実は日本のあのサイトをモデルにした、零細企業を支えるMRO調達サイト

背景市場

iResearchが発表した[2021年中国工業品B2B市場研究報告]によると、2020年の中国工業品市場規模は10.6兆元(190兆円)。2025年には予測ベースで13.2兆元(237兆円)まで成長すると見られており、非常に大きな市場といえる。市場の内訳を見ると、生産設備の保守、修理、稼働に必要な工具、消耗品、補修用品などの資材を指すMRO(Maintenance Repair and Operations)と呼ばれるカテゴリが約20%を占めており、その市場規模は2020年で2.1兆元(38兆円)となっている。
また販売チャネルで見ると、ECにおける市場規模の成長が著しい。2020年は0.47兆元(8.5兆円)だった市場が、2025年には予測ベースで1.75兆元(32兆円)と4倍近い成長が見込まれている。工業品市場の成長の背景には、中国政府の国家戦略が大きく関係している。2015年5月に国務院は<中国製造2025年戦略>を発表し、中国が「製造大国」から「製造強国」へと転換するための大規模なプロジェクトを推し進めている。戦略の9大目標のうち、”情報化・工業化融合の深化”というものがある。言い換えるとデータやテクノロジーを駆使した”スマート製造”ができる環境を構築することを目標の1つとしている。
今回は[MRO×スマート製造]の分野で大きく成長している企業を紹介したい。

★中国工業品市場規模

※iResearch 2021年中国工業品B2B市場研究報告より抜粋

★中国工業品B2B Eコマース市場規模

※iResearch 2021年中国工業品B2B市場研究報告より抜粋

易買工品(YESMRO)とは?

易買工品(※以下YESMRO)は上海摄提信息科技有限公司が運営する、MRO(Maintenance Repair and Operations)の調達ECサイトである。21経済網の記事によると創業者の朱洪涛は、アメリカに本社をおく事業者向け間接資材のB2B販売企業である”W.W. Grainger”の中国エリアEC創業者を務めた人物である。W.W. Graingerと聞くと馴染みはないかもしれないが、製造業などの現場で使用する工具や部品を販売する通販サイト[モノタロウ]の親会社である。朱洪涛は中国エリアのEC創業者としてモノタロウのビジネスモデルを中国で浸透させることに尽力した過去を持つ。MRO業界については相当な経験とノウハウを持っている人物であることがわかる。
また同記事で朱洪涛はYESMROの目標を次のように語っている。「企業設立のその日から、我々の使命は零細企業のために良質なサービスを提供することで、零細企業がもっと簡単に、もっと安く、もっと便利に工業製品を買えるようにする事だ。そして我々の理想は100万に上る製造業の企業にサービスを提供できる工業製品小売企業になることである。」
零細企業の特徴として、1.部品の大量調達はしない2.スポット発注で部品を調達したいというニーズが大きい。しかし従来の調達方法の場合、小ロット発注は場合調達単価が高く、調達ルートも仲介業者が複数存在し単価をせり上げる構造になっていた。業界の構造を変えたとういう意味でもYESMROが業界に与えた影響は大きい。

sina.comの記事によると2016年に会社を設立し、2017年からサービスの本格提供を開始したYESMROは年々業績を伸ばしている。会社設立以来、年間売上成長率200%を維持し、月間GMVは1億元(18億円)に迫る勢いで、記事が発表された2022年1月時点では過去半年間で粗利率が倍になったとされている。MROECサイト市場規模の成長や企業自体の成長に伴いYESMROは投資家からの注目を集め、100EC.CNの記事よると2019年9月に1,000万ドル(11.5億円)、2020年12月にも数千万ドルの巨額融資の獲得にも成功している。

★YESMROオフィシャルサイト

※YESMROオフィシャルサイトより抜粋

企業情報

企業名:(中)上海摄提信息科技有限公司

ブランド名:易買工品(YESMRO)

設立:2016年4月

創設者:朱洪涛

資本金:100万元(1,800万円)

YESMROのビジネスモデルと収入源

YESMROのメイン事業はECサイト運営なので、収入源はもちろんECサイトでの取引で発生する売上となる。YESMROが優れているところは「お客様がほしい商品は切らさない」という点にある。36Kr.comの記事によると約110万のSKUを扱い、そのうち80%は常に在庫がある状態にしておき、オンタイム出荷率は95%と非常に高い。YESMROは「テクノロジー+データドリブン」を活用することで効率的な在庫管理を行っている。主要なITシステムをすべて自社で開発しており、データから顧客のニーズを分析し生産予測などを可能としている。在庫回転率は業界水準5~10倍となり、1.顧客が求める商品は常にある状態にするが、2.過剰在庫にはしない、という理想の状態を作りだしている。その徹底した在庫管理により顧客の満足度を高めることに成功した。その結果はデータにも反映されており、36ヶ月間またはそれ以上の顧客継続率は50%を超えている。
YESMROはさらなる商品供給能力強化を図るため、これまで部品メーカーから調達していた商品に加え、非標準機械部品の加工工場を自社で構えることで、自社ブランドの製品販売もスタートさせた。また2021年には自社のセンター倉庫をAGV(Automatic Guided Vehicle)を活用することでオートメーション化するなど、テクノロジーによる業務効率化を推し進めている。

サービス詳細

商品はWEB、アプリ、Wechatミニプログラムなどから購入することができる。
110万SKUを取り扱っているだけあって、工業用部品からオフィス備品まで非常に豊富なカテゴリの商品を扱っている。

★YESMRO Wechatミニプログラム

※YESMRO Wechatミニプログラムより抜粋

★YESMRO ECサイト


※YESMRO ECサイトより抜粋

ビジネスモデル

まとめ

[中国製造2025年戦略]に代表されるように、中国は国家主導で製造業の発展を推し進めている。YESMROもそのような時流のもと大きく成長した企業と言えよう。しかしそのビジネスモデルの背景には実は日本のサービスのエッセンスが取り入れていたりする。中国ビジネスでよく言われることのなかで「ローカライズ」というものがある。中国の市場や消費者の特徴に合わせて現地流にカスタマイズするという意味である。しかし、過度のローカライズは日本企業と中国企業との差別化を難しくさせる一面もある。日本企業だからこそ中国市場で勝てる要素はまだまだ残っているはずだ。

参考記事

※YESMROオフィシャルサイト
http://www.yesmro.cn/
※工业品电商平台易买工品完成数千万美元C轮融资
https://www.36kr.com/p/1584548773481216
※「易买工品」完成数百万美元A+轮融资,面向MRO长尾市场增加现货品类
https://www.36kr.com/p/1724968845313
※易工品(易买工品运营模式)
https://www.nx10.cn/codes/147463.html
※2021年中国工业品B2B市场研究报告
https://report.iresearch.cn/report_pdf.aspx?id=3784
※易买工品完成1000万美元A轮融资
https://xueqiu.com/5483995283/132667783
※易买工品完成1000万美元A轮融资,经纬中国领投、磐霖资本持续加码
http://www.21jingji.com/article/20190911/herald/bf75ed44e228675fc01ab1d3243ca67a.html
※易买工品完成数千万美元C轮融资 |【经纬低调新闻】
http://finance.sina.com.cn/tech/csj/2022-01-24/doc-ikyamrmz7081126.shtml

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。