【不動産テック】米国ベンチャーOfferpadの最新買取りモデル

要点

  • アメリカでは、不動産物件価格査定をアルゴリズムで行うiBuyer市場が流行
  • Offerpadは、不動産オーナーから約10日間以内で手数料6-10%で物件を買い取り、買い手には手数料0%で転売
  • 資金的な体力が必要になるが、スケールメリットが発揮される

ストーリー

新型コロナウイルスの感染拡大が続いていくなかで、期末決算対策などを踏まえた不動産の保有資産売却が相次ぐ。一方で、不動産価格への影響は限定的であるとの見通しから、日本でも外資系企業、リートファンド、個人富裕層がより良い物件を求めて物色する。つまり、不動産市場の流動性はそこまで低くないと言える。

そんな状況の中、アメリカでは、「IBuyer市場」が流行している。iBuyerとは、価格査定アルゴリズムを駆使して、物件所有オーナーから直接買い取り、自社の在庫にした後に、買い手に転売するビジネスモデルだ。従来の不動産販売プロセスは、仲介業者が入り、査定、買い手探し、価格や条件調整などを経て、最終的に売却する流れだ。しかし、IBuyer市場では、これらのプロセスと飛ばし、査定の後に売却をする、いたってシンプルなモデルだ。グローバル不動産テックストラテジストのMike氏が運営するMIKE DELPARETEによると、2020年の上半期、米国のiBuyer市場では、iBuyerによる不動産物件の買い取り件数が約90%減少した一方で、在庫の販売は堅調だった。新型コロナウイルス拡大前の販売水準には戻っていないが、市場は回復傾向にある。


Offerpadは2015年にアメリカで生まれた。創業のきっかけは、創業者のBrian Bair氏と優秀な仲間達が、約10万件の不動産物件の販売、賃貸契約、リノベに携わった経験から学んだこと。それは、どれだけ良い価格で物件が売れたとしても、物件所有オーナーは、時間と労力のかかる販売プロセスに相当なストレスを抱えると感じたことだ。

物件の内見準備、取引の交渉、引っ越し業者の準備や書類等の事務作業は、時間がかかるだけでなく、オーナーの体力を奪い、気持ちを不安にさせることに、Bair氏は気がついた。

Bair氏は、進化を遂げない不動産業界に終止符を打つために、物件販売プロセスを見直し、便利で、確実性が高く、使いやすいビジネスモデルを構築した。iBuyer市場は、先駆者のOpendoorやKnock、Zillowなどの競合がひしめく業界であるが、累計調達額がUS$975 million(約1020億円)に達し、全米約800の市でビジネスを展開するOfferpadはどのように拡大してきたのか。

企業概要

企業名:Offerpad 
起業年:2015年
創業者:Brian Bair, Jerry Coleman 
従業員数:300-400 
企業URL:https://www.offerpad.com/

ビジネスモデル

iBuyerの売り上げは、一般的に以下の式で成り立つ。
売上= 物件買い取り手数料 6-10% + 物件販売上乗せ価格 約3-8%



※グローバル不動産テックストラテジストのMike DelPrete氏の資料より著者作成

売り手に優しい売買プロセス
物件オーナーは5分程度で完了する物件情報に関する質問にオンラインで回答。任意で、写真や動画も送る。従来のiBuyerはアルゴリズムを組んで価格の査定を行うが、Offerpadの場合、アルゴリズムと専門家が価格を査定して、24時間以内に結果を報告する。つまり、アルゴリズムだけでは把握できない要素も認識して、ミスプライシングを避けることが狙いだ。査定結果に合意した場合、内見なしで販売する。したがって、物件オーナーは、ほとんどの工数をかけずに、Offerpadに販売することができる点が非常に魅力的である。

また、契約締結日も柔軟に変更することができるだけでなく、滞在の延長や、約80キロ圏内の距離であれば無料で引っ越しの支援も行う。基本的には、約10日間で売買が完了すると述べている。肝心なマネタイズに関しては、Offerpadが物件価格から約6-10%の手数料を差し引いて買い取る。

offerpadビジネスモデル

競合他社への対抗策や占有率を拡大させるために、大手不動産エージェントのKeller Williamsと提携もしている。提携のポイントは、全米で約18万5千人のKeller Williamsのエージェントが、通常の売却提案の選択肢もありながら、Offerpadの提供する価格査定アルゴリズムを使用して、Offerpadに物件を売却することができる点だ。Offerpadに売却が成功した場合、KWのエージェントは仲介手数料を得ることができる。また、Offerpadが転売する物件にもKWのエージェントが仲介でき、成約すれば仲介手数料が得ることができる。


売り手への付加価値サービス
Offerpadに直接販売するのではなく、不動産取引市場に物件を一般公表することも可能だ。Offerpadが部屋のクリーニングや消毒を無料で提供。通常、物件を販売するオーナーは、物件価格を上げるためのリノベーションをするための費用を支出することをためらうが、Offerpadは、無金利で電化製品、フローリング、家内外の塗装などのリノベーション工事費用を貸し出し、別途追加サービス費用なしでリノベーション工事を支援する。


インスタントアクセスサービス
物件を借りたり、購入するとき、ほとんどの人が内見を行うが、その際に障害になることはスケジュール調整だ。不動産管理会社と予定を調整し、待ち合わせをして、物件をみる。気に入らなければ、次の物件に移動する。こんな苦い経験をしたことがある人は少なくないはずだ。Offerpadが提供するアプリをダウンロードして身分証明書IDを紐づけると、物件購入希望者は、朝6時から夜の20時の間に好きな物件を自分の都合の良い時間に見に行くことができる。到着後、アプリで申請すれば、暗証番号が表示され、ドアに番号を入力すれば、家に入れる仕組みだ。

最後に

日本では少子高齢化が進み、地方都市では過疎化に歯止めがきかなくなっている。地方の空き家は年々増え続けるが、老朽化しているため需要が少なく、不動産会社も積極的に扱わない。「すぐに売却して現金化したい」人がターゲットになることは間違いないが、日本で普及させるためには、比較的インターネットが苦手な年配の方にへのアプローチが鍵となる。いずれにせよ、ビジネスモデルの活用方法が多岐にわたることから、iBuyerが日本市場にも浸透することに期待したい。

著者プロフィール

小松彰洋。Business Earth管理人。大学卒業後、外資系IT企業で営業やマネジャー職を経て、現在はIT関連の経営コンサルティングやソフトウェアセールス領域で活動中。