で、ディスプレイ広告、クリック系広告、Wechatミニプログラムへの誘導、Wechatアカウントのフォロー画面露出など様々な用途に合わせた広告を出稿することができる。広告主からの広告出稿費用という収入源があるおかげで、紙巾宝は公衆トイレに「無料」で設置することができるのである。紙巾宝の設置費用は広告主が支払っている構図になっている。
公衆トイレという年齢・性別・職業など問わずほとんどの人が利用する場所を、新たな「トラフィック獲得ポイント」という位置づけにした点で紙巾宝は広告業界に革新を起こした。Alibaba・Tencentなどもこのビジネスに注目し杭州数策指今科技有限公司との取引を行っている。

サービス詳細

①トイレに設置されている紙巾宝のQRコードを読み取る
②スマホ上でトイレットペーパー受け取りを承認する
③広告が露出される
④トイレットペーパーが出てくる

※bilibili動画より抜粋
▶ここをクリックすると動画を見ることができます

ビジネスモデル

まとめ

紙巾宝の創業者の白培新の信念「テクノロジーこそがビジネスを動かすドライバーになり、テクノロジーこそが社会問題を解決する」。これから世界がより良い方向に発展するためには欠かせない考え方だと思う。無料のトイレットペーパー提供機器は公衆トイレの環境を大きく改善させることに貢献しているが、これだけだとビジネスとして成長させるのには限界がある。しかし紙巾宝はこれに広告配信という商業価値を付与したことで、公益活動とビジネス活動は両立可能であると証明した良い事例である。

参考記事

※中国数字经济全景白皮书
https://www.analysys.cn/article/detail/20020295
※万亿级准独角兽即将诞生,数策指今纸巾宝估值将超1亿美金
https://www.toutiao.com/a7030706802815713800/?channel=&source=search_tab
※重磅!杭州数策指今纸巾宝成为阿里旗下“飞猪”流量服务商
http://www.xunjk.com/xinwen/cy/2021/0330/032021_139418.html
※紙巾宝オフィシャルサイト
http://www.zhijinbao.cn/
※数策指今纸巾宝完成数千万A轮融资,赋能精准营销再升级
https://www.lieyunwang.com/archives/480054
※数策指今纸巾宝获A+轮融资,希投投资领投
https://www.lieyunwang.com/archives/480421
※开启IPO进程!数策指今纸巾宝正式进入北交所上市辅导期
https://www.pcpop.com/article/6602137.shtml
※6家资本布局,数策指今纸巾宝新一轮融资在即,有望跻身准独角兽行列
https://finance.ifeng.com/c/8BByc6RKfnC
※专注厕所流量生意,纸巾宝年赚数千万,太神奇的商业模式!
https://i.ifeng.com/c/83LhHsNU8Rb
※马云预言成真:取代房子,这才是未来五年最好的投资!
https://xueqiu.com/9098011423/163815638
※融资丨「数策指今纸巾宝」完成A+轮融资,杭州希投投资领投
https://www.toutiao.com/a7055585080671994405/?channel=&source=search_tab

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。