実機そっくりのシュミレーター、未来の航空関連人材を育てる教育

背景市場

2019年中国人民共和国教育部は「国家職業教育改革実施方案」を公布した。この方案の概要をまとめると、普通教育と職業教育の2分類において、先進国と比較すると中国の職業教育の環境は整備されている状態とはいえず今後さらなる改善と強化が必要となり、国家としてしっかりとした職業教育の制度を作るという政策である。一方2021年に中国の教育業界において激震が走る出来事があった。政府が中国語では”双減”と言われる政策を発表したことにより、多くの教育関連企業が市場からの撤退を余儀なくされたり、最悪の場合倒産に追い込まれた。”双減”とは学生から”双(2つの)”<負担>を”減(減らす)”という意味がある。日本でもテレビやその他メディアで報道されることもあるが、中国の受験競争は非常に激しい。学習時間や宿題の量も膨大だ。日本でもそうだが、よりよい学校に合格するために学習塾に通う。そうした背景もあり、当時中国では教育市場が加熱しており、特にIT技術を活用したオンライン学習コンテンツやアプリなどの企業が数多く誕生していた時期だ。市場が加熱する一方、学生本人は学校の宿題+学習塾による負担が大きくなり心身への影響が懸念されていた。そこで、①学校の宿題の減少②学習塾の減少を目的とした”双減”政策を発表するに至った。多くの教育関連の企業が存亡の危機に立たされた一方、成長する企業もあった。それが先に述べた「職業教育」の分野でビジネスを展開していた企業だ。”双減”は「普通教育」の分野に該当するが、「職業教育」はその対象外となりまた政府の後押しもあり様々な企業が誕生し市場が活気づいている。

得控(deko)とは?

得控(以下deko)は北京得控教育科技有限公司が運営する将来の航空関連人材の育成を目的とした教育サービスを提供するブランドである。36Kr.comの記事によると、dekoの創業者である現CEO梁博思とCFO王子厳は2017年に北京得控教育科技有限公司を立ち上げたのだが、当時航空関連の教育サービスは教育市場でもまだ人気のないカテゴリだった。市場に出回っているものと言えば航空関連の知識だけを学ぶ教材などが多くなかなかリピートにつながらないビジネスと言われていた。人気はないが、それを穴場の市場と捉えた二人はdekoの設立を決める。

国家の政策による職業教育の強化や”双減”政策による普通教育市場の冷え込みを背景にdekoは大きく成長することになる。36Kr.comの記事によると、2019年のオフライン店舗の売上は1店舗で約143万元(2,717万円)、2020年には162万元(3,078万円)になった。現在6店舗(3店舗フランチャイズ、3店舗直営)の月間売上の合計は2,160万元(4.1億円)、純利益は108万元(2,052万円)にまで成長している。2022年には48店舗まで店舗数を拡大させ、売上は1.7億元(32.3億円)に達すると予測されている。またsohu.comの記事によるとdekoは2022年〜2027年の5カ年計画を策定し、フランチャイズ数の増加数を毎年50%増のペースで増やし、2027年には500店舗まで拡大する計画だ。

★dekoオフィシャルサイト

※dekoオフィシャルサイトより抜粋

企業情報

企業名:(中)北京得控教育科技有限公司

ブランド名:得控(deko)

設立:2016年12月

創設者:梁博思

資本金:3,000万元(5.7億円)

従業員数:非公開

ビジネスモデル

dekoのビジネスは①体験②教育③小売販売をかけ合わせたモデルで成長を続けている。5歳~12歳までがメインターゲットとなり、将来のパイロットや航空関連人材に必要な技術や知識の基礎を習得させるのが狙いだ。特に①体験を非常に重要視しており、オフライン体験店舗では航空関連の中でもパイロットの操縦技術を体験できる施設が人気を呼んでいる。パイロットの操縦技術が体験できるフライトシミュレーターについても、Airbus320やBoeing737など実際の機体のものを採用しており、本格的な操作技術を体験・学習することができる。②教育については中国航空運動協会(ASFC)や、中国航空器材擁有者及駕駛員協会(ACPA)などと提携し教育カリキュラムの製作を行っている。特にASFCからライセンスを受けたSTEAM教育カリキュラムはdekoがブランド競争力を持つ基盤となっている。STEAM教育とはScience(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の頭文字をかけ合わせたもので、文系・理系の枠にとらわれず横断的に学ぶことにより、課題の発見・解決や社会的な価値の創造に結びつけていく資質・能力の育成を目的とした教育方法である。
dekoは各年齢に応じた細かな教育カリキュラムを容易しており、航空分野で必要な5カテゴリの知識を習得することができる。カリキュラムを見てみると、それは単なる子供の習い事ではなく、本格的に航空関連人材を育成するための内容となっている。③小売販売についてはパイロットの制服や文具などの航空関連商品を販売している。

★体験店舗の一例

※dekoオフィシャルサイトより抜粋

オフラインの体験店舗の運営モデルは①直営と②フライチャイズに分けられる。36Kr.comの記事によると北京、上海、深セン、などのいわゆる”一級都市”では①直営モデルを採用し、2~3級都市はフランチャイズモデルを採用している。一級都市は数も限られているし、ブランド側としては重要拠点となるため直営モデルのほうがしっかりとブランディングすることができる。中国は一級都市以外がほとんどを占めるので、運営コストや店舗展開のスピードを考えるとフランチャイズモデルを採用するのが合理的といえる。

サービス詳細

①機体の操作技術体験
・1人:288元(5,472円)~
・2人以上複数人:488元(9,272円)~
実機と同じフライトシミュレーターを採用し、フライトシミュレーターの教員資格をもったスタッフが機体の操作について指導する。

★フライトシミュレーターを使った体験

※dekoオフィシャルサイトより抜粋

②航空関連知識の学習カリキュラム
5つのカテゴリを総合的に学ぶ本格カリキュラム。
各年齢に応じたカリキュラムが用意されている。各カリキュラムの具体的な金額は直接問い合わせる必要があるようだが、Wechatのオフィシャルアカウントを見るとdekoは会員制を採用しており、会員期間ごとに価格が異なるようだ。
6ヶ月コース:6,000元(11.4万円)
1年コース:10,000元(19万円)
2年コース:20,000元(38万円)

ビジネスモデル

まとめ

小さな頃から習い事をするのは中国も日本も変わらない。しかし、ここまである分野に特化した人材を育成するようなものは日本ではあまり見たことがない。中国ではスポーツ選手によく見られるが、幼い頃から国家がオリンピック選手を育成するために後押しをしている。dekoは民間企業であるが、幼いころからある分野の人材を育成する点がいかにも中国スタイルだなと感じさせてくれる企業だ。

参考資料

※得控(deko)オフィシャルサイト
http://flight.dekochina.com/
※专访得控教育合伙人赵凯:敢热爱,去飞行 ,助力学生实现多元化发展 
https://www.sohu.com/a/535681141_121198369
※瞄准5至12岁青少年群体,航空素质教育平台「得控」推出航空航天教育娱乐解决方案
https://36kr.com/p/1725603177217286
※国务院关于印发国家职业教育改革实施方案的通知
http://www.moe.gov.cn/jyb_xxgk/moe_1777/moe_1778/201904/t20190404_376701.html
※中共中央办公厅 国务院办公厅印发《关于进一步减轻义务教育阶段学生作业负担和校外培训负担的意见》
http://www.moe.gov.cn/jyb_xxgk/moe_1777/moe_1778/202107/t20210724_546576.html

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。