創業からわずか5年、”実験用マウス”で急成長した企業が上場へ

背景市場

中商情報網の記事によると中国の実験用マウスの市場規模は年々成長を続けている。
2020年:32億元(576億円)
2021年:40億元(720億円)
2022年(予測):53億元(954億円)となり毎年約10億元(180億円)のペースで市場が伸長し、2022年には1,000億円規模に達する見込みとなっている。
中国の実験用マウス市場は世界的に見るとまだ発展初期の段階にあると言われており、今後医療研究や新薬開発が加速するに伴い市場もこのまま成長を続けることが予想されている。

★中国実験用マウス消費及びサービスの市場規模

※中商情報網の記事より抜粋

集萃薬康(GemPharmatech)とは?

集萃薬康(※以下GemPharmatech)は実験動物/モデルマウスの研究開発、生産、販売及びそれに関連する技術サービスを提供するハイテク企業だ。36Kr.comの記事によると創業者の高翔は起業家ではなく、生粋の研究者である。特にモデルマウスの研究については多大な実績を持つ人物である。彼は1994年~1997年にかけてトーマス・ジェファーソン大学の博士課程を修了し、その後アメリカのRoche Institute of Molecular BiologyやThe Jackson Laboratoryにてポストドクターとして研究を行っていた。2000年3月に中国へ帰国し、その後南京大学の教授に就任した。南京大学のモデル動物研究所、生物研究員の所長、院長を歴任。また国家の重点プロジェクトである「国家遺伝工程小鼠資源庫(National Resource Center of Model Mice )」を立ち上げた。その後モデルマウスの産業化や持続可能な発展を加速させるべく2017年にGemPharmatechを設立した。

2017年に設立された同企業は、2022年4月上海証券取引所の科創板への上場を目指し、IPOに向けた公募を開始した。設立から5年足らずで上場目前までたどり着いた急成長企業だ。

★GemPharmatechオフィシャルサイト

※GemPharmatechオフィシャルサイトより抜粋

2018年から2021年6月までの財務状況は下記の通り。
ベンチャー企業などは最初の数年は投資期間として赤字経営になる例も少なくないが、
この企業は初年度の純利益はマイナスだが、それ以降は売上の成長だけでなく利益もしっかりと確保できていることがわかる。
[2018年度]
売上:5,329.06万元(9億5,923万円)
純利益:-603.55万元(-1億863万円)
[2019年度]
売上:1億9,272.06万元(34億6,897万円)
純利益:3,473.41万元(6億2,521万円)
[2020年度]
売上:2億6,191.71万元(47億1,450万円)
純利益:7,643.35万元(13億7,580万円)
[2021年1月~6月]
売上:1億7,846.70万元(32億1,240万円)
純利益:4,634.14万元(8億3,412万円)

目論見書の内容によると、2019年の時点でGemPharmatechは業界シェア6.7%を占めており、業界第2位の位置まできている。2017年12月に設立された企業なので、わずか2年ほどで業界2位の座まで上りつめたことになる。中国のモデルマウス市場はまだ発展初期の市場ということもあり、1位と2位の差もそれほど大きくなく今後市場が成長するに伴い多くのプレイヤーが参入し市場競争が激しくなっていく様相を呈している。

企業情報

企業名:蘇州集萃薬康生物科技股份有限公司

ブランド名:GemPharmatech

設立:2017年12月

創設者:高翔

資本金:3億6,000万元(64億8,000万円)

集萃康薬(GemPharmatech)のビジネスモデル

GemPharmatechのビジネスの核となる商品は”モデルマウス”である。モデルマウスとは普通のマウスとは異なり、一般的には医療や新薬開発などの分野における実験や研究のために使用される”ゲノムが改編された”マウスを指す。マウスはゲノム配列が解読された哺乳類でありヒトとよく似たゲノム配列のため医療や新薬の研究などによく用いられる。また繁殖力も強いので、比較的容易・大量に繁殖することが可能だ。
GemPharmatechのビジネスは大きく4つに分類される。
①モデルマウスの販売
ビジネスの中でもっとも規模が大きいのがモデルマウスの販売。
2021年度1~6月の実績でみると、商品化されたモデルマウスの売上は1億945万元(19億7,010万円)となっている。cKO / KOマウス、ヒト化I / Oマウス、免疫不全マウス(NCG)などさまざまな用途に合わせて作られたモデルマウスの品種は2021年6月時点で約20,000品種となっている。
2022年4月に提出された目論見書の記載によると、直近1年で約60万匹のマウスモデルを販売している。

②モデルマウスのオーダーメイド開発
既存の品種だけでクライアントのニーズを満たすことはできない。研究などの過程で特別な目的のために特殊なモデルマウスが必要となる。そこでGemPharmatechはクライアントのニーズに合わせてゲノム改編などを行ったオーダーメイド型のモデルマウスの開発業務を行っている。
ビジネスの規模としてはそれはど大きくないが、2021年1~6月の売上は1,414万元(2億5,452万円)となっている。

③モデルマウス飼育サービス
一般的なモデルマウスに比べ、遺伝子工学により新たに作り出されたモデルマウスは個体差が出やすいため、飼育には非常に特殊な条件が求められる。クライアント自身では飼育が難しいモデルマウスをGemPharmatechが代わりに飼育管理を行うサービス。このサービスの売上は2021年1~6月で2,788万元(5億184万円)。

④新薬の効果効能分析サービス
ヒト化モデルマウス・疾患モデルマウスを使い薬の効果効能を分析するサービス。クライアントの薬に合うモデルマウスを選び、標的部位に対して投薬を実施する。その分析結果をクライアントへ提供する。
2021年1~6月の売上は2,321万元(4億1,778万円)

GemPharmatechのクライアントは主に大学や研究機関、病院、医薬品メーカーである。

★GemPharmatechのビジネスモデル

※GemPharmatech目論見書より抜粋

サービス詳細

モデルマウスの価格
cKO / KOマウス:8,790.90元/匹(15万8,236円)
免疫不全モデルマウス:169.56元/匹(3,052円)
ヒト化モデルマウス:1,794.94元/匹(3万2,308円)
疾患モデルマウス:375.80元/匹(6,764円)
基本品種マウス:53.66元/匹(965円)
※2021年1~6月の平均単価


※GemPharmatechオフィシャルサイトより抜粋

ビジネスモデル

まとめ

中国では今医療や新薬に関する企業が次々に現れ、ネット上では毎日のように投資関係の情報が更新されている。中国は自国で新型コロナウイルスのワクチンを開発したりと、国を挙げて研究開発に取り組んでいる。このような背景もあり今後も医療や新薬の分野で多くの研究が行われ、それに必要なモデルマウスへのニーズも大きくなるに違いない。

参考記事

※GemPharmatechオフィシャルサイト(中国語)
https://www.gempharmatech.com/shop/index.html
※GemPharmatechオフィシャルサイト(日本語)
https://www.gempharmatech.com/jajp/company/index.html
※GemPharamteck目論見書
http://www.sse.com.cn/disclosure/listedinfo/announcement/c/new/2022-04-18/688046_20220418_1_vJXZJy3V.pdf
※四年赚9亿,59岁南京大学教授靠卖“小白鼠”收获一个IPO
https://36kr.com/p/1692216685534340
※2022年中国实验小鼠产品及服务市场规模预测:成品小鼠销售市场最大(图)
https://www.askci.com/news/chanye/20220415/0935081824134.shtml

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。