台本の登場人物になりきる、人気娯楽コンテンツ[マーダーミステリー]

背景市場

中国では新たな娯楽コンテンツ「マーダーミステリー(中国語:劇本殺)」が人気を集めている。マーダーミステリーとは、推理ミステリーなどの台本をもとに登場人物に扮した複数の参加者が事件を解決したりする娯楽コンテンツのことである。日本で人気を博した「脱出ゲーム」や「人狼」などのパーティーゲームを想像すると分かりやすい。
iiMediaのレポート[2021年中国劇本殺行業発展現状及市場調研分析報告(日訳:2021年中国マーダーミステリー業界発展現状及び市場調査分析レポート)]によると、2019年頃からマーダーミステリー市場が大きく拡大しており、その市場規模は
2019年:109.7億元(1,864億円)
2020年:117.4億元(1,995億円)
2021年※予測:170.2億元(2,893億円)
2022年※予測:238.9億元(4,061億円)
と年々成長を続けることが予測されている。
また、同レポートによると、2021年3月時点において中国の消費者が好むオフライン娯楽コンテンツのランキングでは、映画、スポーツ/フィットネスに続きマーダーミステリーが3位にランクインしていることからも人気の高い娯楽コンテンツであることがわかる。

★マーダーミステリー業界市場規模

※[2021年中国劇本殺行業発展現状及市場調研分析報告(日訳:2021年中国マーダーミステリー業界発展現状及び市場調査分析レポート)]より抜粋

★オフライン娯楽コンテツTOP5

※[2021年中国劇本殺行業発展現状及市場調研分析報告(日訳:2021年中国マーダーミステリー業界発展現状及び市場調査分析レポート)]より抜粋

探案筆記(PROBE NOTES)とは?

上海劇憶文化伝播有限公司が運営する探案筆記(PROBE NOTES※以下PROBE NOTES)は、マーダーミステリーの台本製作や体験施設の運営を行っている。

上海劇憶文化伝播有限公司の創設者で現CEOである孟玉洋は、2012年頃にカナダに留学しており、留学中に密室ゲームブランド「escape matrix」を立ち上げた経歴を持つ。その頃からマーダーミステリーの業界で実績を作ってきた。密室ゲームの施設を学校の近くに作り、学生をターゲットに運営をすることでサービスを開始。起業当初は月数万~数十万カナダドルの利益を上げ、その後施設の拡大に伴い最終的には月30万~50万カナダドル(2,640万~4,400万円)の利益水準にまでビジネスを成長させた。

36Kr.comの記事によると2018年に立ち上がったPROBE NOTESは2019年の市場拡大を追い風に、フランチャイズ展開するマーダーミステリー体験施設「探案劇場(BRAIN BRUISER)」の施設数を2021年内に100箇所、3年以内に1,000箇所まで拡大させる計画だ。PROBE NOTESの正確な売上規模は公開されていないが、LIE YUNWANG.COMの記事によると、記事を配信した2021年5月時点で売上は1,000万元(1.7億円)を突破し、2021年内には数千万元の売上規模になると予測されている。

★店舗の内装
 
※PROBE NOTES微博オフィシャルアカウントより抜粋


★登場人物になりきってゲームを楽しむ

※PROBE NOTES微博オフィシャルアカウントより抜粋

企業情報

企業名:(中)上海劇憶文化伝播有限公司

ブランド名:探案筆記(PROBE NOTES)

設立:2020年10月

創設者:孟玉洋

資本金:222万元(3,774万円)

従業員数:非公開

マーダーミステリー業界の構図

マーダーミステリー業界は主に、下記の3つの役割で構成されていることが一般的である。
1.製作(台本の製作)
2.発行(台本の発行元としての販売や管理など)
3.運営(マーダーミステリーの体験施設やオンラインプラットフォームの運営など)
台本製作のみを行う企業もあれば、製作から施設やプラットフォームの運営までを内製している企業もある。PROBE NOTESは後者にあたる。yxrb.netの記事によるとPROBE NOTESは自社で30人ほどの台本製作チームを抱えている。外部の作家などと契約することもあるが、独自で台本を製作できることが強みだ。また台本の発行元として消費者やその他運営会社に台本を販売するビジネスも行っている。最近では芸能人とコラボした体験施設の立ち上げやテレビ番組、動画配信サイト、IPとのコラボを積極的に行い知名度や人気を集めている。また台本作家の育成を目的としたサービスの展開など、新たな試みを行っている。

PROBE NOTESの収入源

PROBE NOTESの収入源は主に2つ。
【1】マーダーミステリー体験施設の運営収入
体験施設の種類は2種類
・自社運営施設「AfterLife」
自社運営の施設なので消費者の施設利用料がすべて収入となる。
・フランチャイズ運営の施設「探案劇場(BRAIN BRUISER)」
フランチャイズの加盟条件は主に4つ
<加盟モデル1>
・初期費用:60,000元(102万円)
・年間管理費:15,000元(255,000円)
・契約期間:3年間

<加盟モデル2>
・年間管理費:15,000元(255,000円)
・契約期間:3年間

<加盟モデル3>
・マージン
①売上の20%をマージンとして支払う。
②売上の30%をマージンとして支払う。
①と②の違いは出店する場所によって決定される。
・契約期間:3年間

<加盟モデル4>
・マージン
①50%をマージンとして支払う
・年間管理費:15,000元(255,000円)
・契約期間:3年間

加盟条件によって初期費用やマージンが異なる理由は、PROBE NOTES側からどれだけの支援やサポートを受けるかによって条件が決定するためである。
支援やサポートの例としては下記のようなものがある。
1.収益の予測
2.店舗管理システムの提供
3.店舗デザインや内装工事(費用はフランチャイズ側で負担)
4.店舗運営サポート
5.店長などへの研修

【2】自社製作の台本販売
yxrb.netの記事によると台本販売が売上に占める割合は30%ほどで、それ以外は体験施設の運営関連収入とされている。

サービス詳細

1.マーダーミステリー体験施設の利用料
台本ごとに価格が異なる。
大体80分~100分で終了するものが多く、価格は一人当たり128~188元程度(2,200~3,200円)となる。
体験施設の人気が高い理由として、台本にあったコスチュームの貸し出しや世界観を演出する部屋で遊ぶことができる点にある。まさに台本の登場人物になりきって遊ぶことができる。

★ゲーム体験の価格

※大衆点評より抜粋

2.台本の販売
台本によって価格は様々。安いものであれば400元(6,800円)ほどで、高いものは13,000元(22万円)ほどするものまである。Wechatの公式アカウントから購入することができる。消費者個人が買い求めるよりも、体験施設を運営する業者が買うことが多い。

★台本の一例

※PROBE NOTES Wechat公式アカウントより抜粋

ビジネスモデル

まとめ

中国の若者は大勢で遊ぶことが好きで、全力で楽しもうとする印象がある。筆者が中国で働いていた時、仕事が終われば同僚からカラオケ、ビリヤードなどにしょっちゅう誘ってもらった。またSNSなどで自撮りの写真をアップすることにあまり抵抗は感じない、むしろキメ顔をアップする。他人からどう見られているかを日本人ほど気にしないのだろう。マーダーミステリーが人気なのも、友達がいても恥ずかしがらずに登場人物になりきり、その場の雰囲気を存分に楽しむことができる若者の特徴と上手くマッチしているからだろう。

参考記事

※1艾媒咨询|2021年中国剧本杀行业发展现状及市场调研分析报告
https://www.iimedia.cn/c400/77814.html
※236氪首发 | 剧本杀品牌「探案笔记」获数千万元A轮融资,逐步完成线下沉浸式娱乐产业链全覆盖
https://www.36kr.com/p/1402452560156041?utm_
※3手握王者荣耀庆余年等IP,探案笔记抢占170亿剧本杀市场
https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_12821097?utm
※4今日头条_游戏日报:专访探案笔记CEO孟玉洋:年入千万的剧本杀公司是怎样炼成的?
https://www.lieyunwang.com/archives/475425

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。