背景市場
中国ではゴミの処理が大きな問題となっており、政府が主導でゴミの廃棄に関する制度などの構築を始めている。これまで中国は廃棄物の巨大輸入国であったが、2021年1月から廃棄物の国外からの輸入を全て禁止した。産業消息網(www.chyxx.com)の記事よると、2019年時点で中国の資源ゴミ回収企業は10万社、回収業従事者1,500万人となっている。また中国の10大品種の資源ごみの回収総量は2019年時点で3億5,447万tで2018年より3,288万tも増えている。またその回収総額は2019年時点で9,003億元(15兆3,000億円)となっており、非常に大きな市場と見られている。まさに[ゴミは宝の山]状態である。
★2014~2019年中国の10大品種の資源ごみの回収総量
※産業消息網(www.chyxx.com)の記事より抜粋
★2014~2019年中国の10大品種の資源ごみの回収総額
※産業消息網(www.chyxx.com)の記事より抜粋
咔嗒回收(KaDa)とは?
咔嗒回収(以下KaDa)は広州咔嗒信息科技有限公司が運営する廃品回収のオンラインプラットフォームである。古紙、衣服、金属、家電など資源ゴミの回収を行うサービスを提供している。KaDaのWechatオフィシャルアカウントの情報によると、中国23の省、約200の都市にサービスを展開しており、ユーザー数は約1,000万人となっている。今後2年間で600都市までサービスを拡大させる計画だ。
従来の廃品回収業界には様々な課題があった。
1.不衛生な環境
2.様々な業者が関わって廃品回収が行われるため、薄利のビジネスになってしまう。
★従来の廃品回収の流れ(例:古紙回収)
①ユーザー:古紙を捨てる人
②古紙回収
③回収専門物流
④廃品回収・分別工場
⑤再利用企業
各フェーズごとに業者が別れており、利益を取り合う状態となってしまう。
KaDaは従来の廃品回収の欠点を解決し、
①ユーザー:古紙を捨てる人
②(従来の古紙回収~分別)までをKaDaが実施
③再利用企業
中間業者を省き廃品を回収してから直接再利用業者に廃品を販売することで、利益の問題を解決した。
また、廃品回収に対するこれまでのイメージは「不衛生な環境での作業」。実際廃品回収といえば生活困窮者であるホームレスなどが行っている光景をよく目にする。KaDaの廃品回収スタッフは統一のユニホームを着用し、従来のイメージを一新させた点も廃品回収業界にイノベーションを起こしたといえる。
国家の廃品処理に関する積極的な動きなどもあり、投資家も廃品回収市場をポテンシャルのある市場とみなし、KaDaは直近で8,000万元(13億6,000万円)の融資獲得にも成功している。また、中国の国営放送であるCCTVのテレビ番組[品牌中国(Brand China)]が公式に推薦する企業に認定され、ブランド力の向上にも力を入れている。売上などの情報は公開されていない。
また、中国の廃品回収は消費者から費用を徴収して回収するのではなく、廃品の種類や重量に応じて廃品回収業者が消費者に費用を支払う。そこで回収した廃品を製紙業者や金属加工業者などの再利用企業へ販売することで利益を得るビジネスモデルとなっている。かなり少額ではあるが、お金がもらえるということで消費者としても積極的に廃品回収を依頼する環境ができている。また、KaDaを利用した場合、消費者は回収対価を受け取った後、サービスへの評価を行うことでポイントが付与される。そのポイントと商品を交換できる特典までついてくる。
★咔嗒回収(KaDa)オフィシャルサイト
※咔嗒回収(KaDa)オフィシャルサイトより抜粋
★統一のユニフォームや回収車
※咔嗒回収(KaDa)Wechatオフィシャルアカウントより抜粋
企業情報
企業名:(中)広州咔嗒信息科技有限公司
ブランド名:咔嗒回收
設立:2020年12月
創設者:盘首兵
資本金:500万元(8,500万円)
従業員数:非公開
咔嗒回收(KaDa)のビジネスモデル
KaDa全体の対外的な収入源は、消費者から回収した廃品を再利用企業へ販売することで得た売上となる。KaDa内部からの収入源としては、都市共同経営者やエリア代理店からの管理費用やマージンがある。KaDaのサービス網は直営営業拠点、都市共同経営者が経営する拠点、そしてエリア代理店によって構築されている。KaDaのWechatオフィシャルアカウントの情報によると、KaDaは中国全土7箇所に運営本部を設置し、各運営本部で共同経営者の募集を行っている。百度の記事配信アカウント[原彩科技]の記事によるとTOP50の都市は自営で行い、それ以外は都市共同経営者が運営しているとなっている。都市共同経営者は1つの都市を管理する総代理契約を本部と結ぶ。共同経営者は本部から1つの自営管理エリアを割り当てられ、それ以外は更に下層のエリア代理店と契約を結ぶモデルとなっている。
①本部
②都市共同経営者(1都市の総代理)
③都市内部でのエリア代理
と大きくは3層の構造になっているようだ。
②都市共同経営者(1都市の総代理)の収益モデルを紹介する。
1.自主管轄エリアの運営
条件:3台の回収車で1日8-12台分の古紙を回収する場合
1日あたりの利益:1,200~1,800元(20,400~30,600円)
1ヶ月あたりの利益:36,000~54,000元(61万2,000~91万8,000円)
年間利益:35万~45万元(595万~765万円)
2.自主管轄エリア以外へのサービス拡大
条件:10~15のエリアを管轄した場合
年間利益:
20万~30万元(340万~510万円)※1年目の利益
10万~15万元(170万~255万円)※2年目以降の利益
・1年目は年間2万元/エリア(34万円)の管理費用をエリア代理店から徴収
・2年目以降は年間1万元/エリア(17万円)の管理費用をエリア代理店から徴収
3.運営本部と共同で[廃品分別工場]を建設した場合
条件:1日あたりの回収量が10tの場合
1日あたりの利益:4,000元(68,000円)
1ヶ月あたりの利益:12万元(204万円)
年間利益:140万元(2,380万円)
★都市共同経営者の収益モデル
※咔嗒回収(KaDa)オフィシャルサイトより抜粋
都市共同経営者(1都市の総代理)が本部へ支払う費用などは公開されていない。
サービス詳細
廃品回収サービスはWechatのミニプログラムから利用することができる。
1.回収してほしい廃品の種類を選択
古紙、プラスチック、金属、古着、家電、デジタル家電などから選択
※咔嗒回収(KaDa)Wechat ミニプログラムより抜粋
2.更に細かい廃品の内容を入力
例)古紙であれば、書籍、ダンボールなどを選択
入力すると廃品回収金額が自動で提示される。
北京で書籍回収を選択すると、約1元(17円)/kgと提示される※11/13時点
※咔嗒回収(KaDa)Wechat ミニプログラムより抜粋
3.住所などを入力しオーダーをすると回収スタッフが派遣される。
★廃品回収の様子
※咔嗒回収(KaDa)Wechat オフィシャルアカウントより抜粋
4.その場で重量などを測り対価をユーザーに支払う
5.対価の受け取り完了後、サービス評価を行うとポイントが別途付与される。
6.KaDaのWechatミニプログラム上でポイントと商品を交換することができる。
★KaDaのサービスの流れ
※咔嗒回収(KaDa)オフィシャルサイトより抜粋
ビジネスモデル
まとめ
中国は2022年までにプラスチック袋の使用を禁止したり、上海などの大都市ではゴミの分別が厳しく行われたりとゴミの処分に関して政府主導での動きを見せている。また、最近中国のネット記事でも[碳中和(カーボンニュートラル)]という言葉をよく見かける。中国の起業家は本当に時代の流れに乗ることが上手いと思う。社会問題をうまくビジネスにして、単なる環境保護活動だけで終わらせないところがなんとも中国らしい。
参考記事
※1咔嗒回收(KaDa)オフィシャルサイト
http://www.kada66.com/kd/index.html
※2中国再生资源回收行业分析:再生资源回收总量达35447.4万吨,回收总额达9003.8亿
https://www.chyxx.com/industry/202108/971860.html?utm
※3咔嗒回收新定义 广州咔嗒信息科技有限公司带你重新定义废品回收
https://baijiahao.baidu.com/s?id=1714009632187232107&wfr=spider&for=pc
※4选择广州咔嗒废品回收,创建“无废城市”先行者!
https://ln.sina.cn/news/2021-09-24/detail-iktzscyx6104157.d.html?utm
※5别把废品回收不当回事, 广州咔嗒废品回收告诉你:庞大市场,谁最后胜出?
http://www.jinbw.com.cn/xiaofei/20210507/t_1620359187215101.html
筆者
Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。