Standard Cognitionとは?
Standard Cognitionとは、独自のAIを提供することで、小売体験を変革することを目指している会社だ。具体的には、同社のカメラシステムにより顧客を識別、レジを一切通らない購買体験を提供する店舗が実現できるのだ。同社はこの体験をシンプルに、”Grab and go”、つまり「(商品を)取って、行け」と表現する。つまり、レジを一切通らないだけでなく、商品のスキャンも必要なく、決済のために立ち止まる必要もないのだ。
さらに、同社が他のAIシステム提供会社とビジネスを異にするのが、プライバシーへの配慮だ。他社の例だと、入店時や店内購買中に自動で顔認証を行い、個人を識別するシステムを採用しているケースがある。ただ同時に消費者にとっては、顔認証によるプライバシー侵害を頭から完全に消し去ることはできない。しかし、Standard Cognitionの場合、顔認証は一切行わず、主に体の動きや構造によって個々人の特徴を捉え、識別する仕組みを採用している。個人の顔写真をデータベースとして蓄積しないため、消費者の匿名によるスムーズな購買体験を実現するのである。
そのような新しい購買体験の提供が期待され、多額の資金調達にも成功した。2021年2月のソフトバンクグループが主導する投資ラウンドでは、総額1億5,000万ドルの資金調達に成功。これにより評価額10億ドルを超える所謂ユニコーン企業の一つとなった。また、これまでに調達した資金は、今後5年間で5万店以上の出店などに活用されるという。
なお、同社の公式ウェブサイトによりと、自社の運営するコンビニエンスストア「Standard Store」が、アメリカのサンフランシスコに1店舗展開されている。2021年6月時点でGoogleマップにも店舗の情報は掲載されているが、レビュー(口コミ)の投稿は2年前を最後に掲載されていない。
※Googleマップより筆者抜粋(2021年6月時点)
企業情報
企業名:Standard Cognition
創業年:2017年
創業者:Jordan Fisher, TJ Lutz, Michael Suswal
創業国:アメリカ合衆国
従業員数:126人(2021年6月時点、LinkedInより)
企業URL:https://www.standardcognition.com/
サービスの特徴
1.プライバシーに配慮
顔認証システムを採用せず、消費者の動きの特徴などから個人を識別する仕組みを採用している。小売店やStandard Cognitionに顔写真データベースを残さないためプライバシー侵害の恐れが少ない。消費者も安心して買い物ができる。
2.カメラファースト
入店時も退店時もスムーズに買い物ができる。カメラによる識別を重視しているため、入退店時に改札口のようなゲートを通る必要がないうえ、レジに並ぶこともない。これが、シンプルでスムーズ、かつ新しい購買体験の提供に繋がるのだ。
3.既存店導入のしやすさ
2とも関連するが、カメラによる識別を重視していることが、店舗側の導入のし易さに貢献している。完全無人の店舗づくりのためにレイアウトを変えなくとも、今まで通りの店舗にカメラを設置するだけで導入が可能だ。
ビジネスモデルと収益源
価格やビジネスモデルに関する情報は公表されていないが、同社のサービスを利用する小売店からデータやシステムの使用料を徴収するビジネスモデルだと推測される。小売店のメリットとしてはデータが活用できることに加え、人件費の削減、購買体験の改善を実現し、売上・利益の拡大が期待できる。
まとめ
Amazon等を中心に大きな変革の波が起こっている小売業界。さらに大型のテック企業によるデータの利活用にも消費者の関心・懸念は集まっている。こうした中でのStandard Cognitionの取り組みは大きな意味を持っていると言える。同社が次の小売りのStandardを築く日はそう遠くないのかもしれない。
筆者
財前 ワタル。Business Earthライター。経営コンサルティング会社でコンサルタント、リサーチャーを担当した後、拠点を北米に移し、広告代理店に勤務。現在は再度日本に拠点を移し、フリーランスとして広告運用、市場調査(主に北米)、記事執筆を生業とする。