背景市場
China Insights Consultancyの統計によると、中国のUVカットアパレル業界の市場規模は下記のように推移している。
2021年:611億元(1兆998億円)
2022年(予測):675億元(1兆2,150億円)
2023年(予測):742億元(1兆3,356億円)
中国のUVカット市場は非常に大きく、今後も成長が期待されている。
★中国UVカットアパレル業界の市場規模
※Beneunder目論見書より抜粋
蕉下(Beneunder)とは?
蕉下(以下Beneunder)は深圳減字科技有限公司が運営するUVカットに特化したアパレルブランドだ。メインの創業者は馬龍と林沢の2人。今日頭条の配信アカウント[来咖智庫]の記事によると、創業者の馬龍は2011年大学を卒業後、香港へ旅行にでかけた。そこで現地の女性がニッチな機能性ウェアなどを身に着けジョギングやサイクリングを楽しむ姿を目にした。当時中国大陸でもスポーツブランドの競争はすでに白熱化していたが、どのブランドも競技における専門性に特化しており、カジュアルファッションに対するニーズへの関心度は低かった。当時起業を夢見ていた馬龍は林沢を誘い、このカジュアルファッション×スポーツウェアの領域で勝負することを決めた。2013年中国の杭州でブランドBeneunderを立ち上げ、そこから企業は大きく成長し、2022年4月香港証券取引所にてIPOのための目論見書を提出した。香港への旅行から約10年、同企業は上場に向けて大きく動きだしている。
企業情報
企業名:(中)深圳減字科技有限公司
ブランド名:蕉下(Beneunder)
設立:2014年4月
創設者:馬龍
資本金:76万元(1,368万円)
従業員数:非公開
Beneunderのビジネスモデル
BeneunderはUVカットに特化したカジュアルスポーツウェアのブランドであるが、企業を大きく成長させたのは”日傘”だった。他社との差別化を鮮明にしたのがその”価格”と”機能性”だ。例えば中国の有名な傘ブランド「天堂」の日傘はせいぜい40~60元(720~1,080円)だが、Beneunderの日傘はそれを大きく上回る約200元(3,600円)という日傘の中では高価格帯の値段で販売した。もちろん、消費者としては同じ品質の日傘なら価格が安いものを選ぶかもしれない。しかしBeneunderは”なぜ価格が高いのか”という消費者の問いに明確な根拠を提示した。日傘に限らず、中国ではこの「根拠」が非常に重要になる。その根拠が消費者を納得させるものであれば高価格帯の商品でもよく売れる。例えばスキンケア商品であれば「成分とその効果効能」を訴求する必要がある。またシャンプーであれば、100元(1,800円)を越える商品で売れ行きが良いものは総じて”抜け毛・育毛系”のシャンプーである。中国の国家薬品監督管理局(National Medical Products Administration)が特殊化粧品というカテゴリにおける衛生許可を発行することで、企業は「抜け毛防止」を訴求することができる。この認証が消費者を納得させる根拠として利用され、100元(1,800円)を越える商品であっても飛ぶように売れる。
Beneunderの日傘も日除けの根拠として、日傘の表面に4層のLRC塗装を施すことで日光を遮断することができ、UPF50+のUVカット技術で紫外線を99%カットすることをUSPとして消費者にアピールしている。
このような根拠が200元という日傘のカテゴリでは高価格帯に属する商品でも、消費者の購買意欲を刺激するドラバーになっている。
★L.R.C塗装の訴求表現
※Beneunder Tmall旗艦店より抜粋
また、BeneunderはECをメインの販路とし、D2Cでの販売に力を入れている。Beneunderが急成長するきっかけを作ったマーケティング手法は主に2つ。
①ライブコマース
②KOL(インフルエンサー)マーケティング
①ライブコマース
中国のEC販売で爆発的に売上を伸ばすのに最も有効なのがライブコマースである。今日頭条の配信アカウント[鞭牛士]の記事によると、Beneunderは中国のトップライバーである李佳琦(Austin)を1ヶ月に3度も採用しライブコマースによる売上は約2,880万元(5億1,840万円)という大きな実績を作った。トップライバーにライブコマースを依頼することは決して簡単ではない。トップライバーには日々多くのブランドから数々の商品の依頼が来る。価格、SNS上での評判、商品のUSPなど、ライバーが良いと認めたもののみを取り上げる。SNS上での評判づくりのために欠かせないのがKOLマーケティングだ。
②KOL(インフルエンサー)マーケティング
中国ではインフルエンサーのことをKOLと呼ぶ。KOLはKey Opinion Leaderの略称である。Beneunderの目論見書を見ると、2021年Beneunderは約600人のKOL投稿を行いそのうち約200人のKOLは100万を越えるフォロワーがおり合計で45億PVを稼いだ計算になる。最近の中国のWEBマーケティングの傾向としてKOLの価格が高騰していることが挙げられる。100万以上のフォロワーを抱えるKOLの単価は非常に高い。そのようなKOLを約200人も揃えるとなると大きな広告投資が必要になる。このようなやり方は急成長した中国ローカル企業がよくやる手法である。中国企業は資金調達などで得た莫大な資金力を背景に、”野性的な感覚”でマーケティングを行う。質で勝負するのではなくとにかく”量”でSNSなどをジャックするのが得意である。中国市場に進出している日系企業は資金も限定的であり、中国企業のような真似はとてもじゃないができない。限定的な資金力で戦う日系企業ができることと言えば、KOL一人ひとりの”質”を見極め、できるかぎりKOL一人当たりの費用対効果を上げることが精一杯というのが印象だ。Beneunderの2021年の広告費は約5.8億元(104億円)となり広告比率は24%となっている。
[1]高価格でも売れる”根拠”を消費者に提示する。
[2]ライブコマースで爆発的な売上を作る。
[3]ライブコマースなどに取り上げてもらえるようなSNSでの環境作り。
このような要因が重なりBeneunderは大きな成長を遂げることができたといえよう。
2019年日傘の売上は約3.3億元(59億円)となり、全商品の売上の86.9%を占めるスター商品に成長した。
日傘のヒットをきっかけにその他アパレル商品の売上も順調に成長を続け、2021年の全商品の合計売上は約24億元(432億円)まで業績を伸ばした。2019年の全商品の売上が約3.8億元(68億円)なので、約6倍成長を遂げた。
また、Beneunderの注目すべき点は研究開発費用の低さである、2021年の研究開発費は約7,163万元(12億8,934円)と売上のわずか3%ほどとなっている。開発費を低く抑えることでコストカットにつながる。そこから生まれた利益を広告投資に回すことも可能である。
サービス詳細
日傘:209元(3,762円)
※Beneunder Tmall旗艦店より抜粋
UVカットウェア:209元(3,762円)
※Beneunder Tmall旗艦店より抜粋
UVカットマスク:79元(1,422円)
※Beneunder Tmall旗艦店より抜粋
ビジネスモデル
まとめ
日傘のようなありふれた商品であっても、消費者を納得させる”根拠”があれば高価格帯でも売れる。その根拠となる技術やUSPが、SNSで拡散する際のコンテンツの核となったり、ライブコマースでライバーが好んで取り上げてくれるきっかけになる。中国市場で消費者に受け入れられるために、いかに明確な訴求点やそれを支える技術のアピールが必要かがBeneunderの成功事例から読み取れる。
参考記事
※生产小黑伞的蕉下要赴港IPO ,投资者担心重蹈完美日记覆辙?
https://cj.sina.com.cn/articles/view/7537330838/1c1428a9600100zz7p
※主打防晒产品的蕉下赴港上市:去年年入24亿,营销开支暴增4倍占全年收入四分之一
https://www.toutiao.com/article/7085174933386920479/?channel=&source=search_tab
※蕉下IPO,能躲过新消费的劫吗?
https://www.toutiao.com/article/7087771277326746119/?channel=&source=search_tab
※蕉下,搭上新消费末班车?
https://www.toutiao.com/article/7087892719581954572/?channel=&source=search_tab
※Beneunder Tmall旗艦店
https://bananaumbrella.tmall.com/?spm=a1z10.1-b-s.1997427721.d4918089.3d0e18bdcGiLcn
※Beneunder 目論見書
https://www1.hkexnews.hk/app/sehk/2022/104347/documents/sehk22040801368_c.pdf
筆者
Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。