自己表現のツール オリジナルスマホケースの自動販売機がうける理由

背景市場

iiMediaResearchのレポート[2021年第一季度中国潮玩行业发展现状及市场调研分析报告(2021年Q1中国デザイナーズ/アートトイ業界発展状況及び市場調査レポート)]によると、中国のデザイナーズ/アートトイ市場規模は
2020年:294.8億元(5,011億円)
2021年(予測):384.3億元(6,533億円)
2022年(予測):476.8億元(8,105億円)と年間約1,500億円のペースで市場が伸びている。
デザイナーズ/アートトイと類似するカテゴリを中国では「潮玩(潮流玩具:トレンド玩具)」と呼んでいる。代表的なものとして2019年から爆発的な人気を博した、盲盒(mang he:ブラインドボックス)と呼ばれるミニフィギュアなどが挙げられる。子供が遊ぶ玩具ではなく、デザインやアート的要素を含んだ玩具だ。

★潮玩(デザイナーズ/アートトイ)市場規模

※[2021年第一季度中国潮玩行业发展现状及市场调研分析报告(2021年Q1中国デザイナーズ/アートトイ業界発展状況及び市場調査レポート)]より抜粋

潮玩市場は新興市場であり、商品カテゴリもどんどん増加している。今回は今やほとんどの人が持っている”スマホ”から生まれた潮玩ビジネスを紹介する。

玩殻工廠(MakerMaker)とは?

追極智能(北京)科技有限公司が運営する玩殻工廠(以下MakerMaker)はDIYスマホケースの自動販売機を展開するブランドである。cyzone.cnの記事によると、創業者の韓冰がMakerMakerを創業するきっかけになったのは、中国のスマホの販売状況とスマホケースのミスマッチにあった。例えば、中国のスマホ周辺商品を扱う店舗で販売されているスマホケースはほとんどがiPhone用だった。他機種のケースがあったとしてもバリエーションも少ない。韓冰は実際に北京の多くの店舗を見て回ったが、例えば国産スマホブランドのXiaomiのある機種のスマホケースはわずか6種類しか見つけることができなかった。店舗側としては滞留在庫や人件費の問題からどうしても売れる可能性の高いiPhoneケースを中心に販売する傾向にある。国産スマホブランドが中国を含めたグローバル市場で大きなシェアをもっているにも関わらずiPhoneのスマホケースばかりが販売されている状況に市場のポテンシャルを感じた。そして韓冰は2018年末にMakerMakerのプロジェクトを始動させた。
有人の小売店舗ではなく、無人の「自動販売機」を開発することで多くの機種に対応するスマホケースを販売可能にした。また、この自動販売機の最大の特徴は、[オリジナルのスマホケース]を作成できる点だ。自身の写真などをスマホの画面で加工し、オリジナルのスマホケースを作成することができる。一個あたり2~3分と短時間で作成することができるので、順番待ちのイライラもなく多くの顧客が購入できる。
LIEYUNWANG.comの記事よると、メインターゲットは15歳~25歳で女性の割合が60%以上を占めている。韓冰が同記事において、「消費者がスマホケースを購入する際、単に実用性だけを求めているのではなく、自己表現欲を満たしたいというニーズを持っている。そのため自身の写真やカップル、ペットの写真を毎日持ち歩くスマホケースに印刷する。自己表現のニーズや流行コンテンツがスマホケースに一種の娯楽的属性をもたらす」と語っている。
中国スマホメーカーのXiaomiもこの企業のポテンシャルに注目し投資を行っている。売上実績は公表されていないが、創業者の韓冰の試算によると、自動販売機1台あたり年間1万人の新規顧客を獲得し、2022年中国全土に5,000台の販売機を設置することで約3,000万人のユーザー獲得につながり、売上は10億元(170億円)になる計画だ。

企業情報

企業名:(中)追極智能(北京)科技有限公司

ブランド名:玩殻工廠(MakerMaker)

設立:2019年4月

創設者:韓冰

資本金:1,325万元(2億2,525万円)

従業員数:非公開

MakerMakerのビジネスモデル

MakerMakerの収入源としては、自動販売機で購入されるスマホケースの代金である。
LIEYUNWANG.comの記事よると、自動販売機の運営については自営で行っておりショッピングモールなどの商業施設に自動販売機を設定している。各商業施設との取引条件は主に2種類。
1.月額固定モデル
自動販売機のレンタル費用として月1,000元(17,000円)~3,000元(51,000円)を施設側へ支払う。
2.対売上変動モデル
売上の15%以内をマージンとして施設側へ支払う。
1日あたり約20~35個の販売が見込まれ、月の売上は1台あたり18,000元(30万6,000円)~30,000元(51万円)となり6~8ヶ月で投資回収が可能とされている。
現在は全て自営で行っているが、今後はフランチャイズ展開などが計画されている。
またスマホケースに印刷するデザインに関しても消費者を飽きさせない工夫を行っている。スマホケースの種類は大きく3つ。
1.自社デザインモデル
2.デザイナー製作モデル
3.IPコラボモデル
[2.デザイナー製作モデル]に関しては、外部デザイナーがデザインした商品が売れるごとに売上の一部がデザイナーに支払われる契約になっている。より多くのデザインを消費者に楽しんでもらうためにこのような仕組みを採用している。

サービス詳細

1.自動販売機に設定されているQRコードを読取る
2.スマホケースに印刷する写真・デザインを選択
Xiaomi、HUAWEI、OPPO、vivoなど中国ブランドを中心に多くの機種のスマホケースに対応している。

※MakerMaker Wechatミニプログラムより抜粋
3.決済
スマケースの価格は19.9元(338円)~39.9元(678円)とリーズナブル。
4.決済完了後販売機から無地のスマホケースが出てくる
5.印刷用の差込口にスマホケースを入れると、オリジナルデザインのスマホケースが出来上がる
★購入の様子

※抖音より抜粋
▶ここをクリックすると動画を見ることができます


※抖音より抜粋
▶ここをクリックすると動画を見ることができます

ビジネスモデル

まとめ

矢野経済研究所が行った調査によると、日本の「オタク」市場規模は2021年の予測ベースで
1.フィギュア:330億円(国内出荷金額ベース)
2.プラモデル:450億円(国内出荷金額ベース)

※株式会社矢野経済研究所:「オタク」市場に関する調査より抜粋

この2つの分野を合計しても780億円規模にとどまり、中国の384.3億元(6,533億円)のおよそ10%ほどしかない。
日本はアニメ・漫画など潮玩と非常に相性のいい強力なコンテンツをもっている。単に作品を輸出するのではなく、MakerMakerなどのブランドを”媒体”として捉えることでビジネスチャンスを作り出すことができるのではないだろうか。

参考記事

※1艾媒咨询|2021年第一季度中国潮玩行业发展现状及市场调研分析报告
https://www.iimedia.cn/c400/77227.html
※2年轻潮流商圈“新宠”出现,手机壳潮玩品牌“玩壳工厂”已获数千万元A轮融资
https://www.iimedia.cn/c1040/82993.html
※3小米、顺为投资,潮玩手机壳品牌“玩壳工厂”完成数千万元A轮融资
https://www.lieyunwang.com/archives/479781
※4为了让米粉买到好看的手机壳,雷军投了一家“潮玩工厂”
https://www.cyzone.cn/article/661728.html
※5「オタク」主要分野別市場規模推移
https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2836

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。