メンタル疾患の患者を救う:心療内科サービスアプリ【昭陽医生】

背景

心療内科サービスアプリ【昭陽医生】が発表したレポートによると、2017年中国のメンタル疾患の患者数は2億4,326万4千人に達し、当時の中国人口の17.5%を占めていた。その後も患者数は増加の一途をたどっている。しかし、2019年に発生したコロナウイルスの感染拡大により外出が禁止され、患者が心療内科や精神科へ通院することができなくなる事態が発生した。そこで急激に需要が伸びたのが、【オンライン診療サービス】だ。同レポートによると、2020年2月にオンライン診療を始めた医師は1月に比べ
186%増加。2020年は2018年に比べ114%増加している。また、2020年にオンライン診療サービスを利用した患者は2019年に比べ130%増加している。

★2017年時点で中国のメンタル疾患の患者数は2億4,326万4千人

※昭陽医生:<2020年中国精神心理健康互聯網洞察報告>より抜粋

★2020年医師・患者ともオンライン医療の利用が増加した

※昭陽医生:<2020年中国精神心理健康互聯網洞察報告>より抜粋

昭陽医生(ZHAOYANG DOCTOR)とは?

昭陽医生(ZHAOYANG DOCTOR)は昭陽健康(広州)科技有限公司が運営する、オンライン心療内科サービスである。創設者である林昭宇は、過去に自身もメンタル疾患を患った経験がある。小学6年生の頃、彼は毎回テストの度にある行動を取っていた。テストの解答は、設問の最後にある括弧内に記入する必要がある。しかし、彼は解答を記入するまでに決まって下記のような行動を取っていた。
1周目:まずは正解の選択肢にチェックをつける。
2周目:次に設問の先頭に正解の選択肢を書く。
3周目:最後にようやく設問の括弧内に解答を書く。
意味のない作業と分かっていても、彼はこのルーティンをやめることができない。
結局、時間切れとなり彼は学校で最下位の成績となった。家族にこの事を話すが、家族は病気だとは思わなかった。彼自身もこの解答方法をやめるように努力するが、改善には至らなかった。最終的に精神科で検査を受けたところ、強迫性障害だと診断された。1年の治療期間を費やし、彼の症状は完治した。後に、彼自身も精神科の医師となるのである。

精神科の医師として従事する中で、彼は当時の中国の精神科医療にある課題を感じていた。
患者数に対して医師の人数が少ないため、診察後の定期的なフォローアップができない事態が起こっていた。そんな折、彼はアメリカで精神科医療の視察に参加した。そこでは患者が精神科医の診察を受ける前に、医師以外の専門スタッフが患者の症状や情報を収集し、医師に事前に伝えることで診察の効率を高めていた。林昭宇はITの技術を使うことで、中国でも精神科医の診察効率を高め、フォローアップなどの時間を生み出すことができないかと考えた。この考えが昭陽医生(ZHAOYANG DOCTOR)の誕生につながる。


※昭陽医生(ZHAOYANG DOCTOR)コーポレートサイトより抜粋

企業情報

企業名:昭陽健康(広州)科技有限公司

ブランド名:昭陽医生(ZHAOYANG DOCTOR)

設立:2015年5月

創設者:林昭宇

資本金:216万元(3,693万円)

従業員数:~50人

昭陽医生(ZHAOYANG DOCTOR)の収入源

昭陽医生の収入源は主に2つ。
①処方箋による医薬品販売
②患者の診察費用 となっている。
主に【①】の売上が収入の大半を占めている。キュレーションメディア今日頭条のアカウント<铅笔道(鉛筆道)>の記事によると、2019年時点で医薬品の月の売上が500万元(8,550万円)を超えた。

サービス詳細

昭陽医生(ZHAOYANG DOCTOR)のサービスはスマートフォンのアプリで利用できる。
コーポレートサイトでは、登録ユーザー(患者)数が500,000以上となっている。

★アプリトップページ

※昭陽医生(ZHAOYANG DOCTOR)アプリより抜粋

主なサービスは下記3つ。
1.オンライン診療
登録されている医師の中から選択し、テキストチャット、電話、ビデオチャットなどの方法で診療を受けることができる。オンライン以外の対面診療の予約も行なうことができる。昭陽医生のコーポレートサイトの情報では、登録医師は10,000人以上となっている。診察料金は医師自身が決定できるので、一律料金ではない。
料金の一例は下記の通り。
①テキストチャット:
15通:10元(170円)
②電話
5分:15元(256円)
20分:100元(1,710円)
50分:300元(5,130円)
③ビデオチャット
10分:50元(855円)
15分:100元(1,710円)
30分:200元(3,420円)
60分:400元(6,840円)
運営企業である昭陽健康(広州)科技有限公司は、オンラインのプラットフォーム以外に、【心晴門診(XinQing Clinic)】というメンタルクリニックを経営している。もちろん昭陽医生のアプリ上で同クリニックの医師の診察を受けることも可能だ。
創設者の林昭宇も医師として登録しており、精神科医として現在も活躍している。

★診療予約ページ

※昭陽医生(ZHAOYANG DOCTOR)アプリより抜粋

★メンタルクリニック【心晴門診(XinQing Clinic)】

※心晴門診(XinQing Clinic)コーポレートサイトより抜粋

2.処方箋の受付
電子処方箋を持っていれば、オンラインで処方箋を受付け、宅配で薬を受け取ることができる。

3.カウンセリング
精神科の医師の診療以外に、心理カウンセラーによるカウンセリングを受けることもできる。医師と同じように、オンライン、対面などの方法を選択することができる。
料金の一例は下記の通り。
①電話
50分:700元(11,970円)
100分:1,300元(22,230円)
②ビデオチャット
50分:700元(11,970円)
100分:1,300元(22,230円)

★カウンセリング予約ページ

※昭陽医生(ZHAOYANG DOCTOR)アプリより抜粋

メインサービスの他には、
・健康関連商材のオンライン販売
・瞑想関連のオンライン教材販売などもある。


※昭陽医生(ZHAOYANG DOCTOR)アプリより抜粋

ビジネスモデル

まとめ

日本ではオンライン診療の普及はまだ進んでいない。2018年に再診のみ解禁されたが、初診は2020年4月にコロナウイルスの感染拡大に伴った一時的措置してのみ認められている。オンラインでの初診対応の恒久化は2022年度となっており、まだ時間がかかる。中国ではすでにオンライン診療が普及しつつあり、この分野では日本の先を行っている。心療内科や精神科などのメンタル関係の通院は、患者側としても少し躊躇することがあるのではないだろうか。オンラインであればそのハードルも下げることができる。今回紹介した企業以外にも多くの企業がこの分野に参入している。
中国で新しいテクノロジーやサービスが急速に普及する背景に、
1.政府や行政機関は最初からさまざまな規制を強いるわけではなく、市場が急成長するまである程度自由にビジネスができる状態にしておく。2.市場がある程度大きくなり、様々な課題が出てくると規制を強める、という傾向がある。中国は新たなビジネスを育てるのが本当に上手い。

参考記事

※1昭陽医生(ZHAOYANG DOCTOR)コーポレートサイトサイト
https://www.zhaoyang120.com/

※2昭阳医生:《2020年中国精神心理健康互联网洞察报告》
http://www.100ec.cn/detail–6593342.html

※3林昭宇:从精神科医生到创业者
https://zj.qq.com/a/20190726/005860.htm

※4线上版精神专科门诊融资5千万:数万名患者线上复诊药品月售500万
https://www.toutiao.com/a6731509450198237708/?channel=&source=search_tab

※5心晴門診(XinQing Clinic)コーポレートサイト
https://www.xinqingclinic.com/#/home

※6日本経済新聞:オンライン診療、22年度から恒久化 規制改革計画が決定
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA17EYP0X10C21A6000000/

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。