最期を迎えたペットを見送る”葬儀”、市場ニーズが急速に高まる

背景市場

iiMedia Researchが発表した「2022-2023年中国寵物産業発展及消費者調研研究報告(日訳:2022-2023年中国ペット産業発展及び消費者調査研究レポート)」によると、中国のペット経済産業規模は2021年に3,942億元(7兆8,840億円)に到達し、2025年には8,114億元(16兆2,280億円)と2倍に膨れ上がると予測されている。この市場規模拡大の背景には中国の社会環境の変化が関係している。iiMedia Researchの同レポートでは未婚の男女の増加と高齢者の増加が要因として挙げられている。2020年の結婚登記数は814.3万組、2019年から113万組減少した。リズムの速い労働・生活環境により、都市部の未婚者数が増加したと考えられ、消費力も高い独身者は自身のパートナーとしてペットを飼う傾向にある。また中国の60歳以上の人口は2021年に2億6,736万人に達し、高齢者は晩年の生活で孤独を感じやすくペットを飼うことで生活における幸福感を感じることもできる。以上のような理由からペットを飼う人が増えるに従い、ペットビジネスの規模も年々増加することが予測されている。
命ある動物である以上いつかは最期を迎える。そこでペット葬儀のニーズも日に日に高まっている。今日頭条の配信アカウント[金融界]の記事によるとここ数年でペット葬儀関連の企業数は急速な増加を見せており、2019年には前年比で470社しか増加しなかった状況が、2020年には1,960社の増加、2021年には3,528社と爆発的に増えている。中国のペット葬儀産業は黎明期にあると言われ、今後市場での競争が激化すると見られている。

★中国のペット経済産業規模及び予測

※iiMedia Research「2022-2023年中国寵物産業発展及消費者調研研究報告(日訳:2022-2023年中国ペット産業発展及び消費者調査研究レポート)」より抜粋

恩寵堂(en chong tang)とは?

恩寵堂(en chong tang)は杭州恩寵堂環保科技服務有限公司が運営するペットの葬儀サービスブランドである。創業邦(cyzong.cn)の記事に恩寵堂の創業の経緯など記されている。創業者の徐樺は恩寵堂を創業する以前、ペット医療保険の会社を経営していた。中国全土にある約40%の動物病院と提携するなどの実績をおさめていた。ペット葬儀業界に転身したのは”自然の成り行き”だった。保険サービスの事業を行っていた頃よく顧客からペットが亡くなったあとどうすればよいのかと言った問い合わせを受けていたからだ。またペット保険とペット葬儀の大きな違いは”絶対に必要かどうか”という点にあった。保険はもちろん重要だが、絶対にかけなければいけないものではない。しかしペットは必ず最期を迎える、となると葬儀は絶対に必要になる。しかも中国ではペット葬儀の浸透率はかなり低くブルーオーションといえる市場であった。そこにビジネスの可能性を感じた徐樺は2017年に恩寵堂を立ち上げた。ペット葬儀はまだ黎明期であり、豊富なノウハウを持つ企業も少なかった。そこで徐樺は日本からペット葬儀のノウハウやシステムを中国に持ち込むことにした。日本のペット葬儀産業は中国よりも成熟しており、体系化されたノウハウがあった。その中でも特に注目したのが移動火葬車だ。これにより、コスト削減や火葬の効率を上げることができた。36Kr.comの記事によると、まだまだ浸透率の低いペット葬儀産業であるが恩寵堂の2021年の売上は2,000万元(4億円)となり粗利率も35%の実績を作っている。2022年には1,500万元(3億円)の資金調達にも成功している。


※恩寵堂Wechatオフィシャルアカンとより抜粋

企業情報

企業名:杭州恩寵堂環保科技服務有限公司

設立:2019年6月
※恩寵堂の設立は2017年

創設者:徐樺
※杭州恩寵堂環保科技服務有限公司の法定代表人は姚群

資本金:222万元(4,440万円)

従業員数:非公開

恩寵堂(en chong tang)のビジネスモデル

恩寵堂は2020年時点で中国68の都市にサービスを展開し、108のサービス拠点を構えている。2025年には280都市までサービスエリアを拡大させる計画だ。このエリア拡大を支えるのがフランチャイズ展開である。2020年9月から正式にフランチャイズ募集を始め、フランチャイズ加盟企業の98%が抖音(TikTok)の恩寵堂のコンテンツやオフィシャルアカウントを見て恩寵堂側に連絡をしてきた。TikTokからの応募というのがいかにも今の中国らしい。日本ではTikTokはコンテンツを視聴するSNSとしての役割が大きいが、中国のTikTokは今やECプラットフォームやビジネスのマッチングなど多くの役割を果たしている。創業邦(cyzone.cn)の記事によると加盟費用は約30万元(600万円)でそのうち20万元(400万円)が移動式火葬車の費用となる。1店舗あたり2名での運営が必要となり、毎月の売上は約8万~12万元(160万~240万円)となり利益率は45%と高い利益が見込まれる。約1年~1年半で投資回収が可能となるモデルになっている。フランチャイズ加盟店の95%が女性である点も特徴的である。女性は男性とくらべて感情関連の物事に関心があり、そのような物事により価値や意義を見出しやすい、と徐樺は分析している。
集客に関しては、40%が動物病院、ペットショップなどの提携企業からの紹介、30%がアリペイ(決済サービス)、大衆点評(口コミサイト)、小紅書(SNS)、美団(デリバリーアプリ)などのオンラインからの流入となっている。また、残りの30%は既存顧客からの紹介で構成されている。恩寵堂ではこの集客戦略を”433モデル”と呼んでいる。

★恩寵堂抖音(TikTok)オフシャルアカウント

※恩寵堂Wechatオフィシャルアカウントより抜粋

サービス詳細

Wechatミニプログラムや電話などで予約をすると、担当者が車で現場にやってくる。その後ペットの葬儀を行い、移動式火葬車で火葬を行う。埋葬については①恩寵堂の管理施設にて保管する②火葬した遺骨を晶石にして提携寺院に安置する③遺骨を提携の森林地区に埋葬し、樹木の上にペットの名前を掛ける④遺骨を晶石にしてアクセサリーとして加工する、この4つのオプションから選ぶことができる。
恩寵堂のWechatオフィシャルサイトを見ると、葬儀の費用は500~1,680元(1万~3.4万円)となっている。

★サービスの流れ

※恩寵堂Wechatオフィシャルアカウントより抜粋

★サービスの参考価格

※恩寵堂Wechatオフィシャルアカウントより抜粋

ビジネスモデル

まとめ

中国のペット関連産業は急成長期にあり、ペットフードやペット関連グッズなど様々な分野で多くの企業やブランドが市場へ進出している。ペットが飼い主とともに過ごしている時にいいものを与えることはもちろん大切だが、責任ある飼い主としてペットが最期を迎えた時、これまでの思い出や感謝と共に弔うことができる葬儀についても今後品質の高いサービスを提供する企業が増えることを願う。

参考記事

※宠物殡葬师职业体验 为宠物做特殊“摆渡人”,天眼查显示近两年每月新增超230家宠物殡葬企业
https://www.toutiao.com/article/7033288210134336037/?channel=&source=search_tab
※宠物殡葬,「烧」出一条新路
https://36kr.com/p/1915158036271623
※宠物殡葬的“冷与热”:渗透率仅2%的小众生意,ta却将年营收做到2000万元
https://www.cyzone.cn/article/698126.html
※为宠物办葬礼,一单可达上万元,商家也有烦恼:开进大商场很难
https://36kr.com/p/1927786569124485
※恩宠堂 | 全国覆盖68个城市,累计服务宠物宝贝超16万多只
https://mp.weixin.qq.com/s/63APGVPclLitHyzj1YqR_g
※艾媒咨询|2022-2023年中国宠物产业发展及消费者调研研究报告
https://www.iimedia.cn/c400/86479.html

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。