テクノロジーの力で女性の健康問題を解決するFemtech企業が社会を変える

背景市場

人人都是産品経理(www.woshipm.com)の記事によると、インターネット女性ヘルスケア業界の市場規模は2013年の5.1億元(102億円)から2019年には190.2億元(3,804億円)と6年間で約37倍に成長している。この流れは今後も続くと見られており、2024年には466.5億元(9,330億円)にまで市場が拡大すると予測されている。
この背景にはインターネット関連の技術革新はさることながら、女性の人口が増えている事と女性の健康意識の高まりが挙げられる。そして、女性(Female)×技術(Technology)をかけ合わせた「Femtech」という造語も登場し、テクノロジーによる女性の健康課題の解決を行う分野が活気を帯びている。全世界のFemtech市場規模は2025年に500億ドル(6兆5,000万円)規模になるとの予測も発表されており、中国だけでなく全世界的に注目されている分野となっている。

孕橙(shecare)とは

孕橙(※以下shecare)は北京愛康泰科技有限責任公司が運営する女性の健康管理製品のブランドである。shecareの創業者である王胤は起業を考え始めた時、中国の名門大学である清華大学の博士課程に在籍していた。清華大学で十数年を過ごした彼は32歳になっていた。同年代の周りの友人などはすでに結婚し家庭を築いていたが、友人の中には”妊活”に悩みを抱えてる者もいた。例えば夫婦が離れて暮らしている場合、なかなか妊活が上手くいかないなどの悩みを友人から直接聞くこともあった。王胤はその後周りの友人に聞いてみると、同じような悩みを抱えている夫婦が少なからずいることが分かった。女性関連のBBSを覗いてみると「排卵予定期間が不正確」や「月経が不規則なのでどうやって排卵期間を計算すればいいか分からない」などの悩みが多く書き込まれていた。そして彼女たちが話題に上げていたのが”基礎体温計”だった。当時市場では、体温を正確に図る体温計はあったものの、排卵予定期間などは女性自身が計算するという状況だった。
そこで王胤は自身の研究を”IoT”に定め、体温計からデータを取りコンピューターの力でデータの背後にある規則性を見つけることで”排卵期間”ではなく具体的な”排卵日”を導き出せないかと考えた。
電子系や医学系を専門とする学生とともに企画を開始し、自身もまた専門外の医学書などを読み漁った。そして試行錯誤の末誕生したのが、shecareである。2013年の会社設立から2017年頃までは研究開発をメインに行い、ここ5~6年の間にビジネスとして本格稼働した。36Kr.comの記事によると、shecareは40人ほどのメンバーを抱えており売上は2021年に数千万元規模まで拡大。利益面でも赤字の状況から脱出できるまでに改善している。

★shecareオフィシャルサイト

※shecareオフィシャルサイトより抜粋

企業情報

企業名:(中)北京愛康泰科技有限責任公司

設立:2013年6月

創設者:王胤

資本金:1,324万元(2億6,480万円)

従業員数:非公開

孕橙(shecare)のビジネスモデル

shecareの生殖健康デジタル療法は”Fertility Awareness Method(FAM)”という手法をもとに設計されている。これは基礎体温、おりもの測定、排卵検査紙などから自身の排卵サイクルやホルモン変化のパターンを知ることで、妊娠しやすい時期やそうでない時期を自身で予測する方法である。shecareはこれまで女性が自身で予測していたものを、ビッグデータや独自のアルゴリズムを使用することで、排卵予定日をより正確に予測かつ可視化できるサービスとして提供している。shecareは約10億規模の女性の生理周期のデータベースを所有しておりドイツ発祥のsensiplanと呼ばれるFAMと国内外の女性のリアルデータを掛け合わせることで”iFAM”というアルゴリズムを作り上げた。このアルゴリズムは全世界で600万のユーザーに用いられている。
shecareは基礎体温計や排卵検査紙などの開発と販売を行い、そこから得られるデータを独自に開発したアプリに取り込むことで排卵日を予測するサービスを提供している。体温計や検査紙などをTmallやJD.comのECプラットフォームをメインに販売しそこから得られる売上が主な収入源となる。Tmallの旗艦店のデータを見ると、売れ筋の基礎体温計の累計販売台数は5万本超となっている。

★shecareが採用する”Fertility Awareness Method(FAM)”

※shecareオフィシャルサイトより抜粋

サービス詳細

shecareが販売する商品で測定されたデータは全てアプリ上に取り込むことができ、自身の健康状態や排卵予定日などが可視化できる。例えば基礎体温計で測定されたデータはBluetoothを通じて自動的にアプリに取り込まれる。また、排卵検査紙の結果をアプリで撮影することで全てデータ化されてアプリに保存される。そのデータを基にアプリが排卵日の予測を行う。またアプリ上では自身の生殖健康管理について専門の担当者がマンツーマン形式でアドバイスしてくれるサービスも提供しており、担当者は全て生殖健康管理師の資格を持っている。

★shecare 健康管理アプリ

※shecare オフィシャルサイトより抜粋

★生殖健康管理師の指導サービス

※shecare Tmall旗艦店ページより抜粋

商品一例
①基礎体温計
参考価格:138元(2,760円)
★基礎体温計

※shecare Tmall旗艦店より抜粋

②排卵検査紙
参考価格:49元(980円)
★排卵試験紙

※shecare Tmall旗艦店より抜粋

ビジネスモデル

まとめ

sina.comの記事によると中国には約4,500万人の女性が不妊治療を受けているとされている。shecareの創業者の王胤はただビジネスとして不妊治療に携わっているだけでなく、本人も実際にsensiplanのFAMに関する認証を取得したりするなど不妊治療に本当に役立つソリューションは何かを追い求めている姿勢がうかがえる。病院で専門的な治療を受けるとなると、費用も高く全ての人が受けられるとは限らない。shecareのように専門的な治療のレベルまではいかなくとも、テクノロジーを活用することにより比較的安価にサービスを提供することができれば、より多くの人の悩みや苦しみを解決する手助けにつながる。

参考記事

※36氪首发 | 布局数字生殖健康,「孕橙」获数千万元A轮融资
https://36kr.com/p/1852892355185792
※清华博士造出“助孕”温度计 连接电子温度计后,手机APP能准确算出排卵日
https://www.tsinghua.edu.cn/info/1182/37204.htm
※孕橙(shecare)オフィシャルサイト
http://www.ikangtai.com/cn/
※“孕橙”团队:用科技实现“更平民化的医疗
https://www.tsinghua.edu.cn/info/1363/80887.htm
※孕橙(shecare)Tmall旗艦店
https://shecare.world.tmall.com/
※【首发】数字生殖健康领导者孕橙逆势完成数千万元A轮融资
https://www.sohu.com/a/573802346_133140
※浅谈女性健康行业发展
https://www.woshipm.com/it/4915981.html
※女性向け医療変えるか 急成長フェムテックの可能性 
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC07CWF0X00C21A4000000/
※居家检测+数字疗法,孕橙重新定义数字生殖健康
https://www.sohu.com/a/571702509_120176997
※我国不孕不育患者或已达4500万人!“生不出”成为继癌症和心脑血管病后的第三种“病痛”
https://k.sina.com.cn/article_2010666107_77d8547b02000zutl.html?sudaref=so.toutiao.com&display=0&retcode=0

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。