背景市場
iiMedia Researchが発表した「2022年上半年新式茶飲行業発展現状与消費趨勢調査分析報告(日訳:2022年上半期新式ティードリンク業界発展状況及び消費トレンド調査分析レポート)」によると、中国の新式ティードリンク市場規模は、下記の通りとなっている。
2021年:2,795.9億元(5兆5,918億円)
2022年(見込):2,938.5億元(5兆8,770億円)
2025年(見込):3,749.3億元(7兆4,986億円)
現状でも5兆円規模となっているが、2025年には7兆円を超える規模にまで成長が見込まれている。飲食産業のなかでも特に注目されているカテゴリである。
新式ティードリンク(新式茶飲)とは、お茶を主原料としてそこから抽出した濃縮液に牛乳、クリーム、チーズ、フルーツ、ナッツなどを組み合わせて作るドリンクを指す。
新式ティードリンクのビジネスは大きな盛り上がりを見せており、多くの企業が市場に参入し中には上場する企業も現れている。今回は競争激しい新式ティードリンク市場で圧倒的な店舗数を誇り、上場を目前にしている企業を紹介したい。
★2016-2025中国新式ティードリンク業界市場規模
※iiMedia Research:「2022年上半年新式茶飲行業発展現状与消費趨勢調査分析報告(日訳:2022年上半期新式ティードリンク業界発展状況及び消費トレンド調査分析レポート)」より抜粋
蜜雪冰城(Mixue bingcheng)とは?
蜜雪冰城は蜜雪冰城股份有限公司が運営するティードリンクショップブランドである。創業者の張紅超のこれまでの歴史について今日頭条の配信アカウント[戯聊史]が詳しく記載している。張紅超は河南省の貧しい農家に生まれた。両親はそれでも張紅超を学校に行かせようと努力したが、本人の素行などの問題で中学卒業後は進学しなかった。張紅超はたしかに中学卒業という学歴ではあるが、数学の成績だけは優秀であった。中学卒業後、彼は自分で起業する道を選んだ。両親は彼の選択に対して大反対であったが、それでも起業への意志は揺るがなかった。
しかし中学卒業したばかりの若者が銀行などから融資を受けることができるはずもなく、起業の夢はすぐには実現しなかった。そこで当面の生活のために飲食店で働き始めたとき、客が養殖業が非常に儲かると話しているのを偶然耳にした。その後彼はうずらの養殖業を始めた。しかし養殖業の経験などがなく、結果的にうずらが感染病を引き起こし初めての起業は失敗に終わった。その後いろんな分野でビジネスを始めたがどれも成功にはつながらなかった。仕事をしようにも学歴が原因で定職につけないことに気付いた彼は大学に進むことを決める。しかし大学卒業後に定職についたわけではなく、自分でかき氷屋を始めた。このビジネスが彼の起業のなかで初めて上手くいった。この経験をもとにレストラン事業を展開したところ非常に大きな売上を作り、張紅超は人生で初めて大金を手にすることになる。かき氷ビジネスで成功のきっかけを掴んだ彼は、その後アイスクリームの研究に没頭することになる。2006年当時市場ではアイスクリームが人気になり、十数元のアイスクリームがどんどん売れる状況だった。そこで張紅超はそれを大きく下回る2元(40円)のアイスクリームを開発し、市場に参入することを決めた。蜜雪冰城は今でこそティードリンクのチェーン店ブランドであるが、このブランドの知名度や人気を一気に広めたのはアイスクリームであった。アイスクリームが最初のスター商品になり、次にスター商品となったのが今の蜜雪冰城の代表的商品であるティードリンクである。現在中国全土に20,000店以上を展開する大人気チェーンになり、2022年9月には中国証券監督管理委員会に上場申請を行い、審査を通過した。今後深セン証券取引所で上場する予定となっている。
★蜜雪冰城オフィシャルサイト
※蜜雪冰城オフィシャルサイトより抜粋
企業情報
企業名:蜜雪冰城股份有限公司
設立:2008年4月
創設者:張紅超
資本金:3億6,000万元(72億円)
従業員数:非公開
蜜雪冰城(Mixue bingcheng)のビジネスモデル
中国証券監督管理委員会に提出した目論見書を読み解くことで、蜜雪冰城のビジネスモデルの詳細が見えてくる。蜜雪冰城の全体売上規模は2021年に103億5,098万元(2,070億1,960万円)、2022年1月~3月の3ヶ月で24億3,409万元(486億8,180万円)となっている。蜜雪冰城はティードリンクなどをメインに扱う”蜜雪冰城”、コーヒー専門店”幸福咖”、アイスクリーム専門店”極拉図”の3ブランドを展開している。2022年3月末時点で蜜雪冰城ブランドの店舗数は21,619店と業界内でも圧倒的な店舗数を誇っている。この規模の店舗数まで拡大できた要因はフランチャイズ方式にある。その店舗数の内訳を見るとフランチャイズ店が21,582店、直営店が37店とフランチャイズビジネスが蜜雪冰城のビジネスの根幹を成している。フランチャイズ方式であるがゆえに短期間での急速な店舗拡大が実現できた。2020年時点のフランチャイズ店数は12,928、2021年には19,986と1年間で7,058店舗も増加した。2021年度の蜜雪冰城グループ全体の売上構成を見てみると売上の大部分が蜜雪冰城本社がフランチャイズ店へ販売する食材や資材などで構成されていることがわかる。
2021年度売上構成
食材:約72.3億元(1,446億円)
包装資材:約17.7億元(354億円)
設備:約6.9億元(138億円)
運営物資&その他:約3.6億元(72億円)
フランチャイズ加盟店管理費:約1.9億元(38億円)
直営店商品販売:約0.8億元(16億円)
直営店の売上比率は全体売上のわずか0.8%しかなく、フランチャイズ店の増加が蜜雪冰城全体の売上成長のドライバーであることがわかる。
★蜜雪冰城店舗外観イメージ
※蜜雪冰城オフィシャルサイトより抜粋
フランチャイズへの加盟条件も目論見書に記載されている。主に加盟費用、管理費用、研修費用、保証金が必要になる。ティードリンク店”蜜雪冰城”への加盟の場合、1回の契約期間は3年となり加盟費用は都市の等級に応じて年間7,000元(14万円)/年、9,000元(18万円)/年、11,000元(22万円)/年の3パターンに分かれる。管理費用としては本部が店舗に対して行う定期・不定期の営業指導、日常の管理に対して4,800元(9.6万円)/年を徴収する。加盟店及びスタッフに対して行われる調理方法、設備メンテナンス、経営方法などの研修やコンサル費用は2,000元(4万円)/年となっている。保証金は1店舗あたり20,000元(40万円)を支払う必要がある。
2万店を超えるフランチャイズ店を運営管理していくために、蜜雪冰城は商品供給・物流面についても独自のネットワークを築いている。中国全土に展開する店舗に対してスピーディーな対応を行うために、中国22の省・自治区・直轄市に倉庫物流拠点を構えている。また、店舗に供給する食材も主要なものに関しては自社工場で生産している。蜜雪冰城の最大の強みは”圧倒的な低価格”である。例えばミルクティーの値段を比べてみると、競合他社が平均10~15元(200円~300円)であるのに対して蜜雪冰城の商品はわずか6元(120円)とかなり安い。自社で食材製造を行ったり物流拠点を持っていることがこの低価格の実現に大きく貢献している。
中国での成功を足がかりに今後は海外展開にも注力していくと見られている。特に東南アジアでのビジネスが好調で2022年3月31日時点でベトナムに蜜雪冰城ブランドの店舗が249店、インドネシアには317店舗を展開している。
サービス詳細
蜜雪冰城はミルクティー・フルーツティーなどの商品を取り揃え、
価格も6~15元(120~300円)とて価格が大きな魅力となっている。
★フルーツティー
※蜜雪冰城オフィシャルサイトより抜粋
★紅茶
※蜜雪冰城オフィシャルサイトより抜粋
★ミルクティー
※蜜雪冰城オフィシャルサイトより抜粋
★サンデー
※蜜雪冰城オフィシャルサイトより抜粋
ビジネスモデル
まとめ
中学卒業時点で起業を決意するなど張紅超には経営者としての素質があったのかもしれない。しかし彼の本当の凄さは常に”実践”する行動力にある。養殖業、かき氷屋、レストランなど多くのビジネスにトライし続けたことが今日の蜜雪冰城のビジネスがここまで成長できた一番の要因ではないだろうか。ビジネスモデル、理論、フレームワークなど多くの知識を学ぶことはもちろん大切ではあるが、ビジネスを興したり事業経営を行う上で大切なのは”とりあえずやってみる”ことかもしれない。
参考記事
※蜜雪冰城オフィシャルサイト
https://www.mxbc.com/
※蜜雪冰城 目論見書
https://pdf.dfcfw.com/pdf/H2_AN202209221578600852_1.pdf
※艾媒咨询|2022年上半年中国新式茶饮行业发展现状与消费趋势调查分析报告
https://www.iimedia.cn/c400/85873.html
※蜜雪冰城创始人张红超的传奇人生:从一穷二白到坐拥200亿帝国
https://www.toutiao.com/article/7090836871382598185/?channel=&source=search_tab
筆者
Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。