新たなビジネスを展開する際、全てをイチから考えるよりもなにか参考になるものがあると事業展開のスピードや成功の確度も上がる。しかし、同じ国ですでに展開しているビジネスモデルを参考にするだけでは市場競争などの面で優位性を発揮することはできない。そんな時、参考になるのが「タイムマシン経営」という考え方だ。
目次
1.タイムマシン経営とは?
2.タイムマシン経営では本質を見極める力が必要
3.タイムマシン経営の事例
4.まとめ
タイムマシン経営とは?
「タイムマシン経営」とは海外で成功したビジネスモデルを日本に持ち込み展開するという経営手法を指す。まさに未来から新たなビジネスモデルが現代にやってくるようなイメージだ。この言葉はソフトバンクグループ創業者の孫正義氏が命名したと言われている。孫正義氏はアメリカでインターネット事業に関わっていたこともあり、タイムマシン経営は主にアメリカで成功しているビジネスモデルをいち早く日本に取り入れるという文脈で使われていた。特にIT・インターネットの分野では日本とアメリカには時差(タイムラグ)があると言われており、アメリカから様々なビジネスモデルが日本へ輸入されてきた。実際に孫正義氏も日本でYahoo!の事業を立ち上げるなどタイムマシン経営を実践してきた。
しかし、現代ではインターネットの発達により世界中の情報をリアルタイムで収集できるためその時差も埋まりつつある。更にはIT・インターネット・AIなど最先端のビジネスをリードしているのはもはやアメリカだけではない。東アジアに目を向けると中国などが技術革新や新たなビジネスモデルの創出などにおいて世界中から注目されている。その意味において過去のようなタイムマシン経営は難しくなってきているのが実態ではないだろうか。
タイムマシン経営では本質を見極める力が必要
まだ日本にはないビジネスモデルをいち早く展開できるという点においてはタイムマシン経営は役に立つ。
しかし、リアルタイムで海外の情報を収集することができかつ膨大な情報に触れると、表面上の言葉などに踊らされ本質的な価値や意義を見失うこともある。例えば、巷でよく聞く「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉。新型コロナウイルスの封じ込めで成果を上げた台湾のデジタル担当大臣の実績が日本で大きく報道された時によく耳にした言葉だ。薬局のマスクの在庫状況が分かるマスクマップアプリ開発などDX推進の実績が取り上げられた結果、政府が日本へ招待したり、各所へ公演を行う中でDX推進の重要性などについて意見交換などがなされてきた。しかしここで少し考えてほしい、そもそもDXという言葉の本質的な意味や価値をどれだけの人が理解しているのか。正直筆者もDXについて100%理解しているかと聞かれれば、答えはNOだ。同じように政府や多くの企業もただなんとなく「DXって大事だよね」と表面的に捉えている印象を受けざるを得ない。これでは意味もよく理解せず流行りの横文字ばかり使う意識高い系ビジネスマンと何も変わらない。
情報がすぐに拡散され、多くの人が情報に触れる分バズワードのように言葉だけが独り歩きする。一昔前であれば、海外のビジネスモデルに関する情報も限られ、それを吟味する時間があったはずだ。日本にそのビジネスモデルを取り入れると業界にどのような影響を与えることができるのか、人々の生活がどう変わるのかなど本質的な意義や価値を見極めることでタイムマシン経営は威力を発揮していたと言える。
昨今では未来に注目するタイムマシン経営に反して「逆・タイムマシン経営論」というものも登場している。人類は未来を確実に言い当てることはできないが、過去なら振り返ることができる。近過去において様々な企業の経営判断が当時メディアなどでどのように受け止められていたかなどを分析することで、今の経営判断に活かすという思考方法である。まさに”温故知新”という四文字熟語がピッタリ当てはまる。
タイムマシン経営の事例
①シェアサイクル
シェアリングビジネスの代表的な事例。2016年頃から中国で爆発的に普及したビジネスだ。街の至るところに設置されている自転車を時間単位で利用できるサービスであり、モバイクやofoなどのベンチャー企業がこのビジネスを通じて大きく成長した。2017年にモバイクが日本でシェアサイクルビジネスをスタートさせるなど、中国で一定の成果を上げたビジネスが日本に持ち込まれた事例。
②QRコード決済
上述のシェアサイクルの決済方法として採用されたのが、スマホを利用したQRコード決済である。中国では2011年頃にアリババグループ参加の「Alipay」がQR決済導入に力を入れ始め、2015年頃に爆発的に普及した。日本でも2010年代後半頃からLINE PayやPayPayなどのQR決済サービスの企業が多く現れた。LINE Payは「メッセージアプリ+決済機能」という面では中国のWeChat Payと非常に似ている。またPayPayはタイムマシン経営の生みの親である孫正義氏のソフトバンクとヤフーが合弁で設立した企業である。
③フードデリバリー
2014年にアメリカで生まれたUberEatsが2016年に日本でサービスを開始した。中国でも2010年頃からフードデリバリービジネスの普及が始まっている。新型コロナウイルスの影響もあり、日本でも市場が大きく成長した。これまで日本でも飲食店が”出前”という形でデリバリーサービスを提供していたが、飲食店と配達員をプラットフォームで結びつけるサービスは海外発のビジネスモデルだ。これも海外で流行したビジネスモデルが数年後に日本に登場するというタイムマシン経営の一例と言える。
まとめ
事例をみても分かるように、今でも残っているビジネスは社会の仕組みや人々の生活に大きな影響を与えていることがわかる。繰り返しになるが、海外の最新ビジネスやサービスは魅力的に映るかもしれない。しかしそれを日本に持ち込む際に市場や社会そして人々の生活にどのような良い影響を与えるのかなど、本質的な面をしっかりと考える必要がある。
筆者
Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。