ベーカリー市場で頭角を現す「前店後廠」モデルのベーカリーショップ

背景市場

EC店舗システム大手の有賛(Youzan)と乳製品メーカーの維益(RICH’S)が共同で発表した、
2021年烘焙行业发展趋势报告(日訳:2021年ベーカリー業界発展動向レポート)》によると、
中国のベーカリー市場は年々成長を続けている。市場規模を見ると、以下のように推移している。
2018年:2,089億元(3兆5,513億円)
2019年:2,290億元(3兆8,930億円)
2020年:2,358億元(4兆86億円)
2021年(予測):2,657億元(4兆5,186億円)

本レポートで定義されてるベーカリー製品のカテゴリは大きく4つに分けられ、
2020年の各カテゴリの市場比率は以下のようになっている。
①ケーキ:41%
②ペストリー:40%
③パン:18%
④その他デザート:1%

また、販売チャネル別の比率は
①オンライン:11%
②コンビニ:4%
③ベーカリーショップ:52%
④スーパー:31%
⑤その他:2% となっており、ベーカリーショップがメインの販売チャネルとなっていることが分かる。

中国のベーカリー文化は80年代に香港から大陸に持ち込まれ、その歴史はまだ30年ほどと短く今後大きく成長する市場と見られている。

爸爸糖(DADDY SWEETY)とは?

ベーカリー製品のメイン販売チャネルとなっている「ベーカリーショップ」の中でも、急成長している企業がある。江蘇爸爸糖餐飲管理有限公司が運営するベーカリーショップ[爸爸糖(DADDY SWEETY)※以下DADDY SWEETY]は2016年に第一号店をオープンさせてから、わずか5年で中国30以上の省及び直轄市に合計300店舗以上を展開するまでに急成長している。DADDY SWEETYの創設者である曹国亮は、飲食業界で次々と起業しており、いずれも成功に導いているやり手の起業家だ。1つ目の事業はミルクティー店、2つ目の事業がDADDY SWEETY、そして3つ目の事業は郭八両(GUO BA LIANG)という中華系のファーストフード店を展開している。
ニュースサイト今日頭条の情報配信アカウント[食城食事]の記事によると、DADDY SWEETYは現在年間約6億元(102億円)の売上を記録している。今後3~5年以内に売上規模を30億元(510億円)まで拡大すると強気の姿勢を見せている。
★DADDY SWEETYオフシャルサイト

※DADDY SWEETYオフィシャルサイトより抜粋

企業情報

企業名:(中)江蘇爸爸糖餐飲管理有限公司

ブランド名:爸爸糖(DADDY SWEETY)

設立:2017年6月

創設者:曹国亮

資本金:1,333万元(2億2,661万円)

従業員数:非公開

爸爸糖(DADDY SWEETY)の人気の秘密と販売モデル

DADDY SWEETYは中国の消費者から高い人気を獲得している。中国の口コミサイト大手[大衆点評]でもパンカテゴリで上位にランクインしている。中国にも数多くのベーカリーショップがあるなか、なぜDADDY SWEETYは急成長を遂げ、消費者からの支持を獲得できたのか。そこには数多くの飲食事業を手掛けてきた曹国亮の細かな戦略があった。ビジネスモデルとしては一般的なベーカリー製品の小売販売であるが、その販売方法や商品選定において他社との差別化を実現している。まず販売方法について、DADDY SWEETYの販売モデルは[前店後廠(ぜんてんこうしょう)]と呼ばれている。店舗の裏に製造工場をかまえることで、消費者にできたての新鮮な商品を届けることができる販売モデルを採用している。単にできたてを提供するだけでなく、原材料にもこだわりを持っている。DADDY SWEETYの主力商品はトースト。2019年には日本製粉とパートナーシップを締結し、トースト専用の小麦粉などを共同開発している。新鮮さは賞味期限にも現れており、DADDY SWEETYの賞味期限は常温で3日しか保存できない。
★DADDY SWEETYの店舗画像


※DADDY SWEETYオフィシャル微博より抜粋

中国の消費者は原材料などに非常に敏感である。食品に限らずスキンケア商品などでは商品の裏面ラベルの成分表記を確認し、体に悪影響のある成分がないかを細かくチェックする。また、SNSでは化粧品の専門家による成分分析を行うアカウントなどがかなり人気を集めている。
1.消費者に製造現場を見せる[前店後廠(ぜんてんこうしょう)]モデル
2.厳選された材料
新鮮+安全=安心できる商品の証として消費者からの信頼を獲得している。また、主力商品をトーストに絞っている点でも中国らしい一面が垣間見える、日本でも高級食パンが人気を博しているが、中国ではそれ以上に「スター商品(爆発的に売れる商品)」を生み出すことが事業を大きくするためには欠かせない要素となっている。DADDY SWEETYも「スター商品」の育成に集中投資し、消費者に「トーストといえばDADDY SWEETY」と想起させるような状況を作り出している。もちろん1商品だけをスター商品にするのでは、ライフサイクルとしていつかは衰退の時期が来る。そこでDADDY SWEETYはトーストを軸に味のバリエーションを増やすことで、商品カテゴリの深堀りを行っている。しかしただ単に味のバリエーションを増やすだけでなく、各店売れ筋の商品を約30SKUに絞っており、丁寧に商品を作る仕組みにしている。

トーストの製造には温度管理、時間管理、発酵の度合いなど、厳しい製造工程の管理が必要となる。DADDY SWEETYは人材育成にも力をいれており、独自の研修プログラムを作り約3ヶ月~半年をかけてパン職人を育成している。

DADDY SWEETYの収入源

DADDY SWEETYの収入源は大きく2つ。
1.トーストを主軸としたベーカリー製品の販売。
商品の平均単価は約30元(510円)ほど。価格帯として高い部類に入る。

2.フランチャイズ加盟店からの加盟費用
加盟費用などの条件について、筆者は運営会社に直接問い合わせた。運営会社から条件に関する資料を入手したのでその一部を紹介する。
【フランチャイズ加盟費用】
1.加盟意向金[保証金]:5万元(85万円)
2.加盟費用:20万元(340万円)
3.設備費用:20万元(340万円)
4.ライセンス費:10万元(170万円)
5.ブランド管理費(年):2.4万元(40万8,000円)
6.システム使用費(年):0.3万元(51,000円)
7.内装工事費:15万元(255万円)
8.店舗家賃:1~5万元(17~85万円)
初期費用として合計約68~72万元(1,156~1,224万円)が発生する。

また、フランチャイズオーナーの収益サンプルも下記に示す。

※DADDY SWEETYのフランチャイズ加盟資料をもとに筆者が作成

サービス詳細

【商品ラインナップ】
各店約30SKUを展開しているが、その中でも売れ筋商品を紹介する。
一般的なトーストよりも高価格帯の商品となっている。

1.オリジナルトースト
価格:34元(578円)

2.チーズトースト
価格:37元(629円)

3.チョコレートトースト
価格:24元(408円)

ビジネスモデル

まとめ

中国大陸にベーカリー文化が浸透し始めてわずか30年足らず。市場はまだまだ伸びる兆しがある。これまでのベーカリーショップといえば、多くのSKUを揃え売上を作るような店舗が多く見られたが、近年DADDY SWEETYのような【単一カテゴリ】で勝負するような企業が増えて来ている。これは食品に限ったことではなく、一般消費財の分野では多く見られる傾向だ。市場がどんどん細分化されるなかで、商品の訴求点を明確にし、他社商品との違いを消費者に伝えられるブランドが今の中国で勝つことができる。

参考記事

※1199IT:有赞&维益  2021年烘焙行业发展趋势报告(附下载)
http://www.199it.com/archives/1265498.html
※2CHUANGYEZONGGUOREN.COM:对标洋快餐,郭八两研发“万能烤箱”,还原海南鸡饭的百年美味!
https://www.chuangyezhongguoren.com/cygs/947.html?utm_source=pocket_mylist
※3DADDY SWEETYオフィシャルサイト
http://www.daddysweety.com/
※4[今日头条_餐飲老板内参]凭一块吐司融资上亿元,开店300+,爸爸糖成功的秘诀是什么?
https://www.toutiao.com/a6974588731747549709/?channel=&source=search_tab
※5[今日头条_快鲤鱼]300家店、年营收数亿元,卖吐司这么好赚?
https://www.toutiao.com/a6999939638966354444/?channel=&source=search_tab

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。