先が読めない時代だからこそ取り入れたい“アジャイル経営”

アジャイル経営とは?

アジャイル(Agile)は“機敏である・すばしっこい”などの意味を持つ言葉である。アジャイルという言葉がビジネスの文脈で使われるようになったのは、ソフトウェア開発分野が始まりと言われている。ソフトウェア開発には要件定義・設計・製造・テスト・リリースを一貫して実施する「ウォーターフォール開発」という開発手法がある。この手法では予め実装する機能などを“途中で変更がない”前提で開発を行う。全ての工程を終えてようやくリリースされるので比較的長い時間が必要となる。しかし現代はVUCA時代と呼ばれるように変化が激しく将来の予測が困難な時代であり、ユーザーのニーズや必要な機能なども常に変化している。このような環境の中で“開発途中での変更がない”という前提は崩れつつある。またリリースまでに長期間かかることで市場やユーザーにニーズの変化をリアルタイムに捉える
ことが難しくなる。そこで提唱されたのが「アジャイル開発」という考え方である。アジャイル開発は短期間で開発テストとリリースを並行して行い、常に改善を繰り返す。これにより市場や顧客・ユーザーの意見を頻繁に取り入れることができ、より良いシステムを提供することが可能となった。
 
このアジャイル開発の手法を企業経営に取り入れたのが“アジャイル経営”という経営手法である。

アジャイル経営の特徴

システム開発の分野だけでなく、企業経営においても常に変化するためにスピーディーな意思決定が求められる。筆者も普段は消費財メーカーの従業員として中国ビジネスに従事しているが、中国の商品開発のスピードやパートナー企業の社内承認や各案件の意思決定のスピードの速さには驚愕することが多い。中国ビジネスに携わっていると「日本企業はとにかくスピードが遅い」と耳が痛いほど言われる。日本がグローバル市場で各国の企業との競争に勝つためには、“アジャイル経営”やアジャイル的発想がもっと必要なのかもしれない。
実際にアジャイル経営を導入するにあたって欠かせないのが“スクラム”というフレームワークである。スクラムとは「職務横断の小規模のチームを組織に作ること」を指す。スクラムという言葉はラグビーでフォワードが組む陣形から取っている。部門や職務ごとの縦割り構造ではなく、営業・マーケティング・開発など異なる部門のメンバーで3人~10人程度のチームを構成する。このチームのことを“スクラムチーム”と読んだりもする。少人数かつ異なる機能を持つメンバーが1つのチームで働くことで関係を密にし、ともに同じ目標に向かう。異なる部門のメンバーが集まって仕事をすることで、プロジェクトの各工程において各部門メンバーからの視点や意見をもとに改善を行うことができる。縦割りの組織であれば、他部署の動きなどが見えにくく、ある程度工程を進めていたのに急な変更や、工程のやり直しなどが発生するリスクが大きくプロジェクト全体の動きが遅くなりがちになる。それに対してスクラムチームは素早い動きを可能とする。しかし、スクラムチームがうまく稼働するにはチームメンバー各人の自主性・自分ごと化が非常に重要になってくる。仕事やプロジェクトの進め方はチームで自律的に決定することになるので、自主性がないメンバーが集まったチームだと全く物事が進まず経営上のリスクとなる危険性もはらんでいる。

アジャイル経営のメリット

アジャイル経営のメリット
少人数のメンバーかつ職務横断型のスクラムチームであればコミュニケーションも活発となり業務をスピーディーに行うことができるため、無駄な決裁や承認のプロセスを踏むことなく意思決定ができる。
また、縦割り組織でよく見受けられるトップダウン型の組織であれば、上層部から実務を行う現場に情報や意思決定の内容が伝達されるまでタイムラグが発生する。またそれを関連部署全員に周知させるまで長い時間を要する。逆も同じで現場からの声を上層部に伝えるにもいくつかのプロセスを得て上層部まで伝わる。このような組織では急な変化に柔軟に対応することが困難である。アジャイル経営においてはスクラムチームに権限が与えられるため、決裁や意思決定までのプロセスを大幅に短縮することができ、市場や顧客ニーズの変化に対して比較的早く対応することが可能である。またアジャイル経営においては組織内でどうすれば決裁や承認を貰えるかなどを考える必要はなく、常に“顧客”に目を向けることに注力できる。スクラムチームは顧客が今何を求めているのか、それに対して自社が提供できる価値は何か、競合と差別化できる点は何かなど社外へ目を向けて仕事をすることができる。従業員一人ひとりが自身の関わっているプロジェクトが市場や顧客にどのように見られていて、どれくらい受け入れられているかを実感できるため、従業員のモチベーション向上にもアジャイル経営は有効だと考えられている。

アジャイル経営の導入プロセス

アジャイル経営は変化への柔軟な対応や従業員のモチベーション向上に有効だと考えられているが、これまで縦割り型の組織がアジャイル型の組織にシフトするためには段階的な取り組みが必要となる。
■アジャイル経営導入までのプロセス例
1.経営陣や幹部などの上層部がアジャイル経営について理解を深める
これまで縦割り型の組織で運営してきた企業の場合、まずはアジャイル経営への理解やメリット・デメリットをしっかり把握する必要がある。単純に「今アジャイル経営が流行っている」、「他社がアジャイル経営で上手くいっているらしい」などの表面的な情報だけで判断するのは適切とは言えない。まずは上層部のマインドセットを根底から変える必要がある。

2.従業員へのアジャイル経営の理解促進・浸透を行う
上層部の理解が進んだタイミングで次はその下で働く従業員への理解促進・浸透を行う必要がある。アジャイル経営の知識だけを伝えるのではなく、
①自社がおかれている状況
②なぜアジャイル経営を取り入れる必要があるのか?
③そのためには従業員一人ひとりがどういう意識で業務に取り組む必要があるのか
など自社がアジャイル経営を取り組む理由を徹底的に浸透させ、従業員の意識改革が必要となる。
 
3.バーチャルでテストチームを運営する
社内全体でアジャイル経営に取り組む納得感が得られれば、次はテスト段階に移る。実際の組織図の中でスクラムチームを構成するのではなく、一度バーチャルでチームを作って運営テストを行う。チーム編成を行うときの人員選抜についても慎重に行う必要がある。スクラムチームはチームの自律性・自主性・自分ごと化が不可欠なため、ある程度経験・知識がある優秀な人材を選ぶ必要がある。テスト運営からあぶり出される課題や問題点に対して改善を行い、成功事例が蓄積された段階で横展開を行い徐々にアジャイル経営へとシフトしていくことが重要となる。

アジャイル経営の事例

■KDDI
KDDIではアジャイル型組織構築の推進のため「KDDIアジャイル開発センター」という組織を立ち上げた。実際のアジャイル型組織の成果としてauでんきのお客様アプリの開発などがある。KDDIアジャイル開発センターのうような専門組織をつくることで、社内への理解浸透を促進することができるとともに、ホームページなどでその取組を掲載することを通じて社外へのアピールとしても有効活用されている。

参考記事

※KDDIアジャイル開発センター
https://kddi-agile.com/