背景市場
中商情報網(AskCI.com)の記事によると、中国のオンライン近距離物流市場規模の推移は以下のようになっている。
2020年:356億元(6,764億円)
2021年:587億元(1兆1,153億円)
2022年:1,005億元(1兆9,095億円)
また、人民網(people.cn)の記事では、オンライン近距離物流市場が大きく伸長している背景として新型コロナウイルスの感染拡大があるとしている。中国では感染拡大を抑えるために、都市単位や区単位でロックダウンなどの厳しい措置を講じてきた。外の地域からはロックダウンされている都市に入ることはできなかったり、同じ都市でもある区には入れないなどの制限がかかる。そこで同城(同一都市内)の近距離物流のニーズが一気に拡大したことが市場全体を大きく成長させる要因となったとのことだ。
快狗打車(kuaigou dache)とは?
快狗打車(kuaigou dache)は天津五八到家生活服務有限公司が運営する、近距離物流のオンラインプラットフォームである。投資界(PEdaily.cn)の記事によると、快狗打車の創業者である陳小華は1981年生まれのいわゆる80後(1980年代生まれの人を指す言葉)の中国人で、湖南省の貧しい農村の家庭に生まれ育った。中学3年生のときに交通事故で兄弟を亡くし、家計を助けるために他人の田んぼを耕すなどの農作業を行った。2000年に大学に入学し機械工学を専攻した。大学卒業後は深センでIT会社を起業しSEO、SEMなどのサービスを提供していた。業界内では有名な人物となり、大手動画サイトのYOUKUなども彼に声をかけて来たほどだった。その後、掲示板サイトである”赶集網(ganji.com)”に入りメイン技術スタッフとなった。当時、同様の掲示板サイトは競合2社が市場のTOP2を締めており、赶集網は市場では劣勢な立場にあった。しかし、陳小華の加入によって赶集網へのアクセスが急増し猛烈な追い上げに成功した。
競合の1社である58同城(58.com)の創設者である姚勁波は赶集網の猛烈な追い上げに注目し、その背後にいる陳小華の存在を知ることになる。姚勁波と陳小華の出会いが後の快狗打車(kuaigou dache)の誕生につながっていく。姚勁波は陳小華を引き抜き58同城(58.com)に加入させた。その後58同城(58.com)は市場での1位の座を堅守し、2013年にNASDAQでの上場を成し遂げることができた。NASDAQ上場後、陳小華は姚勁波の協力のもと、快狗打車(kuaigou dache)の前身となる”58速運”を立ち上げ、2014年に58速運から快狗打車(kuaigou dache)に名前を変えた。現在では中国大陸のみならず、香港、シンガポール、韓国、インドとアジアを中心としたグローバル事業を展開している。着実に成長を遂げた快狗打車(kuaigou dache)は2022年6月に香港証券取引所での上場に成功した。
★快狗打車(kuaigou dache)オフィシャルサイト
※快狗打車(kuaigou dache)オフィシャルサイトより抜粋
企業情報
企業名:(中)天津五八到家貨運服務有限公司
設立:2017年7月
創設者:陳小華
資本金:100万元(1,900万円)
従業員数:非公開
快狗打車(kuaigou dache)のビジネスモデル
快狗打車のサービスは大きく3つに分類される。①プラットフォームサービス②企業向けサービス③オプションサービスの3つを軸に事業が成り立っている。
①プラットフォームサービス
オンライン上で荷物を運んでほしい人(荷主)と荷物を運びたい人(運転手)を結びつけるサービスである。プラットフォームビジネスの主な収入源は運転手から徴収するサービス費となる。サービス費は1.取引成立時に発生するマージンと2.会員費用の2つに分類される。荷主がプラットフォーム側に支払った費用と運転手が受け取った費用の差額がマージンとなる。荷主が支払う費用は運転手が使用する車両の種類、積荷場所と荷卸場所の距離、対応可能な運転手の人数、荷主が発注する時点の現地の物流市場価格などによって算出される。会員費用に関して運転手は30日、60日の期間で会員サービスを購入することができる。運転手の会員ランクによっては取引の一部もしくは全てにおけるマージンが無料なるなどの特典もある。2021年プラットフォーム上での取引件数は約2,600万件、同年のマージン売上は中国と海外含め2億元(38億円)、会員費用売上は5,200万元(9.8億円)となっている。
②企業向けサービス
快狗打車と企業が契約を結び、企業の計画やニーズに合わせてオーダーメイドの物流サービスを提供する。快狗打車自体が運送会社のような役割になり、企業側が快狗打車に支払う物流サービス費用が全て売上になる。取引件数はプラットフォームサービスほどは多くないが、2021年時点で年間160万件を受注している。企業向けサービスの売上は2021年中国と海外を含め3.7億元(70.3億円)となる。
③オプションサービス
快狗打車のプラットフォームを使用している運転手はアプリ上でガソリンスタンドや車両メンテナンスセンターの位置情報を調べることができ、お得な価格でそこのサービスを利用することができる。位置情報に表示されるサプライヤーからサービス費用を徴収する。2021年の年間売上は2,990万元(5.68億円)となっている。
サービス詳細
①プラットフォームサービス
1.荷主及び運転手は快狗打車のアプリやWechatミニプログラム上でアカウント作成を行う。
2.荷主はプラットフォーム上で配送依頼(発注)を行う。
3.荷主の依頼内容に合う運転手が受注。
4.運転手が依頼内容に基づき荷積み→配送→荷卸を実施。
5.最終決済を行う。
★快狗打車 アプリの画面
※快狗打車 ヒアリング後資料より抜粋
ビジネスモデル
まとめ
快狗打車の成長はまさに「ピンチはチャンス」と言えるだろう。新型コロナウイルスの影響で従来のビジネスには様々な規制や制限がかかった。しかしそれを逆に勝機と捉え成長した企業もある。例えばデリバリーや、オンライン会議システム、そして今回の近距離物流などもピンチをチャンスに変えたビジネスといえるだろう。
参考記事
※快狗打車(GOGOX)オフィシャルサイト
https://suyun.daojia.com/?hmsr=baidupzpc2018101#/
※湖南80后干出一个IPO,快狗打车市值140亿
https://news.pedaily.cn/202206/494645.shtml
※2022年中国线上同城物流市场规模及竞争格局预测分析(图)
https://www.askci.com/news/chanye/20220621/1545331898017.shtml
※产业观察:同城物流重要性提升 即时零售或成新趋势
http://finance.people.com.cn/n1/2022/0527/c1004-32432539.html
※kuaigou dacheヒアリング後資料
https://www1.hkexnews.hk/listedco/listconews/sehk/2022/0624/sehk22060700233_c.pdf
筆者
Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。