”常に変化し続ける”ことが中国市場で生き残る唯一の方法

背景市場

iResearchが発表した「2022年中国美粧護膚品行業投資研究報告(日訳:2022年中国コスメスキンケア品投資研究レポート)」によると、2020年中国のコスメ・スキンケア業界の市場規模は約5,000億元(10兆円)となっている。その中でも特に市場が大きいのがスキンケア関連商品である。同レポートによると、基礎スキンケア商品の市場規模が約2,600億元(5.2兆円)、機能性スキンケア商品が約250億元(5,000億円)と両カテゴリの商品を合わせると6兆円近くの規模になる。この市場は一昔であればLOREAL、ESTEELAUDER、資生堂などの外資系ブランドが非常に強い市場であったが、近年では国産ブランドが大きく伸長している。その理由としては、商品のクオリティー、開発力の向上やECやWEBマーケティングの発達が挙げられる。

★2020年中国コスメ・スキンケア市場規模

※iResearch:2022年中国美粧護膚品行業投資研究報告(日訳:2022年中国コスメスキンケア品投資研究レポート)より抜粋

珀莱雅(PROYA)とは?

珀莱雅(以下:PROYA)は珀莱雅化粧品股份有限公司が運営するスキンケアを中心とした化粧品ブランドである。PROYAの創業者の一人である侯軍呈は1964年に中国浙江省の温州市に生まれた。温州は起業家などを多数輩出し、全世界に温州人のネットワークを築いているなどの点から“中国のユダヤ人”と呼ばれている。侯軍呈も例に洩れず優秀な商売人であった。1990年代にカーメンテナンスの商売をしていた彼は当時急成長していた義烏(中国の都市名)の日用品卸売ビジネスにチャンスを見出し、化粧品の卸売ビジネスを開始した。その後中国の化粧品ローカルブランドの代理店ライセンスを獲得し大きな資金を手にした。
化粧品のマーケティング手法や企業経営の経験を積んだ侯軍呈は2003年にPROYAを立ち上げた(※会社設立は2006年)。会社設立から約10年後の2017年には上海証券取引所での上場に成功した。

★PROYAオフィシャルサイト

※PROYAオフィシャルサイトより抜粋

企業情報

企業名:(中)珀莱雅化粧品股份有限公司

設立:2006年5月

創設者:侯軍呈、方玉友

資本金:2億8,351万元(56億7,020万円)

従業員数:非公開

珀莱雅が続ける”変化”とは?

PROYAの企業成長の歴史を見ると常に時代の流れに合わせて“変化”し続けていることがわかる。PROYAが設立された2000年代前半の化粧品市場では外資ブランドと中国ブランドが別々の領域で競争を繰り広げていた。消費者の所得が比較的高く、ECなどのインフラが整っている一級都市は外資ブランドが非常に強い状態だった。一方中国ブランドはというと一級都市を避けた地方都市(3~4級都市)を主戦場とし、販売チャネルもオフラインの実店舗を主軸としていた。PROYAもそのような市場背景からまずは3~4級都市をメインに販路を増やしていった。ブランドが設立された2003年~2007年頃までは3~4級都市の化粧品専売店・スーパーなどへ商品供給によって売上と利益を拡大していった。PROYAの目論見書を見ると2017年6月末時点でオフライン販売店舗数は2万店を超えている。展開店舗数は他社と比較しても勝っており、3~4都市市場での成功を手に入れた。しかし、ここまで流通チャネルを広げるとそれ以降の急成長は難しくなってくる。2017年~2020年のオフライン売上をみてもおおよそ10億程度で推移しており、売上の天井に達したと考えられる。
2017年:11.39億元(227.8億円)
2018年:13.31億元(266.2億円)
2019年:14.62億元(292.4億円)
2020年:11.24億元(224.8億円)

3~4級都市でのビジネスによる急成長が難しくなったPROYAは次の一手を考えた。2010年代からのオンラインへの本格参入である。2011年にTmall、JD、VIP、JUMEIなどの大手プラットフォームに進出した。この時点でのビジネスモデルは自社でEC店舗を運営するようなD2Cモデルではなく、プラットフォームに対する卸販売をメインにしたB2Bビジネスが主軸となっていた。2012年には別会社としてECの運営会社を設立するなどオンラインビジネスへの投資を拡大させていった。
2017年~2020年のオンライン売上を見ると、2019年頃からオンラインの売上がオフラインを上回る状況になっていることがわかる。
2017年:6.43億元(128.6億円)
2018年:10.28億元(205.6億円)
2019年:16.55億元(331億円)
2020年:26.24億元(524.8億円)
2017年の上場をきっかけにオンラインビジネスの主軸をこれまでの卸ビジネスから自社で店舗運営をするD2Cビジネスへと移行させていった。D2Cビジネスへ移行させる最大の意義は”ブランディングの強化”にある。卸ビジネスは一回のオーダーで多くの売上を獲得できる代わりに消費者との直接的な接点を持ちにくくなる。また卸ビジネスの利益率はD2Cモデルよりも悪くなる傾向にある。仮に小売価格1,000円の商品を代理店へ掛け率50%卸した場合、メーカーの売上は500円、D2Cビジネスでエンドユーザーへ直接販売する場合、メーカーの売上は1,000円となる。この500円の差額をブランディングやマーケティングに使えることがD2C最大のメリットである。PROYAはこれまで3~4級都市をターゲットに業績を拡大してきたが、ECなどのオンラインビジネスであればエリア限定ではなく中国全土が販売エリアになる。またオンラインであればこれまで1級都市で強かった外資系ブランドと競争せざるを得ない状況になる。PROYAとしてはこれまでの3~4級都市向けの安い現地ローカルブランドというイメージから脱却し、新たなブランド構築が必要となる。PROYAがそこで取った戦略が”スター商品戦略”である。複数SKUにまんべんなくマーケティング費用を投資するのではなく、1SKUに絞って徹底的に投資することで商品を通じて売上とブランドの認知度を上げる戦略である。2017年時点ではD2Cの直営ビジネスとオンラインプラットフォームへの卸事業の売上比率が45.77%:54.23%と卸ビジネスの比率が高かったのに対し、2019年には53.54%:46.46%と逆転している。D2Cも初期は運営代行業者を介したビジネスであったが、運営代行費用のコストをカットするために自社でEC運営をスタッフを採用し内製化を進めていった。

スター商品戦略の実行にあたりこれまでの商品キャッチコピーや訴求点も一新させた。2017年頃、微博・RED(小紅書)・微信・bilibili・抖音(TikTok)などのSNSを活用したWEBマーケティングが盛り上がりを見せており、消費者の化粧品の成分や効果効能への関心が高まった。”成分党”と呼ばれる消費者層も出現した。このような消費者ニーズを捉えたPROYAはこれまでの”(肌への)水分補給”や”海洋ケア”などの抽象的なコンセプトではなく、”抗衰(アンチエイジング)”を全面的に押し出したブランディングへと舵を切った。アンチエイジングに特化したブランドというメッセージを消費者に伝えることで、これまでの安っぽいイメージから専門性の高いイメージへと変身を遂げた。特に”早C晩A(朝はビタミンC配合の商品を使い、夜はビタミンA配合の商品をつかう)”というコンセプトをもとに作られた商品が大ヒットし”スター商品”となったことで、売上やブランド認知の向上に大きく貢献した。

★早C晩A・成分党など消費者のニーズを捉えた商品が大ヒット

※PROYA天猫旗艦店より抜粋

昨今中国のプロモーションで人気を博したのが”ライブコマース”であるが、多くのブランド陥る罠がある。ライブコマースはKOLの影響力を利用して一晩で大きな売上を作ることができる。しかしKOLの影響力のみに頼り、ブランドや商品コンセプトが消費者のニーズに合っていない場合その後のリピート率などが上がらず売上規模がスケールしない状況に陥る。しかも最近のライブコマースKOL業界ではトップKOLが脱税で逮捕されたり、突然姿を消すなどの大きな事件が発生した。それまでトップKOLに頼りきった販売手法で売上を作ってたブランドは軒並み業績不振に陥った。PROYAもトップKOLのライブコマースを活用していたものの、影響は小さかった。PROYAはライブコマースの中でも、早くから”自社ライブコマース”という手法で安定した売上を作っていた。自社ライブコマースとは、抖音やTmallのECサイトでKOLではなく自社でライブコマースを行う手法である。自社ライブコマースだとKOLの意向に左右されないコンテンツが配信できたり、ブランドや商品へのロイヤリティが高いユーザーの集客が可能となる。

★PROYA自社ライブコマース

※PROYA抖音オフィシャルアカウントより抜粋

①時流に合わせた販売チャネルの選択
②消費者ニーズを正確に掴んだブランディングと商品設計
③短期的な売上ばかりに執着せず、ブランドや商品に共感するユーザーを重視した販売手法
企業の中には過去の成功体験から脱却できず、新しいチャレンジに消極的なものがいる中PROYAは常にその時々で最適なものを選択することで競争激しい化粧品業界で成長を続けることができている。

サービス詳細

フェイスクリーム:380元(7,600円)
※2022年11月22日Tmall旗艦店の価格

※PROYA天猫旗艦店より抜粋

目元クリーム:400元(8,000円)
※2022年11月22日Tmall旗艦店の価格

※PROYA天猫旗艦店より抜粋

化粧水:240元(4,800円)
※2022年11月22日Tmall旗艦店の価格

※PROYA天猫旗艦店より抜粋

ビジネスモデル

まとめ

「中国は変化が激しいので対応が難しい」。日系企業の担当者の口からよく出る言葉である。一見中国だけが特別な環境と思われがちだが、日本こそが特殊な環境だと思う。変化を続けることができるから新しいサービスやイノベーションが生まれる、そして経済の規模も大きくなる。絶え間ない変化が起こりそれに適応していくのが世界のスタンダードだと言える。

参考記事

※珀莱雅(PROYA)オフィシャルサイト
https://www.proya.com/
※逆势增长公司|不靠李佳琦,碾压欧美大牌,这家老牌国货美妆做对了什么?
https://36kr.com/p/2006810537731200
※外资重仓珀莱雅之谜
https://36kr.com/p/1940417103612546
※珀莱雅们不需要头部主播了
https://36kr.com/p/1827391616419587
※PROYA2022年上半期レポート
http://www.sse.com.cn/disclosure/listedinfo/announcement/c/new/2022-08-26/603605_20220826_2_SVAm4nSd.pdf
※PROYA目論見書
http://www.sse.com.cn/disclosure/listedinfo/announcement/c/2017-11-02/603605_20171102_4.pdf
※模仿不仅是珀莱雅的起点,也是终点
https://www.toutiao.com/article/6939747734719037989/?channel=&source=search_tab
※2022年中国美妆护肤品行业投资研究报告(简版)
https://www.iresearch.com.cn/Detail/report?id=3957&isfree=0
※PROYA2017年度報告
http://www.sse.com.cn/disclosure/listedinfo/announcement/c/2018-04-18/603605_2017_n.pdf
※PROYA2018年度報告
http://www.sse.com.cn/disclosure/listedinfo/announcement/c/2019-03-29/603605_2018_n.pdf
※PROYA2019年度報告
http://www.sse.com.cn/disclosure/listedinfo/announcement/c/2020-04-02/603605_2019_n.pdf
※PROYA2020年度報告
http://www.sse.com.cn/disclosure/listedinfo/announcement/c/new/2021-04-23/603605_20210423_31.pdf

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。