MINISO(名創優品)とは?
2022年7月に香港証券取引所にてある企業が上場に成功した。企業の名前は”MINISO Group Holding Limited(名創優品集団控股有限公司)”。日本のメディアでも多く取り上げられている中国の小売ブランドである。検索エンジンでMINISOと入力すると多くの記事がヒットするはずだ。日本語の記事を見ると「無印、ユニクロ、ダイソーを足して3で割ったもの」とか「日本のパクリブランド」などと言われることが多いが、今や世界規模で店舗展開を行う巨大グローバル企業へと変身を遂げた。今回はMINISOの上場審査後の資料をもとに、ビジネスモデルや業績規模などを紐解くことでグローバル企業へと成長を遂げた要因を紹介したい。
★MINISOオフィシャルサイト
※MINISOオフィシャルサイトより抜粋
背景市場
MINISOの上場審査後の資料によると、Frost & Sullivanが統計したデータでは中国の生活家庭製品の市場規模はGMVベース(流通総額)で2021年に約4.2兆元(84兆円)に達し、2026年には約6.2兆元(124兆円)にまで拡大すると見込まれている。また、”自主ブランド総合小売業”の市場規模で見るとGMVベースで2021年には約951億元(1.9兆円)、2026年には約1,895億元(3.8兆円)と5年間で市場が倍に膨れ上がることが予測されている。中国ではこのカテゴリの競争が非常に激しく、1,000社ほどが市場に参入しているが2021年の統計によると上位5社が市場の18.6%を占めている。その中でもMINOSOはダントツのNO1となっており、2021年のGMVは108億元(2,160億円)で2位の無印良品の27億元(540億円)を大きく引き離して独走状態となっている。
企業情報
※現在はMINISO Group Holding Limited(名創優品集団控股有限公司)となっているが、MINISOが生まれた中国広州の企業情報を記載。
企業名:(中)名創優品(広州)有限責任公司
設立:2017年10月
創設者:叶国富
資本金:1.4億元(28億円)
従業員数:非公開
MINISOが誕生するまで
今日頭条の配信アカウント「環球人物雑誌」がMINISOの創業者 叶国富の起業までの歩みを投稿している。1998年21歳の叶国富は経済的な理由で専門学校を退学した。家庭の負担を軽くするために、仕事を求め故郷の湖北省を離れ広州へと向かった。3ヶ月後、人生で初めての職を得て鋼管工場で働き始めた。そこでの仕事ぶりが評価され、1年後には業績も同僚の中ではトップとなり、営業成績から得られた年間インセンティブは12万元(240万円)で当時としては大金であった。彼はこれを元手に自身でビジネスを始めていく。2000年初頭、福建省で陶器の販売ビジネスを始めたが経験不足により初めての起業は失敗に終わった。
2年後彼は妻とともに化粧品店を始めた。そのビジネスが当たり1年で40万元(800万円)を稼いだ。そこからビジネスが軌道に乗り2005年にはアクセサリーショップの会社”哎呀呀(ai ya ya)”を立ち上げた。日本でいう100円均一にあたる「10元店」の業態で市場に参入し、月収が2,000元以下(4万円)の12歳~28歳の若い女性をターゲットにしたビジネスも成功を収め2010年には3,000店舗にまで拡大した。しかし2012年頃から中国ではECビジネスが大きく伸長を始め、それに危機感を覚えた叶国富は今後のオフライン店舗ビジネスの方向性を模索していた。
今日頭条の配信アカウント「花朵財経」の記事によると、2013年に日本を旅行していた叶国富は当時の日本で流行していた100円ショップや生活雑貨を扱うショップを見て回るなかで、新たなビジネスに関するインスピレーションを受けた。そしてあるきっかけで日本人デザイナーの三宅順也と出会い共同でビジネスを立ち上げる事を決めた。三宅順也という人物は文化服装学院を卒業したデザイナーということ以外はその素性は良く分かっていない。しかし公の場に本人が登場することもあり、実在の人物であることは間違いない。この人物の存在がより”日本っぽさ”を演出し、中国のWEB上では「MINISOは日本企業か中国企業か?」という記事も多く見られる。日本企業だと思い込む消費者もいるくらい当初は”日本”という要素をアピールしていた。
そして2013年に中国広州でMINISO第一号店が誕生した。MINISOが日本のパクリだと言われる理由は、その店舗名、ロゴ、店舗の内装にある。店舗名はダイソー、ロゴはユニクロ、店舗の内装は無印良品とかなり似ている。”いいとこ取り”といえばそうかも知れないが、一般的な感覚から言うとたしかにパクリに近い。当初はそんなマイナスな評価もあったMINISOだが、そんなことはお構いなしに躍進をとげニューヨークや香港で上場するグローバル企業へと変身を遂げた。
★MINISO店舗外観
※MINISO上場審査後資料より抜粋
MINISOのビジネスモデル
MINISOの業態は一般的な小売業なので、商品の販売による売上が企業の収入となる。生活雑貨を中心に販売する「MINISO」は2021年12月31日時点で中国国内に約3,100店舗、海外では約100の国と地域に1,900店舗を展開しており実は日本にも数店舗ある。また、MINISOブランドのビジネスの他に昨今中国で大流行した潮流玩具(デザイナーズトイ)業界へも参入し「TOP TOY」という小売ブランドも立ち上げ、2021年12月31日時点で中国に89店舗を展開し、潮流玩具市場におけるTOPブランドへと成長している。
■MINISOの高速商品開発
MNISOの商品は”高颜值(高いデザイン性)・高品質・高コストパフォーマンス”を核としている。2021年6月30日時点でMINISOブランドとして毎月平均約550SKUの新商品を投入しており、消費者に対して約8,800のメインSKUを送り届けている。商品は11のメインカテゴリに分類され、生活雑貨、小型電子商品、アパレル、バッグ、コスメ器具、玩具、メイク、パーソナルケア、菓子、香水、文具&プレゼントのカテゴリ商品を扱っている。商品マネージャー、デザイナー、サプライヤーの連携のもと、10,000個の商品案データベースの中から7日ごとに100個のSKUを発売することを理念として高速で商品開発を行っている。社内ではそれを「711理念」と呼んでいる。絶えず多くのSKUを市場に送り出すことで、常に市場の最新ニーズをキャッチアップし消費者を飽きさせない努力を行っている。商品開発を支えるサプライヤーは約1,000社以上にのぼり、MINISOの商品生産効率やコスト削減に大きく貢献している。MINISOの商品の95%以上が50元(1,000円)以下で販売されており、”高コストパフォーマンス”として消費者から受け入れられている。”高颜值(高いデザイン性)”においては124名の社内デザイナーを抱え、7カ国の有名デザイナー、デザイン会社などから37名のデザイナーと提携することで高いデザイン性を有した商品開発を行っている。その結果としてMINISOの商品はiFデザイン賞、レッドドットデザイン賞、European Product Design Awardなどの国際的なデザイン賞を獲得している。筆者も実際にMINISOの店舗を訪れたことがあるが、商品のデザイン性も非常に高く価格も低価格のものが多いので中国出張の際はお土産として買って帰ったことがある。
★MINISOブランド商品一例
※MINISO上場審査後資料より抜粋
★数々のデザイン賞を獲得
※MINISO上場審査後資料より抜粋
■IPコラボによる顧客開拓とブランド価値向上
消費者を飽きさせない努力は商品開発の他に”IPコラボ”が挙げられる。IPとは”Intellectual Property(知的財産)”の頭文字を取ったもので、人気のゲーム、アニメ、キャラクター、映画などのデザインやキャラクターを使用することができるコラボ方式である。MINISOはこのIPコラボを多用することで、新たな顧客開拓やブランド価値向上を成し遂げることができた。コラボ先も有名どころが多く、ハローキティ、ポケモン、ディズニー、ユニバーサル、マーベルなど名だたるIPとのコラボを実現させた。以前はパクリ企業だの揶揄されてきたMINISOだが、これらの世界的に人気のあるIPとコラボすることでMINISO自体のブランド価値を上げることができ、これまでの”非正規軍”的なイメージから”正規軍”へと変身を遂げるきっかけとなった。2021年12月31日時点で75社とのIPコラボに成功した実績を持つ。
■急速な店舗拡大を実現させた「軽資産モデル」
MINISOが中国で急速な店舗拡大を実現できた一番の理由はフランチャイズによる店舗展開にある。MINISOはこれを「軽資産モデル」と呼んでおり、自社で運営する直営形式ではなくフランチャイズ加盟企業が主体となって店舗を運営することでMINISO自体の資産を軽くすることを意味する。MINISOの資料によると、2021年12月31日時点で中国国内での直営店はわずか5店舗しかなく、その他は加盟企業や代理店が展開する店舗で占められている。加盟企業は店舗の出店~経営までの全ての費用を負担する。MINISO側は加盟企業に対してMINISOブランドのライセンスを付与し、店舗運営などに関する指導を行う。売上については加盟企業との契約内容に基づき双方で分配する。在庫に関してはMINISO側が所有権を保持しているため、消費者に対してはMINISOが直接販売していることになる。MINISOの資料によると、一般的に加盟企業は12~15ヶ月で投資回収ができると記載されている。オフライン以外にもEコマースによるオンライン販売も行っているがメインの収入源はやはりオフラインから得られる売上で構成されている。
これらのビジネスモデルで事業拡大に成功したMINISOの2021年の売上はMINISOブランド、TOPTOYブランドやその他事業の合計で約145億元(2,900億円)となっており、その内訳としては中国ビジネスで約114億元(2,280億円)、海外ビジネスで約31億元(620億円)となる。
ビジネスモデル
まとめ
確かに最初はパクリブランドと言われていたMINISOだが高デザイン・高品質・高コストパフォーマンスの商品を高速でリリースしIPコラボなどでブランド価値を上げ続けた結果グローバル企業へと躍進を遂げた。MINISOを批判する記事も散見されるがそれよりもMINISOがなぜここまで成長できたかに目を向けその手法から学びを得るほうがよっぽど価値があると思う。
参考記事
※曾自认日本公司?翻车的名创优品,背后有个“黑红”的老板
https://www.toutiao.com/article/7130136473969508896/?channel=&source=search_tab
※MINISO上場審査後資料
https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2022/0713/sehk22062701229_c.pdf
※MINISOオフィシャルサイト
https://www.miniso.cn/
※起底名创优品创始人,曾创建30多个互金平台,大搞P2P信贷
https://www.toutiao.com/article/7130905609997664776/?channel=&source=search_tab
筆者
Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。