背景市場
iResearchが発表した「中国母嬰行業研究報告(中国ママ&ベビー業界レポート)」によると、中国のママ&ベビー関連市場は年々成長を遂げている。市場規模の推移を見ると、
2020年:3兆1,231億元(62兆4,620億円)
2021年:3兆4,591億元(69兆1,820億円)
2022年(予測):3兆7,552億元(75兆1,040億円)
2025年(予測):4兆6,797億元(93兆5,940億円)
と2025年には100兆円規模に迫る勢いだ。
★中国ママ&ベビー業界規模
※iResearch 「中国母嬰行業研究報告(中国ママ&ベビー業界レポート)」より抜粋
Babycare(白貝殻)とは?
Babycareとは上海夕爾実業有限公司が運営するママ&ベビー用品ブランドである。Babycareの創業者である李闊はデザイナー出身の起業家で、大学では工業デザインを選考していた。大学卒業後、デザイン会社に就職し国内外様々なブランドに関わった経験から自分でもブランドを作ろうと考えた。李闊がママ&ベビー市場での起業を考えたのはそのカテゴリに思い入れなどがあるわけではなく、”精査した結果残ったのがたまたまその市場”だったという理由からだ。まず初めに検討したのは、コスメ・ビューティー市場。しかし、コスメビューティー系ブランドは短期間で大きくすることが難しく、深いブランドフィロソフィーや先進的な技術力が必要になる。次に目を向けたのはカー用品とママ&ベビー市場だった。カー用品が選択から外れた理由は単純に興味がなかったから。そして残ったのがママ&ベビー市場だった。そして2014年にBabycareを立ち上げた。
デザイナー出身者が立ち上げたブランドだけあって、デザインを非常に重視している。Babycareのブランド理念は「为爱重新设计(愛のためにデザインを再構築する)」。
36Kr.comの記事によると2014年の設立から6年後には年間GMV(流通取引総額)が50億元(1,000億円)を突破した。現在では全販売チャネルをあわせたユーザー数は4,500万人を超え、会員数は約1,000万人。直近の実績を見ると、2022年Tmall618セールではBabycare旗艦店がママ&ベビーカテゴリでNO1を獲得した。
★Babycareオフィシャルサイト
※Babycareオフィシャルサイトより抜粋
企業情報
企業名:(中)上海夕爾実業有限公司
設立:2014年7月
創設者:李闊
資本金:100万元(2,000万円)
従業員数:非公開
Babycare(白貝殻)のビジネスモデル
Babycareの収入源はECをメインとしたオンラインチャネルやオフラインの旗艦店での商品販売から得られる売上となる。ビジネスモデルとしてはメーカー側が消費者に対して直接商品を販売するD2Cモデルといえる。
Babycareが業界から注目される理由の一つに”ママ&ベビー業界に風穴を開けた”ということが挙げられる。特に紙おむつのカテゴリにおいてはこれまでパンパース、GOO.N、花王など海外ブランドが上位を独占していた。しかし2022年のTmall618セールではこれら海外ブランドを退け、Babycareがランキング1位を獲得した。中国のおむつ市場は海外ブランドなどがひしめき合う「高価格帯市場」、国内ブランドがシェアを争う「中・低価格市場」と大きくは2つに分けられる。Babycareは中・低価格市場ではなく海外ブランドと競い合う高価格帯市場を選択し見事海外ブランドの牙城を崩した。しかし2014年に設立されてからいきなりおむつ市場を狙ったわけではなく、そこに行き着くまでには綿密な戦略が組まれていた。
現在の中国で振興ブランドが勝つためのセオリーといえば「爆款(bao・kuan:スター商品)戦略」である。スター商品戦略とは、主にECを中心としたオンラインチャネルで取られる戦略であり下記のプロセスで実行される。
1.細分化された市場の中から
2.自分たちが勝てる市場を発掘し
3.1つの商品に対して投資を集中させる
4.その結果スター商品が誕生し、そこから大きな利益を獲得する
5.1つのスター商品の誕生の裏側で2つ目のスター商品を作る
6.1つ目のスター商品のおかげで、ブランド認知度が向上したりECサイト内でのオーガニックのトラフィックが増加する。よって2つ目のスター商品の育成に対する投資比率は1つ目より下がる。効率的にスター商品を生み出すことができるのだ。
また、スター商品に必要な要素として「産品力(日訳:商品力)」が挙げられる。中国の消費財分野では多くの場面で”産品力”という言葉がでてくる。筆者も現在は消費財メーカーで働いているが、中国のパートナー企業との打ち合わせや会議ではかなりの頻度でこの言葉が使用される。筆者もこの産品力の意味がいまいちはっきりしなかったのだが、中国人数人に聞いたところ全員同じ回答だった。産品力を構成する要素は大きく3つ。
1.権威と開発力
権威:学術的な裏付けの有無
ー学術論文などで証明されている理論を採用しているか?
ー有名な研究機関や大学などと協業しているか?
ー有名な学者などのお墨付きをもらっているか?
開発力:他社と差別化できる技術の有無
ー独自開発したテクノロジーを持っているか?
ー開発したテクノロジーは他社が模倣できないような特許を持っているか?
今は中国の製品開発スピードは何倍も早い、いい商品はすぐに他社に真似されてしまう。
他社との差別化を明確にしないと市場で継続的にシェアや売上を築いていくことは非常に難しい。
2.効果効能
どれだけ学術的な根拠や独自のテクノロジーがあったとしても、それを目に見える形で消費者に提示する必要がある。例えばスキンケア商品や美顔器などの商材だと、”ビフォー・アフター”を写真できっちり示す。ヘアケア商材であれば、ダメージを受けた毛髪が修復されていることを示す実験結果を見せる。消費者が納得するベネフィットを明確に提示しないと中国の消費者はなかなか商品を買わない。日本の場合、薬事などの規制が比較的厳しいため具体的なベネフィットを見える形で提示することは難しく、「なんとなく肌に良さそう」、「なんとなくすごい技術を持っていそう」「なんとなくオシャレな感じがする」くらいで消費者の購買意欲をある程度刺激することができるが中国はそうはいかない。
3.ブランド理念やフィロソフィー
【1】と【2】の要素が揃って初めてブランド理念やフィロソフィーが活きてくる。ブランド理念への共感などは言ってしまえば最後だ。もちろん長期的なブランド運営のためには理念やフィロソフィーはもちろん必要だが、消費者が商品を購入してくれないとどんな素晴らしい理念も意味をなさない。
Babycareはまずスター商品の育成候補を”抱っこ紐”に定めた。BabycareのTmall旗艦店のLPを見てみると、産品力に必要な要素がすべて揃っていることがわかる。
・アメリカの整形外科医の推薦(権威)
※Babycare Tmall旗艦店より抜粋
・人体工学に基づいた商品設計(開発力)
※Babycare Tmall旗艦店より抜粋
・子供の股関節への影響(効果効能)
※Babycare Tmall旗艦店より抜粋
・ブランド紹介(理念やフィロソフィー)
※Babycare Tmall旗艦店より抜粋
概ね産品力に必要な要素を網羅している。
産品力が揃ったBabycareの商品は、KOLを起用したSNSマーケティングなどで情報拡散・口コミ醸成などを行い顧客を獲得していった。また会員制度やオンラインコミュニティの運営などCRM施策を強化することで、リピート率向上などの成果も生み出していった。現在では会員数は1,000万人を突破している。抱っこ紐が1つ目のヒーロー商品となったことで、2つ目、3つ目のヒーロー商品は比較的生み出し易くなる。抱っこ紐の次は”おしりふき”をヒーロー商品として育て上げ、3つ目にいよいよ海外ブランドの牙城を崩す”おむつ”をヒーロー商品にするべく育成が始まる。すでに市場で絶大な支持を得ている海外ブランド勢を倒すことは容易ではない。マーケティング費用なども必要となる。ヒーロー商品を2つ3つ持っていると、そこから莫大な利益が生まれる。なぜならヒーロー商品に育った商品はECサイト上で無料トラフィクを集めやすい。一般的にプラットフォーム側のトラフィックに関するアルゴリズムは”販売個数の多い商品にトラフィックを流す”という仕組みになっている。またすでに絶大な知名度をもつ商品であれば多くの広告投資をしなくても、オーガニック検索などで顧客がどんどん集まる。ヒーロー商品はこのようなサイクルを生み出すので、必然的にもたらす利益も大きくなる。Babycareは抱っこ紐やおしりふきでヒーロー商品育成に成功し、そこから得られた利益を今度はおむつ市場に投入した。結果的に現在では海外ブランドを追い抜くような商品となり、高価格帯市場で勝てる中国国産ブランドの代表格となった。
サービス詳細
①抱っこ紐
価格:259元(5,180円)
★2022年9月24日 BabycareTmall旗艦店価格
※Babycare Tmall旗艦店より抜粋
②おしりふき
価格:299元(5,980円)※12パックセット
★2022年9月24日 BabycareTmall旗艦店価格
※Babycare Tmall旗艦店より抜粋
③おむつ※2パックセット
価格:418元(8,360円)
★2022年9月24日 BabycareTmall旗艦店価格
※Babycare Tmall旗艦店より抜粋
ビジネスモデル
まとめ
ママ&ベビー市場の商品はこれまで海外ブランドが非常に優勢であった。子供に与えるものは一番いいものでなければならない。いいもの=海外ブランド、粗悪品=中国ブランドと過去はそのような認識があった。しかし、近年では中国ブランドを好んで購入する”国潮ブーム”などが起こったように、中国国産ブランドが勢いを増している。日本ブランドも”Made in Japanだから売れる”などという過去の神話は忘れ去ったほうがいい。
参考記事
※Babycareオフィシャルサイト
https://www.babycare.com/quality.html
※Babycare:线上巨人,线下婴童
https://36kr.com/p/1848053558349188
※存在即不合理?新锐品牌Babycare的C2B2M模式很有“爱”
https://3c.ycwb.com/2022-04/01/content_40672661.htm
※Babycare:打造人以群分的商业模式,提供一站式解决方案
https://www.toutiao.com/article/7125327760649945630/?channel=&source=search_tab
※Babycare创始人李阔:今天我讲的有些事情不一定正确 | 厚雪公司36专访
https://36kr.com/p/1857122187073160
※尼尔森&宝宝树:2022母婴行业洞察报告
http://www.199it.com/archives/1483893.html
※李阔的代工迷途:Babycare成“母婴界南极人”?
https://www.toutiao.com/article/7145821226462659102/?&source=m_redirect
※Babycare首席品牌官Iris将出席亿邦用户增长峰会
https://www.ebrun.com/20220911/498680.shtml?eb=search_chan_pcol_content
※新消费品牌爆款案例 | 坐拥250万用户的Babycare营销秘籍 微播易
https://guba.eastmoney.com/news,qa,1083379788.html
※售前客服满意度超90%!京东11.11母婴品牌Babycare的增长模式解密
https://www.toutiao.com/article/7026666283097981471/?channel=&source=search_tab
筆者
Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。