CO2を封じ込める、低炭素社会の実現に貢献するコンクリート製造技術

背景市場

億欧(EqualOcean)が発表したレポート「2021年度中国一級市場碳中和投資研究報告(日訳:2021年度中国一級市場カーボンニュートラル投資研究報告)」によると、中国のカーボンニュートラル関連市場規模は
2020年時点で約251兆元(4,518兆円)となり、2025年には約311兆元(5,598兆円)にまで成長が見込まれている巨大市場である。

清潔捕獲(CLEAN CO2)とは?

清潔捕獲(以下CLEAN CO2)は清捕零碳(北京)科技有限公司が提供する”CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)”を活用したコンクリート製造技術の研究開発を行うブランドだ。CCUSとは二酸化炭素回収・有効利用・貯留の技術を指す言葉で、現在世界中で議論されている「カーボンニュートラル」を達成する上で非常に重要な技術として期待されている。
CLEAN CO2のCCUSの技術は”浙江大学能源清潔利用国家実験室”を起源とし、CLEAN CO2の主要メンバーはインターネット、エネルギー、セメントなどの業界経験者で構成されている。CLEAN CO2はCO2を排出する企業からCO2を回収し、コンクリート内にCO2を閉じ込める製造技術の研究開発を進めている。創業者の趙超が”コンクリート”に注目した理由にはコンクリートに関わる製造過程で発生するCO2の排出量の多さが挙げられる。趙超が2021年に中国のテレビ局の鳳凰衛視の番組に出演した際に語った内容によると、”セメント”がコンクリート製造のメイン原料となり、セメントの製造過程で発生するCO2は全世界のCO2排出量の7%を占めるとされ、CO2の大きな排出源とみなされている。また中国は国の急成長に伴い、多くのインフラ建設が行われている。それに伴いセメントの使用量も増加しており、中国のセメント使用量は全世界の使用量の60%以上を占めるまでになる。セメントを原料とするコンクリートの製造過程で、排出企業から回収したCO2をコンクリートの中に取り込むことでCO2排出量を減らすのが、CLEAN CO2のコア技術となっている。
2022年4月には国家標準基準《建筑节能与可再生能源利用通用规范(日訳:建築上の省エネルギー及び再生可能エネルギー利用に関する共通規範)》が施行されることもあり、建築材料から発生する二酸化炭素をいかに効率的に減少させるかが目下の重要議題となっている。このような時勢の流れなどもあり、CLEAN CO2の技術も注目を集めている。2021年5月に立ち上がった企業ということもあり、現在売上などは公開されていないが直近ではエンジェルラウンドで数百万元(数千万円)の資金調達に成功しており市場からの注目度も高い。

★CLEAN CO2オフィシャルサイト

※CLEAN CO2オフィシャルサイトより抜粋

企業情報

企業名:(中)清捕零碳(北京)科技有限公司

ブランド名:清潔捕獲(CLEAN CO2)

設立:2021年5月

創設者:趙超

資本金:555万元(9,990万円)

従業員数:非公開

CLEAN CO2のビジネスモデルと技術

CLEAN CO2は自らがコンクリート製造を行うわけではなく、様々な企業にその技術をソリューションとして提供することでマネタイズすることを目指している。主に取引先や提携企業は国有企業が多いようだ、オフィシャルサイトを見ると中国建材集団や国家能源集団(CHN ENERGY)の名前が掲載されている。

★CLEAN CO2のビジネスイメージ

※CLEAN CO2オフィシャルサイトより抜粋

CLEAN CO2の技術についてはオフィシャルサイトに詳細が記載されている。従来のコンクリートはセメントがメインの原料となり製造される、しかしこの場合CO2の排出量はおよそ200~400Kg/㎥となる。それに対して、CLEAN CO2の技術は、セメント工場が製造するセメントと火力発電所からでる粉末上の石炭灰などの産業廃棄物、そして化学製剤を使用することでこれまでのセメントメインの工法からセメントの使用率を減らす新たなコンクリート製造処方を開発した。これにより従来の方法に比べ15%ほどがセメントの代替原料として使用されている。また、代替原料についても鋼鉄スラグ、電石スラグ、石炭灰などの産業廃棄物になりえる物質を利用することで環境保護につながる。この製造技術を用いることで、従来のコンクリート製造と比べ全ライフサイクルにおける炭素排出量を80%もカットできる。

回収したCO2はコンクリート製造おける「養生」という過程でコンクリートに取り込まれる。コンクリートはセメントの水和反応により強度が生まれる。よってコンクリートの品質を確保するために、コンクリートの打ち込み後に十分な水分を与え、コンクリートの硬化と強度を生み出す過程を養生という。
CLEAN CO2の技術を活用すると、回収したCO2の95%以上を利用することができるようだ。この技術を活用することによる製造コストの増加もそれほど大きくない。20万㎡のプレキャストコンクリート工場を例に取ると、二酸化炭素硬化養生設備の改造コストは全生産ライン建設コストの約5%にとどまり、設備投資の面でも比較的取り入れやすい技術となっている。また製造されたコンクリートのコストは基本的に約200元(3,600円)/t に抑えることができ、従来の工法で製造されるコンクリートと製造コスト的には差がない、環境対策のための余分なコストがかからない点も製造企業としては大きなメリットになるだろう。

★CLEAN CO2のコンクリート製造技術

※CLEAN CO2オフィシャルサイトより抜粋

ビジネスモデル

まとめ

CLEAN CO2の面白いところは、CO2の排出を抑えるのではなくCO2は排出される前提でそれをいかに再利用するかという点である。しかもCO2の大きな排出源であるセメントに関連するコンクリート製造でそのCO2を処理するという点において本当の意味でエコだと言えるだろう。「自分たちで出したCO2は自分たちで処理する」、コンクリート業界だけでなく今後様々な分野でこのような技術が生まれ、普及することでぜひともカーボンニュートラルの一刻も早い実現を期待したい。

参考記事

※2021年度中国一级市场碳中和投资研究报告
https://www.iyiou.com/research/20211208935
※融资丨「清洁捕获」完成数百万天使轮融资,险峰资本独家投资
https://www.cyzone.cn/article/668686.html
※CLEAN CO2オフィシャルサイト
http://www.cleanco2.cn/Index
※清洁捕获创始人赵超:捕集二氧化碳制造低碳混凝土
https://news.ifeng.com/c/89m8VwlhHLX
※SDGs创业挑战赛 | 论坛回顾:以人为中心,打造智慧社区零碳体验体系
http://finance.sina.com.cn/esg/2021-07-07/doc-ikqcfnca5470425.shtml
※观众看这里!大讲堂现场录制机会又来了!
https://new.qq.com/rain/a/20210916A08O2500
※早期项目丨完成数百万天使轮融资,「清洁捕获」想把二氧化碳封存在混凝土里
https://www.36kr.com/p/1570804988923782

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。