ドリンク1杯1.7円!?飲食店への集客を促進するクーポンサービス

背景市場

中国における飲食産業が活気を帯びている。新型コロナウイルスの感染拡大からいち早く回復した中国では一部の地域を除き、日本のような外食における規制もほぼなく、コロナ前と変わらない生活を取り戻している。国家統計局が発表したデータによると、2021年1月から6月の飲食産業の収入合計は2兆1,712億元(36兆9,104億円)、去年の同時期と比較すると48.6%の成長となっている。飲食産業への投資も盛んに行われており、特に中華ファーストフード系への投資が盛んだ。中国のニュースメディアを見るとティードリンク、火鍋、麺等の飲食企業への投資情報が毎日のように報道されている。

幇幇搶(バン・バン・チャン)とは?

飲食産業、特に外食産業にとって“集客”は売上獲得の重要な要素となる。2021年3月にローンチした幇幇搶(バン・バン・チャン)(以下バン・バン・チャン)は、飲食店への集客を強力に後押しする格安クーポンサービスを展開している。バン・バン・チャンの創業者の一人である王哲は以前大手フードデリバリーサービス美団(Meituan)の上海の責任者を務めた人物で、その後もモバイルバッテリーシェアサービス街電(Jiedian)を創業した起業家だ。
バン・バン・チャンは2021年3月にWechatのミニプログラムを活用し、サービスを開始した。WechatのミニプログラムとはSNSアプリWechatのアプリ内アプリのシステムを指す。バン・バン・チャンは中国の深センを拠点にサービスを展開している。深センは“アジアのシリコンバレー”と呼ばれている都市で、大手IT企業のTencentの本社があるなど、ITを活用したサービスが生まれやすい土壌が築かれている。キュレーションメディア今日頭条のアカウント[環球Tech]の記事によると、2021年3月から6月のわずか3ヶ月で深センの飲食店約1,000店舗を網羅し、ユーザー数を10万人まで伸ばしサービスを急拡大させている。また36Krの記事によると一日の注文件数は数千件とされている。合同創業者の汪子俊によると、2021年内に深セン地域での一日の注文件数を10万件近くまで増加させ、中国全土へのサービス拡大を目標としている。サービスをローンチして数ヶ月ということもあり、現時点では売上額などは不明。

★バン・バン・チャンのプロモーションの様子

※36Kr.comの記事より抜粋

企業情報

企業名:(中)深圳尋找母星網絡科技有限公司
    (英)Shenzhen Looking For Parent Star Network Technology Co., Ltd.

ブランド名:幇幇搶

設立:2018年6月

創設者:王哲

資本金:100万元(1,700万円)

従業員数:50人以下

収益モデル

現状バン・バン・チャンはクーポンを発行する企業からの売上マージンで成り立っている。飲食店は1注文金額の約10%のマージンをバン・バン・チャンへ支払う必要がある。通常のクーポンサイトであれば、サイト上位に露出させるためには、広告枠などを購入する必要があるがバン・バン・チャンでは広告メニューなどはない。位置情報サービス(LBS)を使用しユーザーへのクーポン露出を行っている。

集客の仕組み

バン・バン・チャンの集客モデルの特徴は「クーポンを獲得したい人を誰かが助ける」という点にある。単なる集客効果だけでなく、情報拡散の効果も同時に得ることが可能となる。詳細な集客の仕組みを下記に記載する。

1.Wechatのミニプログラム【幇幇搶】から対象商品を選び決済を行う。

※バン・バン・チャン Wechatミニプログラムより抜粋

2.支払い完了後、注文した商品の情報をシェア。基本的には2人の友人にシェアする。これがバン・バン・チャンのサービスの特徴的な仕掛けとなっており、ユーザー単独の情報接触だけでなく、そのユーザーから派生して情報をリーチさせる仕組みとなっている。

※バン・バン・チャン Wechatミニプログラムより抜粋

3.シェアされた友人がリンクをクリック。シェアされた側も友達からのシェアであり、リンクを開くことくらいならそれほど面倒でもないので、気軽にリンク先にアクセスできる。

※バン・バン・チャン Wechatミニプログラムより抜粋

4.クーポンのロックが解除され、QRコードが発行される。

※バン・バン・チャン Wechatミニプログラムより抜粋

5.店頭でQRコードを見せることでクーポン価格で商品を購入することができる。

36Krの記事によると、ユーザー1人あたり1.7/週の集客効果があり、7日間以内のリピート率は70%にものぼるとされている。バン・バン・チャン側としては、注文が増えれば売上も上がり、飲食店側としては効果予測が難しく費用も高い通常の広告よりも集客効果が見込めるとあり、WinWinの関係になっている。また、クーポンを掲載する際、必ず格安の目玉商品1~2品掲載する費用がある。ドリンクなどは0.1元(1.7円)で購入できる場合があり、ユーザーとしても嬉しい内容となっている。掲載されている商品や価格帯を見ると、クーポンの掲載主はファーストフード系の飲食店が圧倒的に多い。店舗側としては、格安商品をフックにその他商品を注文してもらうことができれば、集客と売上増加の効果も期待できる。

ビジネスモデル

まとめ

中国は日本と比べ「シェア」することに対して抵抗が少ない。例えば、中国の大学生は基本的に大学の寮に住むが、一つの部屋に2段ベッドが置かれ数人で共同生活を送る。収入がそれほど多くない新社会人も誰かとルームシェアをする。SNSでの情報共有にも積極的で自分が良いと思ったモノやコトは積極的に友人へシェアする。またビジネスでもシェアサイクル、シェアモバイルバッテリーなど「シェア」をコンセプトに大きな市場を作りだしたのも中国である。今後も「シェア」をコンセプトにした新たなサービスが生まれることを期待したい。

参考記事

※1:2021年上半年全国餐饮收入同比增长48.6%
https://www.toutiao.com/a6985096799287673381/?channel=&source=search_tab
※2:帮帮抢获千万级A+轮融资,布局“小店经济”带动消费升级
https://www.toutiao.com/a6987685552636068366/?channel=&source=search_tab
※3:1毛钱喝奶茶,9.9就能吃饱饭!餐饮界出了个拼多多
https://www.toutiao.com/a6989115521841414687/?channel=&source=search_tab

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。