背景市場
中国の証券会社[中信証券]が発表したレポートによると、中国のIoT産業規模は2020年に1兆7,000億元(28兆9,000億円)に達し、2025年には2兆1,300億元(36兆2,100億円)まで成長すると予測されている。
※中信証券のレポートより抜粋
そんな伸び盛りのIoT産業と、一見「アナログ」に見えるあるものを掛け合わせて生まれたサービスを紹介する。
群傑智能印章(QUNJE)とは?
江蘇群傑物聯科技有限公司が運営する群傑智能印章(※以下QUNJE)は企業の印鑑を管理するIoTソリューションサービスを提供している。中国では日本と同じく、契約書や各種書類に押印をするという文化がある。日本でも新型コロナウイルス拡大後、「判子をもらうために出社する」など押印作業に対して批判があがり電子印鑑や電子契約のサービスなどが一気に増えた。中国でも電子印鑑のサービスなどはあるが、それでもやはり実物の印鑑を押す文化は根強く残っている。
鎂客網(im2maker.com)の記事によると、創業者の朱傑は2014年に江蘇群傑物聯科技有限公司を設立する以前、IT業界に従事していた。2007年に一度業務管理ソフトの企業を立ち上げたが、2年で事業をたたむ結果となった。しかしまだ起業への熱意は冷めず、IT業界で培った人脈などを利用しソフトやプラットフォームビジネスで企業の課題を解決できないかと考えた。市場調査などを行った結果、企業の「印鑑」に明らかな課題があることを突き止めた。
1つは印鑑は「人」が管理しているという点で印鑑の使用について管理が難しい。押印記録を紛失したり、誰かが許可なく押印することで企業に損害を与えるリスクも発生する。2つ目は押印のための「コスト」がかかりすぎる。政府機関や企業を合わせると6億本を超える印鑑が存在しており、承認作業や押印管理に大きな人件費が発生する。
政府機関や企業が印鑑そのものを電子印鑑に切り替えるのにもこれまでのフローを見直したり、新たなシステムを1から導入する必要があるので難しい。そこで朱傑は【IoT+印鑑】を組合わせたビジネスを考えた。そこで生まれたのがQUNJEだ。QUNJEは印鑑そのものを無くすのではなく、【管理システム+IoT機器】で承認フローのシステム管理や押印履歴、印鑑の保管などをIoT機器で管理することで人力に頼らない印鑑管理を実現することに成功した。今日頭条の記事配信アカウント【i黒馬】の記事によると、2014年の会社設立から7年が経過し大企業クライアント数は2000社を超え、その中にはスマホやデジタル家電を販売するXiaomiや中国最大の石油会社である中国石化、自動車メーカーの吉利など中国TOP500に入る企業約90社をクライアントとして抱えている。クライアント企業の規模を見ても分かる通り、大企業のクライントが多数を占める。sohu.comの記事によると、QUNJEは顧客ターゲットを年間生産総額20億元(340億円)規模の企業と定めている。人数が少なく、社内承認フローがそれほど複雑ではない小規模企業にとってはQUNJEのサービスから得られるメリットは小さいので、必然的に大企業がメインターゲットになる。具体的な売上金額などは公表されていないが、2018年の売上は数千万元で2017年の2.7倍の規模で成長している、sohu.comの2019年の記事では2019年の予測売上は5,000万元(8億5,000万円)を突破するとされている。
企業情報
企業名:(中)江蘇群傑物聯科技有限公司
ブランド名:群傑智能印章(QUNJE)
設立:2014年12月
創設者:朱傑
資本金:1,569万元(2億6,673万円)
従業員数:非公開
群傑智能印章(QUNJE)のビジネスモデル
QUNJEの収入源は【管理システム+IoT機器】の販売から得られる売上となる。sohu.comの2019年の記事によると、管理システムの標準価格は10万元(170万円)、機器の単価は1万元(17万円)となっている。この費用の他に年間メンテナンス費用が発生する。年間メンテナンス費用については、クライアントニーズに合わせて価格が設定される。
サービス詳細
QUNJEのソリューションサービスは主に下記4つのシステムと機器で構成されている。
①印鑑管理システム
IoT機器で押印されたデータは全てこの管理システムに集約される。
(例)
・印鑑のライフサイクル管理
印鑑の作成から破棄までを管理
・承認フローの管理
押印申請、承認までのデータを記録
・押印資料のデータ蓄積
押印された資料をデータとして管理する
②スマートロック付き印鑑セット
※QUNJEオフィシャルサイトより抜粋
※QUNJEオフィシャルサイトより抜粋
スマートロック付きのボトルに印鑑をセットすることで、印鑑の乱用を防ぐことができる。印鑑管理システム上で押印申請の承認を得ると、スマートロック解除パスワードが発行される。押印台に設置されたモニターにパスワードを打ち込むことでロックが解除され押印することができる。押印台には監視カメラが取り付けられており実際に誰が押印したのかを記録として残すこともできる。またボトルにはGPSが取り付けられており、印鑑の所在地を監視する機能がついている。
③自動押印機
※QUNJEオフィシャルサイトより抜粋
※QUNJEオフィシャルサイトより抜粋
前述のスマートロック付き印鑑セットは人が押印するのに対し、こちらの機器は自動で機械が押印まで実行してくれる。こちらも印鑑管理システムで承認を得たあと発行されるパスワードを入力することで機械が作動し、押印を行う。こちらの機器にもカメラが取り付けられており、押印した人物を記録として残すことができる。
④印鑑管理ボックス
※QUNJEオフィシャルサイトより抜粋
※QUNJEオフィシャルサイトより抜粋
スマートロック付きのボトルや印鑑を管理する。こちらも全て印鑑管理システムで承認を得た案件のみにQRコードやパスワードが発行され、担当者が印鑑の持ち出しや返却までの履歴データを全てシステムに取り込むことで、印鑑の紛失などを防ぐことができる。
ビジネスモデル
まとめ
これまで人力で対応していた業務が自動化・ロボ化することでコスト削減や業務効率化につながることは容易に想像できる。しかし、それより大事なことはそれによって生み出された時間や利益を新たな事業やイノベーションに投資することで企業が成長し、世界をより良くするチャンスが生み出されることだと思う。
参考記事
※1物联网产业研究报告:万物智联,数通未来.pdf
https://www.vzkoo.com/document/51e2715fb0806046f4035be83789e49c.html?keyword=%E7%89%A9%E8%81%94%E7%BD%91
※2印章管理是多大的生意?「群杰物联」用智能印章找到企业服务的差异化切入点
https://www.36kr.com/p/1722882064385
※3群杰物联朱杰:打造印章物联网,让企业知悉印章的每一次使用细节
https://www.im2maker.com/news/20180622/3451a657b5b2c75c.html
※4QUNJEオフィシャルサイト
http://www.qunje.com/
※5一枚印章的智能物联化探索
https://www.sohu.com/a/327339148_661910
筆者
Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。