汚水処理・ゴミの分別処理 農村の生活環境と生態系の修復・改善

背景市場

中国共産党中央弁公庁と国務院弁公庁は2021年12月に《農村人居環境整治提昇五年行動方案(2021-2025年)(日訳:農村生活環境修復向上5カ年行動方案)》を発表した。この5カ年行動方案では2025年までに農村における衛生トイレの普及率の向上やゴミの分別処理環境などを整備することで、生活汚水やゴミによる環境汚染を軽減することを目標としている。このような政府の政策により、農村における環境保護・整備産業に注目が集まり、その市場規模は2兆元(39兆円)規模とも言われている。

AIRBLUERとは?

湖南艾布魯環保科技股份有限公司(以下AIRBLUER)は農村の汚水・固体廃棄物・土壌汚染などの問題を解決する環境改善設備・技術を販売する企業である。2013年に鍾儒波・遊建軍・黄志紅の3名が立ち上げた会社であり、2022年4月に深セン証券取引所でのIPOを実現した。鍾儒波は人民解放軍の元軍人であり、軍隊をやめた後北京で不動産やアンティーク家具のビジネスを行っていた。姉の紹介で環境ビジネスについて知り、今後成長が見込まれる産業だと感じた。後にともに起業する遊建軍と黄志紅は国営の環境保護企業に勤めており、鍾儒波とは親しい仲にあった。そこで3人は相談の結果、起業し環境ビジネスへの参入を決めた。2016年頃から中国政府が農村の環境問題解決に関するプロジェクトや計画を発表し、環境ビジネスに注目が集まり始めた。国家の政策などの後押しもあり着実にビジネスを拡大させたAIRBLUERの2021年度の売上は約5億元(95億円)を記録し、農村専門の環境保護企業のリーディングカンパニーに成長した。

★AIRBLUERオフィシャルサイト

※AIRBLUERオフィシャルサイトより抜粋

企業情報

企業名:(中)湖南艾布魯環保科技股份有限公司

ブランド名:AIRBLUER

設立:2013年2月

創設者:鍾儒波・遊建軍・黄志紅

資本金:9,000万元(17.1億円)

従業員数:非公開

AIRBLUERのビジネスモデル

AIRBLUERの事業は①農村の環境整備プロジェクト②環境施設の運営③環境整備に関するコンサル④設備販売の4本の柱から成り立っている。
①農村の環境整備プロジェクト
農村の環境問題に対して処理施設の建設やシステムの構築をワンストップで提供する。AIRBLUERの事業の中で最も規模が大きいものとなる。環境整備の対象は(1)生活汚水とゴミの処理(2)生態環境整備(3)農業生産による環境汚染処理の3つに分類される。

(1)生活汚水とゴミの処理
農村環境汚染の原因の1つに居住民が出す生活汚水やゴミが挙げられる。生活汚水の処理に関しては、各農村の状況に応じて接触酸化法・MBR法・生物膜法・活性汚泥法などの汚水処理技術を用いて処理施設を作り上げる。ごみ処理に関しては非正規のゴミ捨て場の整備、埋立浸出液処理やゴミの運搬システム構築などのサービスを提供している。農村の各地には勝手に作られたゴミ捨て場がある、これが環境汚染の原因の1つとなっており、このゴミ捨て場に対して物理的に隔離したり、ゴミからでる汚染物が外に漏れ出さないような処置を行う。また埋立浸出液についてはMBR法+ナノろ過+逆浸透のプロセス並びにDTROプロセスによる処理を行う。ゴミの運搬システム構築においては、農村の人口密度、経済条件に応じて運搬拠点を作り、ゴミの回収輸送システムを築いていく。

★汚水処理施設の事例

※AIRBLUER目論見書より抜粋

★ごみ処理施設の事例

※AIRBLUER目論見書より抜粋

(2)生態環境整備
主に農村の水圏生態環境と鉱山採掘地区の生態環境に対する環境汚染を改善し、環境を回復させる。河川や湖の水質汚染に対して、汚染源の処理、下水道の整備、浚渫、有効微生物活性剤の投入などの手段を用いて水質を改善させる。鉱山採掘地区では鉱山採掘エリア及び崩壊した山体に対して生態環境の修復、投棄された固形廃棄物の処理、汚染土壌の修復などを行う。

★水圏生態環境の改善

※AIRBLUER目論見書より抜粋

★鉱山採掘エリアの環境改善

※AIRBLUER目論見書より抜粋

(3)農業生産による環境汚染処理
農業生産により発生する環境汚染の汚染源に対して処理を行い、汚染された耕地の管理と修復を実施する。農業汚染源とは農業生産活動において、化学肥料、農薬、養殖排水やその他有機・無機物質が農地から流出することで湖や河川などの生態系に対して引き起こす汚染や、農業生産により廃棄される家畜の糞便、籾殻やマルチフィルムが引き起こす汚染のことを指す。農業汚染源に対して緑の回廊、湿地浄化技術及び化学肥料・農薬の削減技術を用いて農地の窒素・リン汚染を軽減する。

★農業汚染源の改善

※AIRBLUER目論見書より抜粋

②環境施設の運営
業務委託の形態で農村にある汚水・排水処理施設の管理、メンテナンスを行う。国家の排水規定を遵守した管理を行い、委託サービス費用を徴収する。

③環境整備に関するコンサル
農村の生態環境、生産環境、生活環境の3大領域において顧客に対して、環境汚染整備技術コンサルや技術設計コンサルサービスを提供する。具体的には環境調査、リスク評価、フィジビリティスタディ、技術設計のコンサルサービスとなる。

④設備販売
AIRBLUERが自主開発した汚水処理設備を販売する。

2021年の4事業の売上は下記の通り。
①農村の環境整備プロジェクト:4.82億元(91.58億円)
<内訳>
(1)生活汚水とゴミの処理:1.48億元(28.12億円)
(2)生態環境整備:0.82億元(15.58億円)
(3)農業生産による環境汚染処理:2.52億元(47.88億円)

②環境施設の運営:0.18億元(3.42億円)
③環境整備に関するコンサル:0.05億元(0.95億円)
④設備販売:0.17億元(3.23億円)

ビジネスモデル

まとめ

中国はITなどの技術革新の話題が中心になりがちだが、それはあくまで都市部を中心に成長しているビジネスである。国土の広い中国では農村も多い、農村の環境インフラ整備は都市部と比較するとまだまだ遅れている。その分ポテンシャルのある市場と捉えることができるだろう。農村の生活環境や自然環境が改善されることで、中国全体の環境保護につながることが期待される。

参考記事

※AIRBLUERオフィシャルサイト
http://www.airbluer.cn/
※艾布鲁 首次公开发行股票并在创业板上市招股说明书
http://www.szse.cn/disclosure/listed/bulletinDetail/index.html?2c4b79cc-07f2-4c99-bdde-cfb44be30fa7
※“农村环境综合治理第一股”艾布鲁,年入5亿,已获129项国家专利
https://www.toutiao.com/article/7090500722613092878/?channel=&source=search_tab
※农村人居环境整治五年行动来了!2万亿农村环保市场再加码
https://www.toutiao.com/article/7038837374570316296/?channel=&source=search_tab
※中共中央办公厅 国务院办公厅印发《农村人居环境整治提升五年行动方案(2021-2025年)》
http://www.gov.cn/gongbao/content/2021/content_5661975.htm

筆者

Fukushima Gaku
大学卒業後、中国北京へ留学。
留学先では中国語アナウンサー技術を学習。
広告代理店、リサーチ企業などを経て、現在は消費財メーカーにて中国ビジネスに従事している。