TikTokを生み出した中国、ショートムービーを活用した求人サイトが登場

背景市場

iiMediaが発表した<2020-2021年中国短视频头部市场竞争状况专题研究报告(日訳:2020-2021年中国ショートムービー上位市場競争状況研究報告)>によると、中国のショートムービーユーザーは2020年7.22億人、2021年は予測ベースで8.09億人に上る。中国の人口が約14億人とするとほぼ半数の人がショートムービーを見ている計算になる。ショートムービーの爆発的なブームを生むきっかけとなったのは、日本でも多くのユーザーを抱えるTikTokである。TikTokを生み出した中国は今ショートムービー全盛期を迎え、様々なショートムービーのSNSプラットフォームが誕生しては淘汰され激しい競争が繰り広げられている。ショートムービーは様々な企業のマーケティングに利用され、特にD2C企業や小売企業にとっては欠かせないツールとなっている。

★中国ショートムービーユーザー数の推移

※<2020-2021年中国短视频头部市场竞争状况专题研究报告
(日訳:2020-2021年中国ショートムービー上位市場競争状況研究報告)>より抜粋

今回はそのショートムービーを”人材採用”の分野で活用している企業を紹介したい。

楽業楽活とは

楽業楽活(le ye le huo)は楽業楽活網絡技術服務(北京)有限公司が運営する、人材採用プラットフォームのブランドである。創業者の費明は人材業界で10年以上の経験を持つ。楽活楽業のスタッフも人材業界出身者が多く、中国大手企業をクライアントに持つなど実績のあるメンバーで構成されている。
この企業の最大の特徴は従来のテキストや画像だけの採用情報に加えてショートムービーで企業や募集人材の情報を伝える点である。とにかく中国は今ショートムービーのブームの真っ最中だ。

TikTokに代表されるショートムービーのSNSも中国生まれであることからもわかるように、中国人はとにかくショートムービーを見ることが日常生活の一貫となっている。
とは言え、大手企業や外資企業などはすでに提携している人材会社や、ヘッドハンティングなどの手法で優秀な人材を獲得する。特にデスクワークを中心とする”ホワイトカラー”をターゲットにした場合、市場への参入余地は限られる。そこで、楽業楽活は飲食、物流・倉庫、ホテル、小売などの”非ホワイトカラー”をターゲットにしている。また管理職などのハイクラス人材ではなく、「今人手が足りないからすぐに採用したい」というニーズを持っている企業がメイン顧客となる。求人案件もフルタイムのものもあるが、やはりメインは短期雇用のアルバイトの案件が多い。lieyunwang.comの記事で創業者の費明は次のように語っている。「従来のブルカラー人材の採用方式は”アウトソーシング”がメインであり、効率も非常に低かった。楽業楽活はこの業界産業チェーンを再構築することでスケールメリットを生み出す。将来的には求人企業クライアントを増やすことで多種多様な求人に対応できるようにする。またショートムービーなどの新たな手法を用いることでプラットフォーム上に大量のユーザーを蓄積することができる。データ運用の改善を続けることで、採用側のコスト削減や効率化を上げる」。同記事によると、プラットフォーム上にはすでに100万近くの求人人材のデータが蓄積され、クライアント企業は数千社に上るとされている。売上の情報については公開されていない。
楽業楽活のオフィシャルサイトを見ると、フードデリバリー、飲食、物流や宅配企業の名前が多く掲載されている。
★楽業楽活オフィシャルサイト

※楽業楽活オフィシャルサイトより抜粋

★楽業楽活サービス紹介

※楽業楽活オフィシャルサイトより抜粋
!ここをクリックすると動画を見ることができます!

企業情報

企業名:(中)楽業楽活網絡技術服務(北京)有限公司

ブランド名:楽業楽活(le ye le huo)

設立:2019年2月

創設者:費明

資本金:1,112万元(2億円)

楽業楽活のビジネスモデルと収入源

楽業楽活の主な収入源は2つ。
1つは人材採用管理ツールのSaasの月額利用料、2つ目は人材採用の手数料である。
Saasは3つのメニューが用意されている。
月額費用は下記の通り。
①ライト版:188元(3,384円)
②スタンダード版:388元(6,984円)
③フラッグシップ版:1,288元(23,184円)
採用決定後に発生する手数料について費用基準などは公開されていないが、楽業楽活のTikTokの動画に以下のような投稿がある。例えば1日限り180元(3,240円)の給与設定をした人材を採用した場合、手数料は5%の9元(162円)となっていた。

★販売手数料の一例

※楽業楽活TikTokオフィシャルアカウントより抜粋

楽業楽活の特徴は前述の”ショートムービー”と”ミニプログラム”の利用にある。ミニプログラムとは、”アプリ内アプリ”とも呼ばれ、あるアプリの中に更にアプリのような機能を開発することができる。日本ではあまり馴染みがないシステムだが、中国ではこの形態が主流だ。ミニプログラムのメリットは大きく2つ挙げられる。
①ユーザー獲得効率が高い
例えばWechatのミニプログラムを例に取ると、WechatのMAU(月間アクティブユーザー数)は約12億人(Tencent2021年3Q業績報告より)、すでに膨大なユーザーがいるプラットフォーム上でミニプログラムを作ることで、検索などを通じて効率的にトラフィックを稼ぐことができる。ユーザーとしてもわざわざ個別のアプリなどをインストールする手間も省けることも人気の要因の一つである。
②アプリの開発コストを抑えることができる
一からアプリを開発するとなると膨大な費用がかかってしまう。ミニプログラムであれば比較的費用を安く抑えることができため、企業側としてもコスト面でメリット生まれる。
楽業楽活はWechatをはじめ、TikTok、Kuaishou(人気ショートムービーSNS)上でミニプログラムを開発し、ショートムービーを見たユーザーがすぐに案件に応募できるような仕組みを構築している。企業側が撮影したショートムービーはすべてミニプログラムから配信することができるので、アカウント開設などの事務作業にかかる人的コストを削減することができる。
中国は基本的に「プラットフォームが強い」という特徴がある。例えばEC領域では、Alibaba、JDなど大手プラットフォームの市場シェアが非常に大きく、メーカーが自社でECサイトを作ったとしてもトラフィック獲得の効率が非常に悪いので、多くの企業はECプラットフォームに出店する形でEC事業を行う。ショートムービーも同様だ。自社開発のアプリにショートムービー機能をつけたとしても見る人はごくわずかになる。既存かつ影響力の大きいプラットフォームに頼ることがユーザー獲得の近道といえる。楽業楽活はこのように既存のプラットフォームを利用することで、早く効率的にユーザーを集めることに成功している。

サービス詳細

求職側のユーザーはWechat、TikTok、Kuaishouのミニプログラムから人材サイトを利用することができる。
人材案件は短期のものが多いので、アルバイトやフリーター、または副業で利用するユーザーが多い印象だ。
ミニプログラム上でもショートムービーの閲覧が可能なので、実際の仕事内容や企業に対して具体的なイメージを持つことができる。
★Wechatミニプログラム

※楽業楽活Wechatミニプログラムより抜粋

※楽業楽活Wechatミニプログラムより抜粋

ビジネスモデル

まとめ

楽業楽活のように既存のプラットフォームをうまく利用することでビジネスを早く展開することができる。イチから開発するコスト削減や事業を始めるまでの時間を短縮することで、いち早く市場に参入し先行者メリットを生むことができる。中国でビジネスを成功させるポイントはやはり”スピード”だろう。綿密な計画は作り込んでいるうちに競争相手に先を越されてしまう。とにかく早くはじめる、これが中国ビジネスの鉄則だ。

参考記事

※楽業楽活オフィシャルサイト
https://www.leylh.com/
※新蓝领短视频智能招聘和服务平台乐业乐活完成数千万元A轮融资
https://www.lieyunwang.com/archives/481360
※乐业乐活创始人费明渊他眼中的“灵活用工”
https://www.toutiao.com/a6833271243999805959/?channel=&source=search_tab
※用友产业基金独家投资「乐业乐活」完成数千万A轮融资
https://www.toutiao.com/a7075900736701366825/?channel=&source=search_tab
※融资丨「乐业乐活」完成数千万元A轮融资,用友产业基金独家投资
https://www.cyzone.cn/article/674254.html
※Tencent 2021 THIRD QUARTERRESULTS PRESENTATION
https://www.tencent.com/attachments/toolkit/2021/Q3/3Q21EarningsPresentation.pdf
※楽業楽活TikTokオフィシャルアカウント
https://www.douyin.com/video/6963264280741301517
※艾媒咨询|2020-2021年中国短视频头部市场竞争状况专题研究报告
https://www.iimedia.cn/c400/76654.html

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。