中国の宴席には欠かせない”白酒”から生まれる新たなビジネスモデル

背景市場

iiMedia Researchが発表した「2021年中国白酒行业发展研究报告(2021年中国白酒業界発展レポート)」によると、中国の白酒市場は2021年に6,434億元(12兆8,680円)となり、2025年には9,500億元(19兆円)にまで成長が見込まれている巨大市場である。白酒とは中国の結婚式や宴席、接待など人が多く集まるシーンでは欠かせないお酒である。またニューリテール領域における酒類市場も拡大を続けており、2021年には1,363億元(2兆7,260億円)となっている。ニューリテールとはオフラインとオンラインを融合させたOMOという概念をもとに、顧客データなどをプラットフォームで統合することで、オフライン・オンライン問わず顧客に対して商品の利用体験を提供するという戦略である。

★2011ー2025年中国白酒企業市場規模予測

※iiMedia Research「2021年中国白酒行业发展研究报告(2021年中国白酒業界発展レポート)」より抜粋

★2016ー2021年中国ニューリテール酒類市場規模予測

※iiMedia Research「2021年中国白酒行业发展研究报告(2021年中国白酒業界発展レポート)」より抜粋

巷子浅(XIANG ZI QIAN)とは?

巷子浅(XIANG ZI QIAN)は貴州省巷子浅網絡科技有限公司が運営する、オーダーメイド白酒を販売するオンラインプラットフォームである。創業者の潘福強は生鮮食品を扱うスーパーを展開する「広西農夫的菜科技有限公司」を立ち上げた起業家としての肩書以外にも、厦門大学EMBA修士、新桂商(広西省地区の新世代ビジネスリーダー)、南寧青秀区第三回政協委員など様々な肩書を持つ人物である。
これまで生鮮食品業界で実績を持つ潘福強が巷子浅(XIANG ZI QIAN)の創業を決めたのは、主に2つの理由からである。1.中小企業の”接待”ニーズが非常に大きいこと 2.オーダーメイドの白酒市場にはトッププレイヤーがいなかったことが挙げられる。また、白酒は接待や宴席での必需品であり、販売単価・利益率・リピート率なども高い商材である。しかしすでに市場に出回っている既製品の白酒市場に参入してもすでにトッププレイヤーが市場の大半を占めている。そこで目をつけたのが白酒のオーダーメイド市場であった。中国工信部の発表によると、2021年末時点で中国の中小企業数は4,800万社にのぼり、中小企業の接待に白酒がよく使用されることもありその市場規模も魅力の1つといえる。

★XIANG ZI QIAN創業者 潘福強

XIANG ZI QIAN Wechatオフィシャルアカウントより抜粋

企業情報

企業名:貴州省巷子浅網絡科技有限公司

設立:2019年7月

創設者:潘福強

資本金:574万元(1.14億円)

従業員数:非公開

巷子浅(Xiang zi qian)のビジネスモデル

中国のWEB記事などを見ると、巷子浅(XIANG ZI QIAN)のビジネスはC2Mモデルと呼ばれている。C2Mは”Customer to Manufactory”を略したもので中国のEC業界が提唱したビジネスモデルと言われている。消費者から直接注文を受けて製造者が製品を作るビジネスモデルを意味する。巷子浅(XIANG ZI QIAN)は、企業のパーティー、接待、ゴルフコンペなど企業が主催する様々なイベント用途に合わせて白酒の”ラベル”をオーダーメイドで作成することができる。商品力としてももちろん魅力のあるXIANG ZI QIANだが、最大の特徴は「顧客開拓」にある。
中国のWEB記事などを見ると、XIANG ZI QIANの顧客獲得方法は”裂変模式(分裂モデル)”と呼ばれている。顧客をどんどんアメーバのように分裂させ増やしていくのだ。XIANG ZI QIANの白酒の蓋の部分には特殊な加工が施されておりパスワードでロックされている。蓋に貼付されているQRコードを読み取ることでパスワードが解除され商品を開けることができる。

※XIANG ZI QIAN 抖音オフィシャルアカウントより抜粋

QRコードを読み取ることでXIANG ZI QIANはユーザー情報を獲得することができる。ユーザー情報はすべて発注顧客の情報と紐付けられる。例えば中小企業の社長Aが取引先などを招いて宴会を実施する場合、宴会に参加してQRコードを読み取った人はすべて「Aさんの顧客」と自動的に紐付けられる。その後Aと紐付けられた人の中から誰かがXIANG ZI QIANで商品を注文すると、Aに自動的にポイントが付与される。このポイントはXIANG ZI QIANの商品購入に使用することができる。このような特典があることで、ユーザーが勝手に潜在顧客に商品を宣伝してくれる仕組みだ。またQRコードを読み取ると、企業の紹介ページや紹介動画が表示される。企業主催の宴会やパーティーなどでは参加者一人一人に企業の紹介をするのは難しいが、このような方法で自社の紹介ができれば企業の認知度向上や新規顧客開拓のきっかけになる。また全員が参加できるゲームなどを組み込みことができる。ゲームといっても一人でプレイして終わるようなものではなく、例えばその宴会で注文した商品金額の〇〇%の現金が”紅包(お年玉)”として1名に当たるなどQRコードを読み取りたくなる仕掛けがなされている。XIANG ZI QIANはこのポイント制度を利用して”パートナーシップ制度”という独自の仕組みを構築している。XIANG ZI QIANのWECHATオフィシャルサイトを見ると、2,999元(5万9,980円)を支払うことで”パートナー”になれるとのことだ。
★潘福強自らがXIANG ZI QIANのビジネスモデルについて解説している。

※XIANG ZI QIAN抖音オフィシャルアカウントより抜粋
https://www.douyin.com/video/7139509293979602214

★パートナーシップ制度

※XIANG ZI QIAN Wechatオフィシャルアカウントより抜粋

例えば”一般顧客”のAがXIANG ZI QIANで注文する。その後Aと紐付けられたBがXIANG ZI QIANで注文する。この場合、Aにはポイントが付与される。今度はBと紐付けられたCがXIANG ZI QIANで注文すると、Bにはポイントは付与されるがAにはポイントは付与されない。しかし、パートナーシップ制度を利用するとCが注文してもAにポイントが付与される。そしてパートナーシップと一般顧客の最大の違いは”ポイントを現金化”することができる点にある。パートナーにはKPIが設定され、一定期間の獲得ポイントによりランク分けされる。そのランクによりポイントの現金還元率が上がっていく。このような分裂モデルを採用することで、XIANG ZI QIANは急成長を遂げた。XIANG ZI QIANのWECHATオフィシャルアカウントを見ると1,000社以上の中小企業を顧客として抱えており、36Kr.comの記事によると2022年上半期の売上は昨対比で40%の成長を達成している。

サービス詳細

商品はWechatのミニプログラムから注文することができる。
商品を1本から購入することもできるが、ラベルをオーダーメイドするためには一定数量を注文する必要がある。
・商品例
1本購入:1,588元(3万1,760円)
ケース購入(6本入り):4,194元(8万3,880円)※1本あたり699元(1万3,980円)
ラベルをオーダーメイドするためには10ケースを1度に購入する必要がある。

※XIANG ZI QIAN Wechatミニプログラムより抜粋

ビジネスモデル

まとめ

結婚式・接待・ゴルフコンペ・企業主催のパーティーなど人が多く集まる場所にはほぼ確実に白酒が登場する。そして中国の人はパーティーなどで実施されるゲームなどにも積極的に参加する。多く人が集まる場所では、様々な情報が交換される。中国の口コミの力は非常に強い。メーカーなどから発信される情報よりも、知り合いの情報に耳を傾ける。
1.宴席には不可欠な商品:白酒を販売
2.物事を楽しむ積極性:QRコードを読み取る
3.口コミの威力:分裂方式による顧客拡大
XIANG ZI QIANのビジネスモデルは中国の消費習慣・文化などをうまく捉えることで成功につながった。

参考記事

※36氪首发|酱酒服务商「巷子浅」获1000万元天使+轮融资,用一瓶酱酒进行消费裂变
https://36kr.com/p/1904728217414017
※36氪首发|重构酱酒交易模式,科技定制酒「巷子浅」获近千万元天使轮融资
https://36kr.com/p/1494009333870725
※老酒觉醒新生|巷子浅科技定制酒全球发布会火爆南宁
https://www.toutiao.com/article/6773828788003275271/?channel=&source=search_tab
※时隔不足一年,科技定制酒品牌巷子浅完成1000万元天使+轮融资
https://www.toutiao.com/article/7140944030954734121/?channel=&source=search_tab
※艾媒咨询|2021年中国白酒行业发展研究报告
https://www.iimedia.cn/c400/82152.html
※支持中小企业创新发展,培育更多专精特新企业!“新时代工业和信息化发展”系列新闻发布会第三场实录
https://www.miit.gov.cn/gzcy/zbft/art/2022/art_4a2a1bfecc4e4ad0ae7a479f53283b44.html

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。