背景市場
比達網(BDR)が発表した[2021年度中国互聯網婚恋交友市場研究報告(2021年度中国インターネットマッチングサービス市場研究レポート)]によると、2021年中国のインターネットマッチングサービス市場規模は72億元(1,368億円)となり、昨年対比で11.6%の成長を遂げている。また2022年には市場規模が80億元(1,520億円)にまで拡大する見込みだ。また 艾瑞諮詢(iResearch)のデータによると、中国モバイルSNS市場は2021年1,610億元(3兆590億円)、2022年の見込みは2,050億元(3兆8,950億円)そして2026年には4,120億元(7兆8,280億円)まで伸長すると見られている。マッチングサービスへの需要拡大と巨大なモバイルSNS市場という環境から生まれたあるアプリが急成長を遂げ、2022年6月香港証券取引所でのIPOを目指し目論見書を提出した。
★中国のインターネットマッチングサービス市場規模
※[2021年度中国互聯網婚恋交友市場研究報告(2021年度中国インターネットマッチングサービス市場研究レポート)]より抜粋
★中国モバイルSNSを市場規模
※ 艾瑞諮詢(iResearch)統計データ:Soul目論見書より抜粋
Soulとは?
Soulは上海任意門科技有限公司が運営するSNSアプリである。投資界(PEdaily.cn)の記事によると創設者の張璐(Zhang Lu)は中国の名門大学である中山大学を卒業後、ヨーロッパのコンサルティング会社Innextの中国エリアCEOを務めた人物だ。Soulを立ち上げるきっかけとなったのは「自身の生活で起こったちょっとしたことをシェアすることができない」という自身の悩みからだった。Wechatのモーメンツでシェアするのも違うし、Weiboでは誰も反応してくれない。そのうちQQの空間(スペース)にアップすることにした、それも”自分以外は閲覧不可”の設定で…。しかし、すぐにアップする意義を見失った。彼女は「自由に配信し、しかも誰かとやり取りをする。これはごく自然なニーズだ。」と意識するようになった。彼女は手元の仕事を一旦止めて、大規模の調査を行ったところ市場にはSNSアプリが多数存在するのに、ニーズを満たすアプリは一つもないということに気づいた。そこで、張璐はもっと精神(心)の交流ができるプラットフォームを作ることを決心した。
2015年に上海で起業し、試行錯誤を繰り返しながら2016年年末にSoulを生み出した。SoulはSNSのカテゴリに属するが、Weiboのように友達や不特定多数のユーザーに対して情報配信をするようなものではなく、自身のソウルメイト(心の友)を探すようなマッチングアプリといえる。ユーザーは性格診断テストから自身のプロフィールを作りあげ、プラットフォーム側が自身の性格と合うであろうソウルメイトとのマッチングを手助けする。自身の興味や性格とマッチするユーザーと繋がることができるため、つぶやきに対する反応も多く得られることができユーザー間での共感や共鳴を呼びやすい仕組みになっている。SNS上では自身のアバターを作成するため、流行りのメタバース的要素も含んでる。独身ユーザーの出会いを助けるSoulは人気を集め2021年の時点でMAU3,160万人、DAU930万人を擁する巨大SNSへと成長した。ユーザーの74.9%がZ世代である点もSoulの特徴といえる。
★Soulオフィシャルサイト
※Soulオフィシャルサイトより抜粋
企業情報
企業名:上海任意門科技有限公司
設立:2015年6月
創設者:張璐
資本金:1,000万元(1.9億円)
従業員数:非公開
Soulのビジネスモデル
Soulの収入源は主に2つ。SNSのユーザーから得られるオプションサービス費用と広告主から得られる広告売上である。オプションサービスは主に2つに分類され、サブスク会員としての月額利用料とSNSで使用することができるバーチャルアイテム(アバターに使えるグッズやユーザー同士で送り合うプレゼントなど)の代金から売上が発生する。Soulは基本無料で使用することができるが、サブスク会員になると会員専用のバーチャルアイテムが購入できたり、SNS上でより多くの機能を使うことができるなどの特典が付与される。サブスク会員は2021年時点で165万人となり、全ユーザーの5.2%を占める。上記のサービスの売上は2021年時点で12億元(228億円)となっている。広告については2020年の第三四半期からサービス提供を開始しておりその売上は2021年時点で7,700万元(14.6億円)となっている。
★Soul APP
※Soul APPより抜粋
★バーチャルアイテムを贈り合うことができる
※Soul目論見書より抜粋
サービス詳細
Soulの最大の特徴はマッチング機能とアバター機能である。SoulではユーザーのことをSoulerと読んでおり、Soulerはまずアカウント登録時に簡単な性格診断テストを受ける。自身の性格に基づきプラットフォーム側がソウルメイトとのマッチングを行ってくれる。また、Soulにはメタバースの要素も盛り込まれており、アプリ上で作成したアバターを使ってユーザー同士が交流する。Weiboなどの不特定多数に情報発信をするSNSとしてももちろん利用はできるが、ユーザーはやはり自分と相性のいいユーザー(ソウルメイト)との出会いを期待している。ソウルメイトは必ずしも異性とは限らない、同性でも共感や共鳴できる相手であればソウルメイトになれる。また自身の位置情報からソウルメイト候補が付近にいると通知してくれる機能などもついている。マッチングアプリという特性上1対1でのやり取りが活発に行われており、2021年には毎月平均104億のメッセージが送信されている。Soulの目論見書によると、この数量は中国のオープン型SNSにおける個人間のメッセージ数ではトップとなっている。また、これまでの不特定多数に向けて配信するSNSのように「つぶやきに対する反応がほとんどない」ということもSoulでは起こりにくい。共通の趣味や自身の性格をもとにつながったユーザー同士の交流がメインとなるため、つぶやきに対するコメント返信率は非常に高い。2021年の実績ではつぶやかれた内容に対するコメント返信率は91%となっている。ユーザー同士の交流を促進するために多数で参加できるゲームイベントや、カラオケ対決などが開催されている。またSoulでは音楽を介した交流が活発に行われ、音楽好きのユーザー同士がセッションを行い曲を作り上げる機能も搭載されている。このように他のSNSと比較すると、SNS上で繋がったユーザーが集まりたくなるもしくは離脱を防ぐような機能が豊富に用意されている。Soulはマッチング機能があるため、18未満の未成年は使用することができない規則になっている。
★ソウルメイトとの1対1のやりとり
※Soul目論見書より抜粋
★音楽をテーマにした交流イベントが活発に行われている
※Soul目論見書より抜粋
ビジネスモデル
まとめ
これまでの不特定多数もしくは周りの友達をメインにしたSNSではZ世代の真のニーズを満たすことは難しいのかもしれない。誰とでも繋がれることができる一方、なかなか心の友や理想の相手に出会うことはできない。友達が多くいても自分の本音や悩みを打ち明けることができる相手も限られている。Z世代の若者はこれまでの”自分をよく見せる”ようなSNSではなく”本当の自分を見せる”SNSを求めており、Soulはその点を上手く捉えることができたと言える。
参考記事
※Soulオフィシャルサイト
https://www.soulapp.cn/
※Soulgate(Soul)目論見書
https://www1.hkexnews.hk/app/sehk/2022/104557/documents/sehk22063002291_c.pdf
※1亿单身男女撑起一个IPO,Soul估值130亿
https://news.pedaily.cn/202207/495257.shtml
※2021年度中国互联网婚恋交友市场研究报告
http://www.bigdata-research.cn/content/202201/1204.html
筆者
Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。