市場の成長とともに生まれた、国家認定の新たな職業「整理収納師」

背景市場

日本の総務省が定める【日本標準職業分類】と同じく、中国でも国家が定めた職業分類がある。中国では2021年1月に日本の【家庭生活支援サービス職】に相当するカテゴリに新たな職業が追加された。その名は“整理収納師”。日本でいう収納アドバイザーに該当する職業だ。この背景には中国における整理・収納市場の急成長がある。LIEYUNWANG.comの記事によると、2020年時点で中国の整理収納業界の年間生産高は1,000億元(1兆7,000億円)に登るとされており、巨大な市場であることがわかる。

なぜここまで“整理・収納”が注目されているのか。
収納サービスを展開する留存道(LIU CUN DAO)と新浪楽居(leju.com)が共同発表した《2021中国整理行業白皮書(2021中国整理業界白書)》によると、2019年時点で整理収納師の職業訓練を受けた総人数は18,000人。2020年~2021年には新たに約9,800人の整理収納師が増える見込みとされている。整理収納師のおよそ60%が年収10万元(170万円)以上を得ており、収入面でも魅力度が高い。一級都市では年収200万元(3,400万円)を稼ぐ層も出てきており、整理収納師の人気に拍車をかけている。ここまで整理収納師のニーズが高まっている原因として次のようなものが挙げられる。
1.中国では一人っ子政策が廃止され、子供を2,3人出産することが可能となった。家族が増えることで必然的に物も増え、収納スペースの有効活用が必要となる。
2.地方の都市化が進んだことで、住宅が狭くなり空間の有効活用が必要になった。

金袋鼠(GOLDEN KANGAROO)とは?

金袋鼠(GOLDEN KANGAROO)は深圳金袋鼠科技有限公司が運営する整理・収納サービスブランドである。整理収納師の育成から消費者への整理・収納サービスまでをワンストップで提供する。2020年に立ち上がったブランドだが、整理収納市場の拡大を追い風に急成長をとげている。sina.comの記事によると、現在中国全土約50都市に運営支部を設置し、100都市以上にサービス拠点をかまえている。直近では数千万元の融資獲得に成功しており、その企業価値は2億元(34億円)にのぼる。

成長の背景には継続的な企業買収が挙げられる。整理収納師の研修サービス提供している企業を次々と買収することで体系的な研修プログラムの構築や、サービスの拡充を推し進めた。また中国全土に運営拠点を急拡大させるために、自社で運営支部を作るのではなく他企業とのパートナーシップ契約で効率的に増やす仕組みをとっている。このパートナーシップのことを中国では合伙人(he huo ren※経営パートナー)と呼び、中国では今主流の形態となっている。

GOLDEN KANGAROOは整理・収納業界に積極的にテクノロジーを持ち込んでいることにも注目したい。背景としてGOLDEN KANGAROOがこの業界に参入するまで、IT技術などをあまり取り入れない旧態依然の企業が多かった。例えば収納サービスを希望する顧客に対しては、事前の収納レイアウトを作成する段階で独自開発をしたアプリを使用する。手書きで収納レイアウトを作成する場合2-3日かかっていたものが、アプリでの作業だとおよそ半日で完了するなどテクノロジーを活用することで業務効率を上げるなどの努力を重ねている。アプリで作成したレイアウトを顧客に提供することで、顧客が再度収納を行うときに困らないというメリットもある。

また、単純な収納サービスを提供するだけでなく、もうひとりの創業者である陸奕伽の「幸福な家庭環境を再構築する」という理念のもと、各種検査(室内空気測定・水質検査、ウイルス検査、ダニ検査など)なども行ってくれる。このようなサービスが人気を呼び、GOLDEN KANGAROOのオフィシャルサイトでは3,000以上の家庭にサービスを届けたと記載されている。
2020年に立ち上がった企業であることもあり、売上や利益実績については現状公開されていない。

★GOLDEN KANGAROOオフィシャルサイト

※GOLDEN KANGAROOオフィシャルサイトより抜粋

企業情報

企業名:(中)深圳金袋鼠科技有限公司

ブランド名:金袋鼠(GOLDEN KANGAROO)

設立:2020年9月

創設者:陸奕伽(共同創設者)

資本金:500万元(8,500万円)

GOLDEN KANGAROOの収入源と運営モデル

GOLDEN KANGAROOの収入源は2つ。

1.整理収納師の研修受講料
2.各種収納サービス費用

★運営モデル★
全国に約50ある運営支部は他企業とのパートナーシップ契約で運営されている。
筆者がGOLDEN KANGAROOに直接問い合わせて入手した資料によると、下記のような条件となっている。
■パートナー企業加盟条件
※都市ごとにB2~Sまでランク付けされており条件が異なる。

<B2:地方都市>
加盟費用:6.8万元(115万円)
保証金:3万元(51万円)
次年度サービス費用:3.4万元(57万円)

<B1:地方都市>
加盟費用9.8万元(166万円)
保証金5万元(85万円)
次年度サービス費用:4.9万元(83万円)

<A2:中規模都市>
加盟費用:15.8万元(268万円)
保証金:7万元(119万円)
次年度サービス費用:7.9万元(134万円)

<A1:中規模都市>
加盟費用:19.8万元(336万円)
保証金:10万元(170万円)
次年度サービス費用:9.9万元(168万円)

<S:大規模都市>
加盟費用29.8万元(506万円)
保証金10万元(170万円)
次年度サービス費用:14.9万元(253万円)

サービス詳細

1.整理収納師の育成プログラム
①入門コース:9.9元(94円)
収納スキルなどを全く知らない人が受講する入門コース。
5回の講座で基礎知識を習得


※GOLDEN KANGAROO Wechatオフィシャルアカウントより抜粋

②認証取得コース:個人申込1,980元(33,660円)/団体申込み888元(15,096円)
整理収納師の認証を取得することができる本格コース


※GOLDEN KANGAROO Wechatオフィシャルアカウントより抜粋

2.収納サービス費用
Wechatのオフィシャルアカウントから利用することができる。
1.整理・収納4時間コース:228元(3,876円)
サービスの流れ
・収納スペース診断⇛収納案作成⇛整理・収納実施
GOLDEN KANGAROOの標準的な整理・収納サービスを提供する。


※GOLDEN KANGAROO Wechatオフィシャルアカウントより抜粋

2.オーダーメイド収納レイアウト作成:280元(4,760円)
標準的な収納プランではなく、顧客のニーズに応じてオーダーメイドの収納レイアウトを作成。


※GOLDEN KANGAROO Wechatオフィシャルアカウントより抜粋

★実際のサービス利用の流れ

※抖音より抜粋
▶ここをクリックすると動画を見ることができます

ビジネスモデル

まとめ

中国では2017年頃から「断捨離」という言葉が流行し始めた。余分なものは捨て、自分に必要なものだけを残す。これまでの物質的な豊かさから、生活の質を重視するという人々の価値観の変化も整理・収納というニーズを生み出した原因だと思う。日々の様々なストレスから開放されるため、せめて家の中だけはゆったりできる空間にしたい。GOLDEN KANGAROO創業者の「幸福な家庭環境を再構築する」という理念はまさに今の中国人の価値観とマッチしたビジネスといえる。

参考記事

※留存道发布《2021中国整理行业白皮书》:整理业态进一步丰富,行业变化趋势明显http://ex.chinadaily.com.cn/exchange/partners/82/rss/channel/cn/columns/snl9a7/stories/WS61e13e1fa3107be497a0247a.html
※千亿市场的整理收纳,伪需求还是真风口?
https://www.lieyunwang.com/archives/478144
※金袋鼠 オフィシャルサイト
https://www.jindaishu.cn/
※36氪首发|打通整理收纳服务一体化,「金袋鼠科技」获数千万元种子轮融资
https://36kr.com/p/1346905256368129
※金袋鼠廖雨婕:以科技赋能引领行业革新,打造整理行业生态链
https://www.toutiao.com/a7031363512065065486/?channel=&source=search_tab
※金袋鼠完成数千万元天使轮融资,开创“整理+”新时代
http://finance.sina.com.cn/jjxw/2022-01-07/doc-ikyamrmz3718155.shtml
※加速整理收纳一体化全国布局 金袋鼠收购花柒文化
http://cn.chinadaily.com.cn/a/202110/09/WS61615105a3107be4979f18f2.html
※构建整理行业新生态 金袋鼠全国整理师峰会成功举办
http://cn.chinadaily.com.cn/a/202112/24/WS61c5918ca3107be4979fee37.html
※再定三城 金袋鼠联合创始人廖雨婕出席运营中心签约仪式
https://www.163.com/news/article/GSHOEVDJ00019UD6.html

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。