背景市場
欧米を中心に広がっている決済サービス『BNPL(Buy Now, Pay Later)』だが、近年中国でも急速な広がりをみせている。EC事業や決済サービスを展開しているLEXIN(楽信)の傘下である、楽信研究院が発表した《“先享后付”(BNPL)消费趋势洞察(日訳:BNPL消費趨勢洞察)》によると、消費者の60%が「先に商品を手に入れ、後から支払う」BNPL方式を希望している。その背景には消費者の家計の状況がある。iResearchのレポート《2020年中国新白领消费行为研究报告(日訳:2020年中国新社会人消費行動研究レポート)》によると、中国の社会人の収入に対する支出構成比は下記の通り、
生活費:47%
ローン(住宅/車):42%
残り:11%
上記のデータから分かる通り、収入の4割程度が車や住宅のローンにあてられており、家計には余裕がない。このような背景から、なるべく月の支出を抑えるためにBNPL決済サービスへのニーズが高まっていると考えられる。
★消費者の約60%がBNPLサービスを望んでいる
※楽信研究院:“先享后付”(BNPL)消费趋势洞察(日訳:BNPL消費趨勢洞察)より抜粋
★中国新社会人の家計状況
※iResearch:2020年中国新白领消费行为研究报告(日訳:2020年中国新社会人消費行動研究レポート)より抜粋
中国のBNPL決済サービスの状況
中国でも大手企業がBNPL決済サービスに参入している。
例としては、
・Alipay(Alibaba傘下):花唄(Huabei)
・JD.com:京東白条(Baitiao)
・楽信(LEXIN):買鴨(Mayya)などがある。
多くはEコマースプラットフォームでのBNPL決済サービス展開がメインになっているが、中国にも確実に浸透し始めている。
西瓜買単(Xigua Maidan)とは?
各社オンライン上の決済をメインにBNPL方式を採用しているが、そんな中オフラインの実店舗に特化してBNPL決済サービスを展開する企業が現れた。
海南仙麦厚福電子商務有限責任公司が運営するBNPL決済サービス西瓜買単(Xigua Maidan※以下Xigua)は、ショッピングモールや小売ブランドの実店舗を中心にBNPL決済サービスを提供している。現状XiguaはECサイトなどの決済には対応していない。Xiguaがあえて実店舗に特化してサービスを展開している理由として、ECサイトでは各プラットフォーマーが自社の決済サービスを持っており、かつ手数料も無料の場合があるので、XiguaのEC市場での競争力はそれほど高くないことが考えられる。
2020年にサービス展開を開始し、2021年7月時点で、実店舗約一万店、ショッピングモールや百貨店約400店とサービス提携を行っている。XiguaのビジネスモデルはオーストラリアのBNPL決済サービス”AfterPay”を参考にしており、AfterPay側もXiguaの可能性に注目し、2020年11月Xiguaに対し1,000万ドル(11億円)の融資を行っている。
★西瓜買単(Xigua Maidan)オフィシャルサイト
※西瓜買単(Xigua Maidan)オフィシャルサイトより抜粋
企業情報
企業名:(中)海南仙麦厚福電子商務有限責任公司
ブランド名:西瓜買単(Xigua Maidan)
設立:2020年3月
創設者:陳進
資本金:1,075万元(1億8,275万円)
従業員数:非公開
西瓜買単(Xigua Maidan)の特徴とビジネスモデル
Xiguaの最大の特徴は『初回の支払いは代金の4分の1、4回払い利息ゼロ』にある。
例えば、上述のサービス花唄(Huabei)はTmallや関連のECサイトでの決済の場合、分割でも利息ゼロの場合があるが、それ以外で分割支払する場合、利息がかかってしまう。
花唄(Huabei)の場合、下記の利息が発生する。
・3回払い:2.5%
・6回払い:4.5%
また、花唄(Huabei)でも購入月の翌月9日までに全額返済すれば利息ゼロというBNPL方式もあるが、Xiguaの<初回費用支払後3ヶ月利息ゼロ>に比べると期間が短い。
Xiguaの場合、サービスに加盟してる実店舗であればどこでも初回支払を含む4回払いまでは利息ゼロになる。
例えば、1,200元(20,400円)の買い物をした場合、初回に300元(5,100円)を支払い、残りの3ヶ月間で毎月300元(5,100円)を支払うことになる。
Xiguaの収益は消費者から得るのではなく、加盟店が支払う手数料によって成り立っている。加盟店が支払う手数料は企業のランクや業種によって異なり約3-15%となっている。例としては、
ゴールデン企業:5%
フィットネスジム:15%
店舗側としては手数料を負担してでもこのサービスを取り入れたい理由がある。現在中国ではEコマースでの消費が伸長していることに伴い、オフラインの実店舗がその影響を受け、売上を落とす店舗も出てきている。オンラインと実店舗の最大の違いは、『いつでも店舗に行けるかどうか?』である。ECサイトであれば、一度は購入を見送っても、翌日に購入したくなればサイトにアクセスするだけで簡単に購入することができる。しかし、実店舗はそうはいかない。例えば今日ショッピングモールに行き買い物を見送ると、次回訪れるまでには時間が必要になる。その間に顧客を逃してしまうことになる。店舗側としては、“今来てくれている顧客にその場で買ってもらう”必要がある。Xiguaのサービスを利用すれば、初回費用を抑えることができるため、消費者の購入ハードルを下げることで成約に繋がりやすくなる。
今日頭条のアカウント[金融界]の記事によると、2020年12月Xiguaと提携している靴ブランド[百麗(BeLLE)]の実店舗ではXiguaによる決済が20%ほどを占め、客単価を50%向上させたとされており、消費者の購入ハードルを下げることで成約につながることが実証されている。
サービス詳細
消費者が実際にXiguaのサービスを利用するまでの流れを見ていこう。
※Xiguaの利用には年齢制限があり、満22歳以上-70歳まででなければ使用できない。
①Xiguaのアプリに個人情報や銀行口座情報を紐付ける。
②情報入力後、Xiguaの利用金額の限度額が自動で計算される。
限度額は500元(8,500円)-200,000元(3,400,000円)。
★限度額は自動で算出される
※今日頭条の記事より抜粋
③加盟店舗にてXiguaアプリから決済を行うことで、分割払いのサービスが適応される。
④初回は代金の4分の1を支払、その後は3ヶ月で残金を返済する。
★1,000元(17,000円)の買い物の場合、初回250元支払い、残り3ヶ月で毎月250元(4,250円)を返済
※Tencent App Storeより抜粋
もちろんリスクもあり、初回払い+3ヶ月で完済できない場合、利息が発生してしまう。
支払いが遅れた場合、1日あたり0.0747%の利息が発生する。
Xiguaが利用できる店舗はアプリで検索することができる。
※西瓜買単(Xigua Maidan)アプリより抜粋
ビジネスモデル
まとめ
中国でのBNPLサービスの普及には、もちろん消費者の家計事情も大きく関係しているが、もう一つ大きな要因として”個人の信用評価システムの進歩”が挙げられる。
例えば、Alibaba傘下のアント・フィナンシャルサービスが提供する“芝麻信用(ゴマ信用)”のように、AIの技術で個人の信用スコアを算出し、貸付金額などの参考基準として活用されている。また、過去中国では紙幣に対する信用が低く、筆者が中国に滞在していた頃は、100元や50元札で買い物をする場合、店員は必ず紙幣を透かし、手でこすり偽札かどうかをチェックしていた。そんな背景から、AlipayやWechatpayなどの電子決済サービスが急拡大し、現在試験的ではあるが、中国は”デジタル人民元”の運用も始めている。
1.テクノロジーの進歩による個人の信用評価
2.電子決済の急速な拡大
3.それを後押しする国家
これらの要因から、Xiguaのような新たな決済サービスが登場したといえる。
参考記事
※1[新浪财经]乐信研究院:先享后付市场规模超万亿 超6成消费者青睐延期付款
https://finance.sina.com.cn/stock/usstock/c/2021-03-09/doc-ikknscsi0015641.shtml
※2[iResearch]2020年中国新白领消费行为研究报告
https://www.iresearch.com.cn/Detail/report?id=3680&isfree=0
※3 西瓜買単(Xigua Maidan)オフィシャルサイト
https://www.happay.cn/#/
※4[今日头条_消费金融频道]成立一年实现近亿美元融资,这家完全免息的分期平台后劲如何?
https://www.toutiao.com/a6997037011840336416/?channel=&source=search_tab
※5[今日头条_探长读财]中国版Afterpay:上市就被套现大军盯上,中介费达50%
https://www.toutiao.com/a6942418530121925156/?channel=&source=search_tab
※6[今日头条_金融界]独家首发|「西瓜买单」完成近1亿美元融资,“先买后付”模式赋能传统零售场景
https://www.toutiao.com/a6995708615676035614/?channel=&source=search_tab
筆者
Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。