背景市場
中国の国家信息中心(The State Information Center)が発表した「中国共享受経済発展報告2021(中国シェアリングビジネス発展レポート2021)」によると、中国のシェアリングビジネスの市場規模は、
2018年:2兆9,420億元(50兆140億円)
2019年:3兆2,828億元(55兆8,076億円)
2020年:3兆3,773億元(57兆4,141億円)
となっており、シェリングビジネス市場は依然成長を続けている。これまでにも、自転車/電動バイク、民泊、オフィス、医療など様々な業種でシェアリングビジネスが生み出されてきた。また、シェアリングビジネス市場の中で特に市場が大きいのが「生活サービス系」である。全体市場の47.89%をこのカテゴリが占めている。
★シェアリングビジネスの市場規模
※「中国共享受経済発展報告2021(日訳:中国シェアリングビジネス発展レポート2021)」より抜粋
★シェアリングビジネスの市場比率
※「中国共享受経済発展報告2021(日訳:中国シェアリングビジネス発展レポート2021)」より抜粋
熊猫遛娃(pandastroller)とは
熊猫遛娃(pandastroller※以下pandastroller )は上海環莘電子科技有限公司が運営するキッズスクーターのシェアリングサービスである。創設者の趙為はpandastrollerを立ち上げる前にシェアサイクルのビジネスを立ち上げ、シェアリングビジネスの経験やノウハウを蓄積していった。中国では2016年に一人っ子政策が撤廃され第二子まで出産することが可能となった(2021年には政府が3人目までの出産を認める法律を施行)。今後一家族あたりの子供の数が増え、子供・親子関連の消費市場が大きく伸展することが予測されている。そこにビジネスチャンスを見出した趙為は、2017年にpandastrollerを立ち上げ、サービスを開始した。ショッピングセンターなどの商業施設や観光名所、遊園地などの娯楽施設にレンタルスタンドを設置し、ビジネスを拡大させていった。36Kr.comの記事によると、現在中国の200以上の都市を網羅し、15,000台のキッズスクーターを配置。そのレンタル使用合計時間は1.8億分にものぼるとされている。キッズスクーターのターゲットは2~7歳の幼児としている。sina.comの記事によると、中国の2~7歳の人口は9,000万人を突破しており、その市場規模も非常に大きいことが分かる。pandastrollerの売上情報などは公開されていないが、同記事によると、年間の成長率は約4.5倍、2020年8月と10月の国慶節に最高売上を達成している。
子育てをしている人にはよく分かると思うが、ターゲットである2~7歳の幼児といえば外出先や旅行先で少し疲れるとすぐに「だっこ」をせがむ。筆者の子供も御多分に漏れずそうである。かと言って毎回外出や旅行の際にベビーカーやキッズスクーターを持ち運ぶのは大変だ。特に遠方への旅行などのときは持っていくかどうか最後まで悩む。このようなシェアリングサービスは個人的にも非常に嬉しい。これは中国、日本問わず子供を持つ家庭にとって魅力的なサービスであることは間違いないだろう。
★熊猫遛娃(pandastroller)オフィシャルサイト
※熊猫遛娃(pandastroller)オフィシャルサイトより抜粋
企業情報
企業名:(中)上海環莘電子科技有限公司
ブランド名:熊猫遛娃(pandastroller)
設立:2015年10月
創設者:趙為
資本金:125万元(2,125万円)
従業員数:非公開
熊猫遛娃(pandastroller)のビジネスモデルと収入源
ビジネスモデルは典型的なシェアリングサービスと大差はない。pandastrollerは各施設にキッズスクーターのレンタルスタンドを設置し、ユーザーは時間に応じてそのレンタル料を支払う。ニュースサイト創頭条の記事によると、利用率が高いのはショッピングモールや動物園や植物園の施設とされている。レンタル費用も施設によって異なり、
①ショッピングモール:3~5元(51~85円)/時間
②動物園や植物園の観光カテゴリに入る施設:10元(170円)/時間となっている。
★キッズスクーターのレンタルスタンド
※熊猫遛娃(pandastroller)オフィシャル微博より抜粋
★QRコードを読み取り支払を行うと利用できる
※熊猫遛娃(pandastroller)オフィシャル微博より抜粋
★利用者の様子
※熊猫遛娃(pandastroller)オフィシャル微博より抜粋
収入源に関しては、上記のレンタル費用に加え、「フランチャイズ加盟店」からの費用徴収がある。
加盟費用の詳細については公開されていないが、CEOの趙為が以前jiameng.comのインタビュー動画で語っている内容によると、加盟料や保証金はゼロ、投資費用の回収にかかる期間は約3~5ヶ月になる。このビジネスモデルの場合、レンタルスタンドは基本無人であり、必要なスタッフといえばメンテナンススタッフくらいなので有人の店舗運営に比べると人件費はかなり抑えることができる。また、メンテナンスにおいても、自転車や電動スクーターよりも比較的簡単に行うことができる。スクーターのメンテナンス頻度は約5日に1回、一人のメンテナンススタッフで1日200台ものスクーターのチェックをすることが可能だ。以前シェアサイクルのビジネスでは「乗り捨て」が大問題になった。街の各地に自転車が無造作に乗り捨てられており、社会問題化した経緯がある。このスクーターは使用後必ず所定のレンタルスタンドに返却する必要があるので、このような問題も起こりにくく、運営がしやすいという利点もある。
サービス詳細
①スタンドに設置されているQRコードを読み取る。
②Wechat PayまたはAlipayで支払い:後払いではなく先に一定金額をチャージ
③所定のスタンドに返却後、チャージ残額が返金される。
レンタル費用は時間毎で計算される。場所などによって費用も異なるが、
①ショッピングモール:3~5元(51~85円)/時間②動物園や植物園の観光カテゴリに入る施設:10元(170円)/時間となっている。
★利用方法
※熊猫遛娃(pandastroller)Wechatオフィシャルアカウントより抜粋
ビジネスモデル
まとめ
中国は長年「一人っ子政策」を取り続けて来たが、2016年と2021年にその産児制限を緩和し、3人目までの出産が可能となった。中国ではこれまで一人っ子の子供に集中する消費や投資で各マーケットが成長してきた。かつて親が甘やかして育った子供たちは「小皇帝」などと呼ばれていた時代もあった。産児制限の緩和により、子供一人に対する消費や投資は分散するかもしれないが、子供の数が増えることで大きくなるマーケットもある。pandastrollerのようなシェアリングビジネスは客単価は低いが、利用者の数が増えると収益が増えるモデルであるため今後多くの家庭を助けることでビジネスも大きくなっていくだろう。
参考記事
※1 国家信息中心:《中国共享经济发展报告(2021)》正式发布
https://www.ndrc.gov.cn/xxgk/jd/wsdwhfz/202102/t20210222_1267536_ext.html
※2 pandastrollerオフィシャルサイト
https://www.pandastroller.com/
※3 36Kr.com:共享童车「熊猫遛娃」完成千万元级A轮融资,好孩子创业发展基金和中汇金资本联合领投
https://www.36kr.com/p/1181392538583296
※4 163.com :突发!重磅!沉默已久的马云终于出手!全世界都沸腾了!
https://www.163.com/dy/article/GB5R0PPG05381ERM.html
※5 sina.com:刚刚又融千万!3万亿赛道兴起共享童车:落地200城
https://k.sina.com.cn/article_5788552439_159064cf702000zehj.html?sudaref=so.toutiao.com&display=0&retcode=0
※6 创头条[熊猫遛娃共享童车]:共享儿童推车:熊猫遛娃共享童车项目怎么样,收益如何
https://www.ctoutiao.com/2657106.html
※7 36Kr.com:深耕亲子出行,无人租赁童车「熊猫遛娃」用「有桩+轻模式」解放家长双手
https://www.36kr.com/p/1722303168513
※8 腾讯视频:全球加盟网采访熊猫遛娃CEO赵为
https://v.qq.com/x/page/y0808cupthh.html
筆者
Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。