食べチョクとは異なる米Good Eggsの食品オンライン販売戦略


人間の生活にとって最も必要な要素である衣食住。ビジネスにおいては、レッドオーシャンでありながら、決して消えることのない分野だ。昨今のウェルネスブームによって、より鮮度や栄養価の高い食材が世の中から求められている中、2017年にアマゾンがWhole Foods Marketを買収し、独自のサプライチェーンや物流網を駆使して、消費者に新鮮な食材をオンラインで届け始めたことは、市場に大きな衝撃を与えた。世界の統計データプラットフォーム会社Statistaによると、世界のオンラインフードデリバリー市場の年平均成長率は11.51%であり、2023年には$154 billion(約16兆円)に到達すると発表している。

実は、アマゾンよりも前に、生鮮食品をオンラインで届けるサービスを行う会社がある。
2011年にサンフランシスコで創業したGood Eggsだ。Good Eggsは生鮮食料品を取り扱うEコマース運営会社。特に地場の生鮮食品を低価格で、直接消費者に届けるサプライチェーンを構築する。

Good Eggsが独自に行った全米の調査によると、新型コロナウイルスが感染拡大した2020年の3月から、約68%の人々がオンラインで生鮮食料品を購入したと発表した。また43%の人々が、月に2回以上注文する傾向があるとわかった。オンラインでの食料品の買い物は、時間を節約できることだけでなく、衝動買いを抑えることや、気に入った食材があれば、定期的に注文できることに魅力がある。

オンライン食料品市場を考えると、Good Eggsのビジネスモデルは話題性もあり、輝かしい道を歩んできたように思えるが、実際は破産寸前まで追い込まれた過去がある。ビジネスモデルが確立されていない創業間もない頃に、アクセルを踏み込み込んで、サービス地域を拡大しすぎたことが原因だ。当初、サンフランシスコだけでなく、ロサンゼルス、ニューオリンズ、ニューヨークなどの大都市に拡大をした結果、食材を配達する毎に、利益を失ってしまう経営状態になった。そんな苦境に陥った状況で、2015年に新しくCEOとして参画したBentley Hall氏は、どのような改革でV字回復を成し遂げたのであろうか。同氏は、会社の売り上げは$100 million (約105億円)まで成長し、従業員も400人以上になったと述べている。

企業概要

企業名:Good Eggs
起業年:2011年
創業者:Alon Salant, Rob Spiro
従業員数:200-400
URL:https://www.goodeggs.com/sfbay/home

ビジネスモデル

新CEOのHall氏が取り組んだことは、「顧客中心」のビジネスに展開すること。

まずは、プラットフォームで販売する商品種類や数を圧倒的に増やし、当時で合計4000以上の品を取り揃えた。いわば、アマゾンと同等の品揃え大量戦略だ。また、オンライン市場で最も注文される果物の一つはバナナ。バナナはサンフランシスコで育つことはないが、バナナを注文する顧客が他の商品を注文することを狙い、地場の生鮮食品を取り扱うというルールを破ることを決意。2020年時点では約30%の食材を地元以外から仕入れている。

いくら顧客中心の戦略を実施しているとはいっても、会社の利益も考えなければならない。商品を配送するたびに利益が損失する状況を打破するために、顧客層と地域の選択と集中を行った。1人暮らしで少量の食材しか頼まない顧客を相手にするのではなく、定期的にある程度のロットで注文するファミリー層に的を絞った。具体的には、30-45歳で、年収が$150,000(約1580万円)以上の家庭だ。将来的には、他の地域にも拡大していくが、過去の失敗から学んだ同社は、まずはサンフランシスコのエリアに特化して、毎日小さな改善を積み重ねて、ビジネスモデルを強固にすることにこだわった。

2020年時点では、顧客の平均購入単価はUS$100(約1万500円)になったと述べ、EBITDA マージン(事業活動で生じるキャッシュベースの利益の売上高に対する比率、EBITDAマージン= EBITDA(税・利払い・減価償却前の利益)/売上高)が業界平均で2-3%のところ、同社は10%を目指すと意気込む。


サプライチェーンに関して、驚くべきことに70%の配達は自社の従業員が行う。一般的には運送会社と提携をして配送業務を委託するが、同社は地域を絞っていることから、自社倉庫での在庫管理と配達を行うことで、コストを削減する。最短で、注文を受けた当日に配達を完了させることができる。


※画像はGood Eggsウェブサイトより抜粋

収益源

前述したように、ターゲット顧客はファミリー層などある一定量の注文をする顧客層に絞る。したがって、一回の注文金額は最低$30で設定。

Good Eggsは主に手数料で収益を得る。
$80以上の注文で$2.99
$80以下の注文で$7.99

土日月の注文にはさらにそれぞれの手数料に$4を追加して、早朝の時間帯はさらに追加で$2ドルを課金する(月ー金 6-8am o 土日8-10時)。


最後に

かつて、日本では質の良い生鮮食品は高級スーパーや百貨店などで高額で販売されていた。これは、様々な利権が絡む日本社会によって、販売を支援する複数の卸売業者が、莫大な手数料を蝕んでいたことが原因だ。しかし、少子高齢化によって第一次産業従事者が減少していく一方で、Good EggsのようにITの力を駆使して活躍するスタートアップが、業界構造が大きく変えつつある。日本では食べチョクが、生産者から消費者に直接オンラインで商品を届けるサービスを展開して、本当に美味しい食材が安く提供されるようになった。その結果、生産者も販売規模を拡大させることができ、収益をあげることができる素晴らしい好循環が生まれ始めている。

著者プロフィール

小松彰洋。Business Earth管理人。大学卒業後、外資系IT企業で営業やマネジャー職を経て、現在はIT関連の経営コンサルティングやソフトウェアセールス領域で活動中。