背景市場
qianzhan.comの記事によると中国の法律サービス業界の市場規模は2021年に1,500億元(3兆円)を超え、2027年には4,500億元(9兆円)規模に迫ると予測されている。法律サービス業界の成長の背景にはいくつかの要因が考えられる。まずは近年中国人の権利保護の意識が高まっていることにある。中華人民共和国司法部の統計によると、弁護士が代理手続きをした民事訴訟案件数は2019年約479.2万件、2020年約532.7万件、2021年約660.1万件と民事訴訟の件数が増加していることがわかる。一般国民の法律に対する関心の高さや自らの権利を守る意識の高まりの現れだと考えられている。次に企業からの法律サービスのニーズが拡大していることが挙げられる。中国の経済成長に伴い、企業の数がここ10年で大きく増加した。例えば2021年末で中国の中小企業数は約4,800万社で2012年末と比較すると2.7倍も増えている。企業が増えるに伴い、企業法務にかかわるニーズも大きくなっている。
★中国法律サービス市場規模
※qianzhan.comより抜粋
律兜(ilvdo)とは?
律兜(ilvdo)は無錫中鎧信息諮咨詢服務有限公司が運営するオンライン法律サービスブランドである。中国語のブランド名である”律兜”には2つの意味が込められている。一つは”最終保障”という考えに基づいている。法律は私たちが知るすべてのルールの核となる理念であり、法律はすべてのルールの基礎となっている。あらゆる矛盾が生じた時や、権利が侵害された時に法律は私達たちを守る”最終保障”となる。また中国語には”兜底(dou di:暴く、明らかにする)”という言葉がある。律兜には「法律によって全てを明らかにする」という意味がある。また”兜”には「ポケット」という意味がある。ポケットからスマホを取り出し、誰もが気軽に法律サービスを受けることができる環境をつくる、という意味が込められている。創業者の金為鎧は華東政法大学を卒業した法律の専門家で、弁護士として15年のキャリアを持つ。2013年頃に中国では”インターネット+”という概念が全国を席巻しており、各産業がインターンネットの力を利用して革新を模索していた。また2013年は国家として”全面依法治国(全面的な法に依る治国)”という目標を掲げたことにより、中国の一般国民を含め法律への関心が高まった時期でもある。余談ではあるが、中国のテレビ局であるCCTVには【社会与法(社会と法律)】という専門チャンネルもあり、国民へ法律の重要性を浸透させるような努力も見られる。
この時代の変化を捉えた金為鎧は”インターンネット+法律”を組み合わせた法律サービスを展開すべくilvdoを立ち上げた。主なサービスは①無人法律相談ブース②農村に対するオンライン法律相談サービス③省単位で運営される法律関連サイトの運営④法律関連のビッグデータの収集と分析⑤個人・企業向けのオンライン法律サービス(スマホアプリやSaaSなど)となっている。
ilvdoのオフィシャルサイトによると、契約弁護士は45,000人以上、55,000以上の企業に対してサービスを提供し、7つの省単位の法律関連サイトを運営している。また、36kr.comの記事によると中国全土21の省と提携をしており、106の市級都市と500の県級都市を網羅している。ilvdoのスマホアプリのユーザー数は約3,300万人となりその多くが1985年以降に生まれた”85後”と呼ばれる層で構成されている。
売上などについては公開されていない。
★ilvdoオフィシャルサイト
※ilvdoオフィシャルサイトより抜粋
企業情報
企業名:(中)無錫中鎧信息諮咨詢服務有限公司
設立:2012年12月
創設者:金為鎧
資本金:1,055万元(2.1億円)
従業員数:非公開
律兜(ilvdo)のビジネスモデル
ilvdoのサービス対象は大きく①個人②企業③政府④弁護士に分けられる。主な収入源は①~③に対して提供したサービス費用となる。ilvdoがメディアで大きく取り上げられるきっかけとなったのは、”無人法律相談ブース”である。一見すると銀行のATMのような機械を使うことでオンラインで弁護士の法律相談を受けることができる。法律相談だけでなく実際に揉め事が発生している場合、相談者の居住地の弁護士に案件を引き継いだり、法律文書の添削、作成、オンラインアップロードなどの文書手続きサービスを受けることができる。この機器の設置は主に地域の政府などが導入を行い、費用の負担をしている。相談を依頼する個人が支払うのは、法律相談の費用や文書作成にかかる費用である。
★無人法律相談ブース
※ilvdo Wechatオフィシャルアカウントより抜粋
農村地域へのオンライン法律相談サービスは”インターンネット+法律”が威力を発揮した部分だと言える。都市部には多くの法律事務所や弁護士がいるが、農村地域ではまだまだ弁護士などの法律の専門家が不足している。それに加えて農村地域の人々の法律への意識は都市部ほど高いとは言えない。農村の政府がサービスを導入することで、農村住民の民事訴訟など法的争いを手助けするような役割を果たしている。
★農村地域のオンライン法律相談サービス
※ilvdo Wechatオフィシャルアカウントより抜粋
大企業であれば大手法律事務所などと提携することで強固な法務体制を構築することができる。しかし、中国の企業のうち大半が中小企業であり法務にかけられる予算も限られる。そのような中小企業向けには”企業雲法務(企業クラウド法務)”と呼ばれるサービスを提供しており、定額の会員費用を支払うことでオンライン上で弁護士への法律相談や契約書のリーガルチェックなどの業務をリーズナブルな価格で依頼することができる。
★企業雲法務(企業クラウド法務)
※ilvdo Wechatオフィシャルアカウントより抜粋
サービス詳細
【無人法律相談ブース】
ATMのような機器を使って法律相談などのサービスを受けることができる。
①弁護士オンライン相談費用
身分証とWechatのIDがあれば利用することができ、1人1日1回、30分以内は無料となりそれを超えると時間ごとに課金される。メニューで法律相談を選択すると6秒以内に登録されている弁護士が応対する。
②法的書類のテンプレート印刷
無料で法的書類のテンプレートを印刷することができる。
★無人法律相談ブース
※ilvdo Wechatオフィシャルアカウントより抜粋
ビジネスモデル
まとめ
中国にかかわらず近年”インターネット+”という概念をもとに生み出されたサービスなどが大きく成長している。例えば、”インターネット+飲食”でデリバリーサービス市場が大きく成長したり、コロナ禍で大きく成長したのは”インターネット+病院”で生まれたオンライン診療サービスである。今後もインターネットと既存の産業が融合することで新たなサービスが次々と生まれてくるだろう。
参考記事
※律兜(ilvdo)オフィシャルサイト
http://www.ilvdo.com/ilvdoofficialwebsite/index.html
※36氪首发|律兜互联获3500万元A+轮融资,打造全链条智慧法治服务生态圈
https://www.toutiao.com/article/7169737145605849634/?channel=&source=search_tab
※预见2022:《2022年中国法律服务行业全景图谱》(附市场规模、竞争格局和发展前景等)
https://www.qianzhan.com/analyst/detail/220/220719-11d6280b.html
※36氪首发|「律兜」完成4000万元A轮融资,为企业与人高效连接法律服务
https://www.toutiao.com/article/6999787429066605070/?channel=&source=search_tab
※律兜:法律界“滴滴”的蜕变与裂变
https://news.pedaily.cn/20220708/37723.shtml
※2020年度律师、基层法律服务工作统计分析
http://www.moj.gov.cn/pub/sfbgwapp/zwgk/tjxxApp/202106/t20210611_427393.html
筆者
Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。