睡眠に悩みを抱えている人は3億人、睡眠障害を救う企業がIPO申請

背景市場

中国睡眠研究会と寝具ブランド慕思(DeRUCCI)が共同発表した[2022年中国国民健康睡眠白皮書]によると、調査に参加した9,082人のうち4分の3が睡眠に悩みを抱えているという結果が出た。寝付きが悪い、眠りが浅い、不眠など理由は様々だ。
★調査対象者の多くが眠りに悩みを抱えている

※[2022年中国国民健康睡眠白皮書]より抜粋

また中国睡眠研究会の調査によると中国では3億人が何らかの睡眠障害を抱えているそうだ。睡眠に対する悩みを抱える人が増えるに伴い、今睡眠関連市場が注目されている。iiMediaのレポート[2021年中国睡眠経済行業研究報告]によると、睡眠経済の市場規模は年々成長を続けており
2019年:3,598億元(6兆8,362億円)
2020年:3,778億元(7兆1,782億円)
2021年(見込み):4,173億元(7兆9,287億円)と非常に大きな市場となっている。
★中国睡眠経済市場規模

※iiMedia[2021年中国睡眠経済行業研究報告]より抜粋

慕思(DeRUCCI)とは?

慕思(※以下DeRUCCI)は慕思健康睡眠股份有限公司が運営する寝具ブランドである。今日頭条の配信アカウント[哇噻説明財経]の記事によると、創業者の王炳坤(Wang Bing Kun)は広東省東莞市出身の50歳。過去には中国家具業界の”偉大なリーダー10人”や”風雲児10人”に選ばれた実績があることからもわかるように、中国の家具業界をリードしてきた存在である。1972年生まれの王炳坤は、1990年代東莞市の中でも家具産業が盛んであった厚街(Hou Jie)と呼ばれる地域で親戚や友人の影響を受け自身も家具業界へ身を投じた。1998年1月~2003年12月まで様々な家具ブランドの代理店業務を行い、業界での経験と人脈を築き上げていった。
2000年に家具の視察のためにイタリアへ行った際、ホテルにあった”ベッド”に魅了された。世界にはこんなにも素晴らしいベッドがあるのかと驚いた。帰国後、王炳坤はベッドのマットレスの研究を開始し、あの時イタリアで出会ったベッドより素晴らしい商品を作り上げることを誓った。そして2004年起業を決め、DeRUCCIを立ち上げた。
DeRUCCIというブランドは中国に行ったことのない人にはほとんど知られていないが、実はビジネスで中国に行く機会が多い日本のビジネスマンは”ある場所”でほぼ絶対と言っていいほどこのブランドを目にしている。
まずは次の画像をみて頂きたい。


※DeRUCCIオフィシャルサイトより抜粋
右端に映っている男性に見覚えがある中国出張族のビジネスマンは数多くいるはずだ。DeRUCCIはかなりの頻度で”空港”に大きな広告を掲載している。筆者もこの企業について調べる前までDeRUCCIと聞いても何のブランドか想像できなかったが、この男性の画像をみたとたん”空港にいつもある広告”という記憶が蘇ってきた。

★空港での広告

※DeRUCCI目論見書より抜粋

とにかく中国ではブランド名は知らなくても、この男性のことを認知している人は多い。その証拠に2021年に慕思健康睡眠股份有限公司が初めて株式公開の申請を行った際、中国証券監督管理委員会が同企業に対して行った59問の質問のなかに「あの外国人は一体誰だ?」という質問が盛り込まれていたほどこの男性の認知は高かった。結論この男性はTimothy James Kingmanという人でただのモデルだったそうだ。この男性のイメージが強すぎた故、多くの人がDeRUCCIを海外ブランドだと思っていた。
ブランド立ち上げから18年後の2022年、同社は深セン証券取引所にてIPO申請を行い上場まであと一歩というところまで成長を遂げた。目論見書を見ると、DeRUCCIは現在代理店・直営を合わせて中国の500都市以上に販売チャネルを広げ、約1,900の代理店と約4,900の専門店でオフラインのおける大きな販売網を構築するまでに至った。またオーストラリア、アメリカ、イタリア、ドイツなど20カ国あまりの国と地域へも専門店を展開するなど海外への展開にも力をいれている。マットレスなどの寝具をメインに扱う同社の2021年の売上(主要商品)は約64億元(1,216億円)にのぼる。

企業情報

企業名:(中)慕思健康睡眠股份有限公司

ブランド名:慕思(DeRUCCI)

設立:2007年4月

創設者:王炳坤

資本金:3.6億元(68.4億円)

従業員数:非公開

慕思(DeRUCCI)のビジネスモデル

DeRUCCIの収入源は寝具の販売となる。売上として一番高いのはマットレスであり、全体売上の約50%を占める。その次にベッドの売上が高く27.95%を占め、枕、布団などがあとに続く。オフラインの販売形態は直営と代理店経由に分類される。2021年度全体売上約64億元(1,216億円)うち約68%に相当する約44億元(836億円)が代理店経由の売上となっている。直営店舗の売上は約4.4億元(84億円)と代理店経由の売上に比べると規模は小さい。その他ホテル企業などを相手にしたB2Bでの直販、ECなどの販売チャネルからの売上もあるが、売上の大部分を代理店運営のオフライン店舗に依存している状態である。

現在中国全土に約1,900の代理店を抱えるDeRUCCIは、代理店に対して厳格な評価制度を設けることで厳しく管理を行っている。たとえば、各代理店に対して格付け審査を実施。4S(Sale、Show、Service、Survey)を軸に評価を行い、一級もしくは二級市場の代理店に対しては3つ星基準で評価、三級から六級市場に対しては2つ星基準での評価が行われる。ランクのアップ・ダウンにより仕入れ値が変動する。またDeRUCCIの商品を扱う代理店は他社ブランドの寝具を販売することは許されない。商品の販売に注力してもらうために、目標達成度、業績成長率、消費者満足度などを総合的に評価し年間リベートなどのインセンティブ制度を設けている。一方業績基準に満たない代理店に対しては、代理店のライセンス抹消や他社にライセンス件を譲渡させるといった厳しい措置をとることで徹底した代理店管理を行っている。

主力商品であるマットレスは主に自社工場で生産される。DeRUCCIは受注生産をメインの形態として顧客からのオーダーを集約した後生産を行う。受注から出荷までおよそ9日~15日のリードタイムを実現している。受注生産を採用することで在庫過多などのリスクを軽減することができる。またこれは自社生産であるがゆえに実現することが可能であり、OEMなどへの委託生産の場合、生産ラインの確保などの面で自由度が下がるため柔軟が対応が難しくなる。OEMへの生産委託はあくまで補助的な役割として活用している。技術開発においては503人の開発スタッフを抱えており、2021年の研究開発費は約1.5億元(28.5億円)で売上のおよそ2.4%を占める。

サービス詳細

★マットレス
価格8,599元(16.3万円)

※DeRUCCI Tmall旗艦店より抜粋

★ベッド
価格:8,599元(16.3万円)

※DeRUCCI Tmall旗艦店より抜粋

ビジネスモデル

まとめ

DeRUCCIのビジネスの成功は、創業者の王炳坤のものづくりへの情熱と、販売網の厳格かつ徹底的な管理が組み合わさってできた結果といえる。

参考記事

※DeRUCCIオフィシャルサイト
https://www.derucci.com/
※他卖床垫年入40亿,要IPO了
https://news.pedaily.cn/202206/493522.shtml
※慕思股份IPO获批:曾陷假洋牌争议,床垫毛利率接近60%
https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_15768087
※DeRUCCI目論見書
http://www.szse.cn/disclosure/listed/bulletinDetail/index.html?8f5bed0c-c91d-4b94-af99-531f15278060
※2022年睡眠拯救计划:国民深睡运动白皮书
https://www.iresearch.com.cn/Detail/report?id=3951&isfree=0
※艾媒咨询|2021年中国睡眠经济行业研究报告
https://www.iimedia.cn/c400/80058.html
※东莞走出一位家居大王:打造床垫生产领先企业,身家40亿
https://www.toutiao.com/article/7074832876352602656/?channel=&source=search_tab
※这个外国老头到底是谁?证监会发问,网友也坐不住了:还以为是乔布斯
https://www.toutiao.com/article/7037306508828213790/?channel=&source=search_tab
※2022中国国民健康睡眠白皮书
https://www.derucci.com/show/web/viewer.html?file=../../upload/file/202203/04c05b3b-b204-4fa2-8e07-a98aa4b5471a.pdf
※3.21世界睡眠日中国主题发布会暨大型科普活动在京启动《2021年运动与睡眠白皮书》发布
http://www.zgsmyjh.org/nd.jsp?id=743#skeyword=3%E4%BA%BF%E4%BA%BA&_np=0_35

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。