背景市場
昨今中国では農業へのITテクノロジーの活用が進んでいる。百度の配信アカウント[中商情報網]の記事によると、中国におけるスマート農業市場規模は2020年に622億元(1兆1,818億円)を突破し、2022年には743億元(1兆4,117億円)まで成長が見込まれている。
★中国スマート農業市場規模
※百度の配信アカウント[中商情報網]の記事より抜粋
麦麦星球とは?
麦麦星球は北京麦麦趣耕科技有限公司が運営する、農業生産領域におけるIT・デジタルソリューションサービスの提供と農業製品のECプラットフォームを運営するスマート農業ブランドである。麦麦星球の創始者である李楠が起業に至った経緯が中国のテレビ番組【巔峰之路】の中で語られている。李楠は北京大学を卒業したエリートで長年IT業界で活躍していいた。2018年秋、偶然2人の友人が同時期に中国のブランド米である”五常大米”を送ってきた。しかし、同じブランド米なのに見た目が全く異なることに気がついた。李楠はおそらく1つは偽物だろうと疑った。そこでお米に詳しい友人に鑑定してもらったところ2つとも偽物であることがわかった。彼は「今の時代、人々の生活水準も上がり多くの人が品質の良いものを買うことができる経済的能力やニーズもある、それにECなどのオンラインショップやスーパー、近所の青果店などオンライン・オフライン問わずどこでも物が買える。なのになぜ本物のお米を買うことがこれほどまでに難しいのか」とショックを受けた。そこで彼は品質の良い本物の農作物を買うのがこんなに難しいのであれば、自分で販売プラットフォームを作ってしまおうと考えた。そして3人のパートナーとともに起業することを決めた。
プラットフォームの特徴として特に重視したのが、品質の良い”本物”を提供するための根拠となる”生産過程のトレーサビリティ”である。これまで消費者は自分たちが食べている農作物が一体どのような環境で生産されているかを全く知らない状況で商品を購入してきた。トレースできるシステムや技術開発のためにまず着手したのが、自分たちの生産基地の確保である。起業のきっかけとなった”五常大米”の生産地に赴き、農家の人たちを交渉を重ねた結果自分たちの生産基地を確保することができた。生産者である農家には無料で生産管理のための機器を貸し出し、技術開発と米の生産を同時に行いビジネスを本格稼働させた。
現在では多くの農家と提携し、農家に対しては生産管理に必要な設備やITシステムのサービスを販売し、一般消費者向けにはECプラットフォームで農産物の販売を行っている。
企業情報
企業名:(中)北京麦麦趣耕科技有限公司
ブランド名:麦麦星球
設立:2015年8月
創設者:李楠
資本金:3,000万元(5.1億円)
従業員数:非公開
麦麦星球のビジネスモデル
麦麦星球のビジネスモデルは大きくB2BとB2Cの領域に分けられる。B2Bの領域では、農作物の生産者である農家や農業関連企業向けにIoT、AI、ビッグデータ、センサーなどの技術を活用した生産管理設備やITシステムを販売する。主な成功事例としては年間売上30億元(570億円)規模を誇る百貨店[東方百貨]に対して、店舗で販売している野菜などの食品の原産地などをトレースできるシステムの導入に成功したり、樟の一大産地に土壌・環境・生育などの観測システムや肥料/水、害虫、採取、トレースの管理システムを導入することに成功した。
★トレーサビリティシステム
※北京麦麦趣耕科技有限公司が開発したトレーサビリティーシステム[MID]の画面より抜粋
B2C領域ではWechatのミニプログラムにECサイトを開設し、提携農家で生産された農作物を販売している。各商品ごとに生産状況や農地の環境などをトレースすることができる。消費者はこのような情報をもとに安心して安全な商品を購入する。36Kr.comの記事によると現在このECサイトの累計ユーザー数は200万人を突破した。詳細の売上は公開されていないが、B2BとB2Cの業績の比率は50%ずつとのこと。B2Cのビジネスは顧客獲得のための広告投資が必要なためコストが高くなってしまうため、今後B2B領域でのビジネスに注力していく方針とのことだ。
サービス詳細
B2CのECプラットフォーム[麦麦星球]
Wechatのミニプログラムから利用することができる。
果物や野菜などの農作物から鶏肉や卵などの畜産物、蟹などの海産物を購入することができる。商品ページでは、商品がいつ植えられ、収穫されたかなどの詳細な日時や、生産された場所の地形、水源、気温、日照時間などの環境情報も細かく見ることができる。
★作物の生産記録
※麦麦星球Wechatミニプログラムより抜粋
★生産地の環境情報
※麦麦星球Wechatミニプログラムより抜粋
・ブランド米”五常大米”
価格:27.9元~179元(530円~3,400円)
※麦麦星球Wechatミニプログラムより抜粋
・自営の農地で生産した苺
価格:108元~198元(2,052円~3,762円)
※麦麦星球Wechatミニプログラムより抜粋
ビジネスモデル
まとめ
生産者はITテクノロジーを活用することで、これまでより効率的に農作物を生産することができるだけでなく、消費者に自身が生産した商品の情報を届けることができる。消費者は自身が口にする農作物がどこで、どのような環境で作られたがわかり安心して商品を購入することができる。まさに麦麦星球はITテクノロジーの力で生産者と消費者をつなぐビジネスといえる。
参考記事
※北京麦麦趣耕科技有限公司オフィシャルサイト
http://maimai.admin.kaifa.maimaiplanet.com/
※36氪首发 | 麦麦科技获数千万元天使轮融资,打造“科技+消费”双赋能农业智慧平台
https://36kr.com/p/1750389023129601
※麦麦科技获数千万元天使轮融资 发展ToB端智慧农业科技服务平台
https://www.toutiao.com/article/7101214841834144294/?channel=&source=search_tab
※新一代智慧农业标准体系MID开启农产品溯源新场景
http://www.xinhuanet.com/tech/2021-08/03/c_1127726247.htm
※遇见M’ID,一扫安心!麦麦农产品智慧溯源体系正式亮相地铁一号线
https://mp.weixin.qq.com/s/g-K1iGuu8OoMN0T-FkPXeA
※跨越2020,麦麦科技逆势而上引领生态农业新浪潮
http://anjian.china.com.cn/html/csaq/csdt/20210204/20824.html
※麦麦星球CEO巅峰之路访谈
https://v.qq.com/x/page/a09633pttal.html
※2022年中国智慧农业市场数据预测分析
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1727386355439506812&wfr=spider&for=pc
筆者
Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。