“SaaS+ハードウェア”モデルで研究開発の強力なサポーターとなる

背景市場

産業分野に関わらず、技術革新に欠かせないのが“研究開発”である。中国における研究開発関連市場は年々成長を続けている。
qianzhan.comの記事によると、中国における[研究開発(R&D)の発展に伴う経費支出総額]は
2018年:1兆9,678億元(33兆4,526億円)
2019年:2兆2,144億元(37兆6,448億円)
2020年:2兆4,426億元(41兆5,242億円)
となり、研究開発に大きな資金投入が行われていることが分かる。

※qianzhan.comの記事より抜粋

iLabServiceとは?

研究開発には多くのシステムや機器を必要とする。iLabServiceは研究開発を行う企業や研究機関に対して、ワンストップのソリューションサービスを行う企業である。創業者の李康は中国の大学を卒業後、シンガポールの大学へ留学した。その後、分析・測定機器を扱う大手企業AgilentやThermo Fisher Scientificで開発や、研究室の全体管理などの経験を積んだ研究開発のスペシャリストだ。研究開発関連の仕事に従事するなかで、一つの課題を発見した。研究室の中では異なるメーカーの機器や設備を使用しているが、メーカー側は自社の商品へのサービスや販売しか行わない。これでは機器・設備のサポートが必要な場合、何社ものサポートチームとやり取りをする必要があり、研究スタッフの作業効率が下がってしまう。これまで人力で行っていた仕事を、IoTなどのテクノロジーを使用することで一元管理できるサービスとして生まれたがiLabServiceである。iLabServiceの始まりは中国ではなく、アメリカのとある小さなガレージで生まれた。投資家からも熱い視線を注がれており、2018年から2021年にかけて1億元(17億円)以上の融資を受けている。

★iLabService オフィシャルサイト

※iLabServiceのオフィシャルサイトより抜粋

企業情報

企業名:(中)釈普信息科技(上海)有限公司
    (英)Xpu Information Technology(Shanghai) Co., Ltd.

ブランド名:iLabService

設立:2017年1月

創設者:李康

資本金:111万元(1,887万円)

従業員数:15人

iLabServiceの収益モデル

iLabServiceの収益モデルは”SaaS+ハードウェア”モデルと表現することができる。
具体的には研究機関や企業に対して、研究開発に必要な設備機器とそこから得られるデータを一元管理するSaaSをセットで提供している。サービス提供のモデルは主に2つ。
1.年間契約で設備機器をレンタル+SaaSが使用できるプラン
2.設備機器は買取+SaaSが使用できるプラン

上場企業ではないため、直近の売上は開示されていないが、雷鋒網の記事によると、2018年の売上は約1,300万元(2.21億円)、設備の設置量は約3,800セットとなっている。

★iLabServiceのサービスイメージ図

※iLabServiceのオフィシャルサイトより抜粋

サービス詳細

商品としては主に5つのパッケージからなる。クライアントのニーズに合わせて各パッケージをカスタマイズし提供する。
①パッケージA[監控保(SciOne Guardian)]
*データモニタリングをメインにした機能
・SaaSの機能:データモニタリング、分析など
・設備(ハードウェア):センサー、動画モニターなど
 
※iLabServiceのオフィシャルサイトより抜粋

②パッケージB[儀器保 SciOne Asset Manager]
*財務、法務管理をメインにした機能
・SaaSの機能:台帳管理、契約管理、資産分析、サービス管理など
・設備(ハードウェア):スマートコンセント、電子ラベル、RFIDコードスキャナーなど
 
※iLabServiceのオフィシャルサイトより抜粋

③パッケージC[庫存保 SciOne Inventory Manager]
*在庫管理をメインにした機能
・SaaSの機能:在庫情報、業務承認フロー管理、入出庫管理、調達管理など
・設備(ハードウェア):センターコンソール、RFIDゲート、RFIDコードスキャナー、電子ロック、システムタイムレコーダーなど
 
※iLabServiceのオフィシャルサイトより抜粋

④パッケージD[様本保 SciOne BioSample Manager]
*サンプル管理をメインにした機能
・SaaSの機能:サンプル情報、入出庫管理、業務承認フロー管理など
・設備(ハードウェア):センターコンソール、RFID&QRコードスキャナー、センサーなど

※iLabServiceのオフィシャルサイトより抜粋

⑤パッケージE:[数据保 SciOne Analytics]
*データ分析をメインにした機能
・SaaSの機能:各種オリジナルデータの取り込み、分析レポートの作成、予測分析モデルなど
・設備(ハードウェア):データ可視化モニター

各パッケージの費用などは公開されていない。

サービス導入実績

プロジェクト事例:新型コロナウイルスmRNAワクチンの保存管理
2021年初旬に取り組んだ新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンの保存管理プロジェクト。mRNAワクチンは保存温度に対して非常に厳しい条件が求められる。-70℃の環境下で保存する必要があり、一旦室内温度の環境に入ってしまうと、再度低温の状況に戻しても保存は不可能となり、5日間以内に使用する必要がある。iLabServiceのクライアントである医薬品企業はワクチンを管理する際、iLabServiceの温度測定アラート製品を購入した。倉庫内で100台以上の超低温冷蔵庫に、iLabServiceの商品を取り付けた実績を持つ。

また、過去には中国の南極観測船”雪龍2号”へのデータ観測用モニターなどを供給した実績を持ち、国家レベルの研究プロジェクトにも参画し、実績を積み上げていった。

★雪龍2号のデータ観測用モニター

※铅笔道の記事より抜粋

ビジネスモデル

まとめ

科学技術・学術政策研究所のデータによると2018年日本の研究開発費総額は19.5兆円(OECD推計では17.9兆円)。

※科学技術・学術政策研究所 科学技術指標2020

中国における[研究開発(R&D)の発展に伴う経費支出総額]は2018年で約33兆円、10兆円以上の差がある。中国がどれだけ研究開発に力を入れているかが分かる。
様々な技術発展に欠かせない研究開発だが、費用が増えるとともに研究開発分野を後押しするビジネスも成長する。
そして研究開発の結果生み出した技術が新たな産業や市場を作る。中国は現在このような好循環の中にいる。
しばらくはこの勢いは続き今後も様々なイノベーションを起こし続けるだろう。

参考記事

※1:[前瞻网]2021年中国国家重点实验室市场现状与发展趋势分析 未来加快筹建国家重点实验室
https://www.qianzhan.com/analyst/detail/220/210616-785500a6.html
※2:[今日头条_投资界]释普科技完成超近1亿元A轮融资:一位85后学霸的创业故事
https://www.toutiao.com/a6989529813354660390/?channel=&source=search_tab
※3:[雷锋网]假如将万物互联带入传统实验室这个“坑”……
https://www.leiphone.com/category/iot/BAgF7wEXsE2xxAur.html
※4:[36Kr]36氪首发 | 「iLabService释普科技」连续获得上亿元preA和A轮融资,软硬一体实现实验室数字化
https://www.36kr.com/p/1327380093573384
※5:[科学技術・学術政策研究所]科学技術指標2020
https://www.nistep.go.jp/sti_indicator/2020/RM295_00.html
※6:又融近1亿元!他跳入一个新百亿赛道:经纬领投
https://www.pencilnews.cn/p/39264.html

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。