背景市場
2022年2月25日、中国のソーシャルフィットネスサービス[Keep]を運営する企業が香港証券取引所でのIPOに向けた目論見書を提出した。今回はその目論見書の内容から、この企業のビジネスモデルを紐解いていきたい。
まずは中国のフィットネス市場の状況を整理しておきたい。中国では年々フィットネス人口が増え続けており、
Keepの目論見書のデータを見ると、下記のようなペースでフィットネス人口の増加が見込まれている。
2021年:3.03億人
2022年(予測):3.24億人
2023年(予測):3.46億人
2026年(予測):4.16億人
フィットネス人口の増加に伴い、フィットネス市場も今後大きな成長が期待されている。
市場規模の推移でみると2026年には約27兆円規模まで膨れ上がることがわかる。
2021年:7,886億元(14兆1,948億円)
2022年(予測):8,820億元(15兆8,760億円)
2023年(予測):9,917億元(17兆8,506億円)
2026年(予測):1兆4,793億元(26兆6,274億円)
またフィットネス市場は大きく2つに分けることができ、①フィットネスジムなどの「オフラインフィットネス市場」と②インターネットやアプリを利用した「オンラインフィットネス市場」に分けられる。
2026年には「オンラインフィットネス市場」が市場の約60%を占めるとされ、これまでジムに通わないとできなかったフィットネスが、いつでもどこでも自由にできるフィットネスへと移り変わっていくことが予想される。
Keepとは?
Keepは北京卡路里信息技術有限公司が運営するソーシャルフィットネスサービスである。創業者の王寧は”90後”と呼ばれる1990年代生まれの若者起業家である。ネット上にある王寧の写真を見ると、フィットネスやスポーツで体を鍛えている人には見えず、どちらかというと”体育会系”ではなく”文化系”な印象をうける。電商報の記事によると、王寧は学生時代ちょっと変わった学生だったようだ。先生の目を盗んでは新聞を読み漁るのが何よりの楽しみで、記事だけではなく広告などの情報まで新聞を隅から隅まで読みこんでいた。新聞を読み漁るなかで、彼はPC主体のインターネット時代からモバイルインターネット時代への移り変わりを目にし、大学受験の際には迷わずコンピューター専攻を選んだ。
大学の授業だけでは満足せず、インターンなどで経験を積み自らもアプリの開発などを行った。Keepの開発のきっかけになったのは自身のダイエットの経験だ。ネット上の情報を参考にダイエットを開始し、およそ8ヶ月ほどで90kgから65kgまでのダイエットを成功させた。友達からもダイエットの秘訣について問われた王寧は自らが参考にしたネット情報のURLを友だちに共有した。しかし友達からは「どれからやればいいの?」「どうやってやるの?」などの質問が多く寄せられた。これがフィットネスアプリを作るきっかけとなった。そして2014年、インターンのときに知り合った仲間とともに作り上げたのがKeepだ。
★Keepオフィシャルサイト
※Keepオフィシャルサイトより抜粋
企業情報
企業名:(中)北京卡路里信息技術有限公司
ブランド名:Keep
設立:2015年7月
創設者:王寧
資本金:4億ドル(460億円)
Keepのビジネスモデル
Keepのビジネスは主に3つの柱で構成されている。
①オンラインフィットネス教材
②スマートフィットネス器具
③フィットネス関連商品
①オンラインフィットネス教材はKeepの核となるサービスである。スマホにアプリをダウンロードすることでコンテンツの利用ができる。フィットネス教材は主に2種類あり、収録型とライブ配信型に分けられる。2021年12月31日時点で、収録型のコンテンツ数は10,000を超え、ライブ配信型のコンテンツ数は13,000を超えた。フィットネスのコーチはKeep内部のスタッフや外部の専門コーチが務める。ユーザーが効率的に結果を出せるように、フィットネスのメニューはユーザーの運動レベル、目標、日々のトレーニング内容や食習慣に基づき、AIがユーザーに適したメニューを提案する。
2021年の平均アクティブユーザー数は3,400万人に達し、その多くが30歳以下の若者層で構成されている。
目論見書の情報によると、アプリのサブスク料金及び有料コンテンツの売上は、
2021年1月~9月30日までの9ヶ月間で約3.8億元(68億円)となっている。またアプリ経由で配信される広告などの売上は同期間で約1.4億元(25億円)になる。
★Keepアプリでは多くのフィットネスのコンテンツを見ることができる。
収録型コンテンツ
※Keep目論見書より抜粋
ライブ配信型コンテンツ
※Keep目論見書より抜粋
②スマートフィットネス器具、③フィットネス関連商品
フィットネスの効果を効率的にあげるために、Keepではスマートフィットネス器具の開発・販売も行っている。エアロバイク・ルームランナー・アクティブトラッカーなどのスマート機器を自主ブランドとして販売している。またフィットネスに必要なウェアなどの周辺商品も取り揃えている。これらの商品売上は2021年1月~9月30日までの9ヶ月間で約6.4億元(115億円)となる。
★エアロバイク、ルームランナー、アクティブトラッカーなどのスマート器具
※Keepオフィシャルサイトより抜粋
サービス詳細
①オンラインフィットネス教材
・サブスク会員月間料金:25元(450円)
サブスク会員は有料コンテンツを割引で購入できる特典付き。
・有料コンテンツ:29~648元(522~11,664円)
※Keepオフィシャルサイトより抜粋
②スマートフィットネス器具、③フィットネス関連商品
・エアロバイク:参考価格 3,099元(55,782円)
※Tmall Keep旗艦店より抜粋
・アクティブトラッカー:参考価格 179元(3,222円)
※Tmall Keep旗艦店より抜粋
・フィットネスウェア:参考価格 199元(3,582円)
※Tmall Keep旗艦店より抜粋
ビジネスモデル
まとめ
フィットネスジムの場合、そこに行かないと運動ができない。しかし、アプリのコンテンツで学習できるとなればもはや時間・場所の制限は受けない。しかも新型コロナウイルスの感染拡大により、フィットネスジムなどが営業停止なる可能性もある。時間や場所の制限を受けにくいアプリ、新型コロナウイルスという異常事態、消費者の様々なニーズにマッチしたKeepは大きな成長を遂げることができた。目論見書の財務情報を見ると、Keepはまだ利益がでている状態とはいえない。上場後は株式市場からこの会社に多くの資金が注入されることになるが、急成長のため利益度外視で投資を行う企業から、安定的な利益を獲得できる企業への変革が求められている。
参考記事
※2021年中国健身行业及线上健身行业现状分析,线上健身市场占比持续提升「图」
https://www.huaon.com/channel/trend/787853.html
※Keepオフィシャルサイト
https://www.gotokeep.com/
※Keep目論見書
https://www1.hkexnews.hk/app/sehk/2022/104254/documents/sehk22022501616_c.pdf
※Keep招股书拆解:不到3年亏损超11亿,流血冲刺IPO
https://www.toutiao.com/a7069395423173149220/?channel=&source=search_tab
※90 后创业者王宁的 “快与慢”
https://www.dsb.cn/88460.html
※马化腾亲自站台,王宁拜师马云,Keep商业化路在何方?
http://www.5ichuangye.com/index.php?r=Content/Index&id=515
※Tmall Keep旗艦店
https://keepyd.tmall.com/?spm=a220o.1000855.w5001-20904430747.3.5a0aec3cdgI6oI&scene=taobao_shop
筆者
Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。