背景市場
EC店舗システム大手の有賛(Youzan)と乳製品メーカーの維益(RICH’S)が共同で発表した、《2021年烘焙行业发展趋势报告(日訳:2021年ベーカリー業界発展動向レポート)》によると、中国のベーカリー市場は2020年に2,358億元(4兆86億円)、2021年は2,657億元(4兆5,186億円)と予測されている。ベーカリー市場の中でも多くの比率を占めるのが、ケーキ市場で2020年の市場規模は973億元(1兆6,541億円)にものぼる。また、iiMediaのレポート《2021年中国烘焙食品行业竞争格局与消费行为分析报告(日訳:2021年中国ベーカリー食品業界競争状況及び消費者行動分析レポート)》によると、2020年ベーカリー食品の国別一人当たりの平均消費量では中国が7.3kg、日本が18.1kg、アメリカ30.3kgとなっており、中国の消費量は日本の40%、アメリカのわずか24%でしかない。ケーキ市場を含めたベーカリー市場は大きな潜在力を秘めた市場と言われている。
★ベーカリー食品の市場規模
※《2021年烘焙行业发展趋势报告(日訳:2021年ベーカリー業界発展動向レポート)》より抜粋
★2020年中国のベーカリー食品年間消費量
※《2021年中国烘焙食品行业竞争格局与消费行为分析报告(日訳:2021年中国ベーカリー食品業界競争状況及び消費者行動分析レポート)》より抜粋
熊猫不走(PANDA NEVER LEAVE)とは?
熊猫不走(PANDA NEVER LEAVE※以下PANDA NEVER LEAVE)は、恵州市熊猫不走烘焙有限公司が運営するケーキ食品ブランドである。オフィシャルサイトの記載によると、2017年からサービスを開始し、現在中国の24都市にサービスを展開しており、SNSなどで獲得したユーザー数は2,000万人にのぼる。36kr.comの記事によると、月の売上が約7,000万元(11.9億円)、年間売上は約8億元(136億円)となっている。ユーザーからの評価も高く、リピート率は50%と非常に高い数値になっている。また、erbunの記事によるとメインの消費者層は24歳~35歳の女性で、年間の平均購入回数は3.7回となっている。この勢いにのって今後数年間で単月のGMV(流通総額)を5億元(85億円)まで伸ばす計画だ。投資家からも注目を集めており、2021年9月には約1億元(17億円)の融資獲得に成功している。
★熊猫不走(PANDA NEVER LEAVE)オフィシャルサイト
※熊猫不走(PANDA NEVER LEAVE)オフィシャルサイトより抜粋
企業情報
企業名:(中)恵州市熊猫不走烘焙有限公司
ブランド名:熊猫不走(PANDA NEVER LEAVE)
設立:2017年10月
創設者:楊振華
資本金:157万元(2,669万円)
従業員数:非公開
熊猫不走(PANDA NEVER LEAVE)のサービスとビジネスモデル
★サービス★
PANDA NEVER LEAVEは自社の実店舗を持っているわけではない。顧客がオンラインから注文し、配達するサービスを行っている。2,000人の社員を抱えており、その多くを占めるのが配達員で、約600~700人の配達スタッフがいる。この配達員のある「サービス」が大きな人気を集めている。PANDA NEVER LEAVEのユーザーの多くが、誕生日などを祝うパーティー用にケーキを注文する。PANDA NEVER LEAVEの配達員は全員「パンダの着ぐるみ」の格好で配達をするのだ。パンダに扮した配達員がケーキを届けにくるだけでも、誕生日を迎える子供や若者は喜ぶが、この企業のサービスはそこで終わらない。パーティーを盛り上げるために、ダンスやマジックなどの余興を行う。余興を行うとだけあって配達員の待遇もいい。オフィシャルサイトの記載では、配送スタッフの一般的な給料は3,000元(51,000円)程度だが、PANDA NEVER LEAVEの配送スタッフの給料は10,000元(17万円)程度と業界平均より3倍も高い。このサービスがブランド名にも反映されており、中国語のブランド名[熊猫不走]の意味も「パンダは行かないよ(送り届けるだけでなく、その後も現場に残るよ)」となる。
PANDA NEVER LEAVEの創設者の楊振華が2021CNEF中国城市夜間経済発展峰会(2021年中国都市夜間経済発展フォーラム)で語った内容によると、誕生日やパーティーにおいてこれまでケーキとその他のサービス(余興など)は個別のサービスとして存在していた。他社のケーキメーカーなどは消費者に対し主にケーキの分量や形、価格などを訴求している。しかし、誕生日やパーティーで重要なのはケーキ本体ではなく、そこで演出される雰囲気や盛り上がりである。そこで楊振華は「ケーキ+サービス」の新たなサービスを開発し、その場の雰囲気を盛り上げるパンダを全面に押し出すことでビジネスの拡大に成功した。パンダが踊ったりする様子がSNSなどの媒体で拡散されPANDA NEVER LEAVEの知名度を押し上げた。現在では中国のSNS小紅書(RED)で「熊猫不走」と検索すると、約33,000件もの投稿がでてくる。中国ではこのように誰かにシェアしたくなるコンテンツを[社交貨幣(ソーシャル通貨)]と呼び、マーケティングの手法として注目されている。各社ともどうすればこのソーシャル通貨を作ることができるかに悪戦苦闘している。
★小紅書(RED)の記事
※小紅書(RED)の投稿より抜粋
★実際にパンダが余興をする様子
▶ここをクリックすると動画を見ることができます
※小紅書(RED)熊猫不走オフィシャルアカウントの投稿より抜粋
★ビジネスモデル★
オンライン上で受注し、消費者に商品を届ける宅配サービスがメインの事業である。
宅配について重要になってくるのが「宅配時間」である。PANDA NEVER LEAVEは注文から3時間以内に宅配することを唱っている。速やかな宅配を実現するために、物流体制としては[センター倉庫+前置倉庫]を採用している。オフィシャルサイトの記載によると、各都市にセンター倉庫を1箇所、前置倉庫を5~8箇所を配置している。各前置倉庫は周囲5kmの配送を担当する。センター倉庫の広さは1,000㎡で、約30人ほどのスタッフで生産を行っている。センター倉庫から前置倉庫までは30分~90分で届けることができる。前置倉庫については以前の記事でも紹介しているのでご参考頂きたい。
★過去記事
前置倉庫モデルを極めた生鮮食品EC【叮咚買菜】、米国でのIPOをねらう
サービス詳細
Wechatのミニプログラムやフードデリバリーのアプリからケーキを注文することで、宅配サービスを利用することができる。
ケーキの価格も約140元(2,380円)~2,000元(34,000円)と様々な種類の商品を揃えている。
★商品ラインナップ
※熊猫不走Wechatミニプログラムより抜粋
ビジネスモデル
まとめ
サービスやビジネスをゼロイチから開発するのは非常に難しい。しかし、既存のサービスを融合させることで新たなビジネスを生み出すこともできる。「宅配」と「余興サービス」、これまで独立して存在していたサービスを1つにすることで急成長をしているPANDA NEVER LEAVEはまさにその代表的な例といえる。
参考記事
※1有赞&维益: 2021年烘焙行业发展趋势报告(附下载)
http://www.199it.com/archives/1265498.html
※2艾媒咨询|2021年中国烘焙食品行业竞争格局与消费行为分析报告
https://www.iimedia.cn/c400/80951.html
※3PANDA NEVER LEAVEオフィシャルサイト
http://www.xiongmaodangao.com/
※4烘焙赛道频出黑马,复盘「熊猫不走」融资历程
https://www.toutiao.com/a7012120653772161543/?channel=&source=search_tab
※5熊猫不走创始人杨振华:创新无穷尽 要真正洞察用户需求
https://www.ebrun.com/20210928/454551.shtml
※6熊猫不走“地推”背后的大战略
https://www.sohu.com/a/494554484_120988271/
筆者
Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。